精神覚醒ノ肥後虎 ACT.34 S14
あらすじ
虎美は覚にミスコンに参加して欲しいと頼んだ。
これには快諾し、出ることを決める。
そして文化祭当日。
クライマックスに結果発表された。
初代ミスコンには覚が選ばれたのだった。
深夜1時の箱石峠。
Z33型フェアレディZが走る。
その後ろを青い軽自動車、H27A型ミニカダンガンが迫ってきていた。
「軽の癖に追い付いてくる!」
ダンガンはZ33を猛スピードで追い越す。
「くそ、軽に負けるとは情けなかなこつをしてしまった!」
Z33のドライバーは抜かれた悔しさからハンドルを叩く。
ダンガンはコーナーの向こうへ去っていった。
その風景を1人の女性が見ていた。
この前、虎美と覚を翻弄したスタリオン乗りの女性だ。
7月4日の午前9時。
とある工場。
わたくしはある人物に呼ばれた。
その人は水色の髪を肩まで伸ばし、緑のツナギを着たボーイッシュな女性だった。
「沙羅子代表。見て欲しい物があるぜ」
彼女は長野県にあるチューニングショップ、GREENGROOVEの永田潤という。
この店はわたくしの財団の傘下に当たる。
「何でしょうか?」
「このクルマだ。うちのデモカー2号機で、620馬力の3ローターロータリーを換装している。GREENGROOVE熊本支店設立記念に作ったんだ」
視線を隣にある黒いクーペ、S14後期型日産・シルビアに向ける。
このクルマはURAS製GTエアロとドラッグウイング、緑のボルクTE37を装着していた。
「実はこのクルマを、最近名を馳せている女子高生の走り屋にテストして欲しい。」
もしかして虎美!?
「ちょっと、あの子はまだ女子高生ですわ!? まだ4WDとFFしか操縦しておりませんし……620馬力のFRを運転させるのは無理があります」
「だが、そのクルマを操縦できたら……彼女の成長に繋がるかもしれないぞ」
夕方5時、うちらは部活動の最中だった。
部室に複数の男子生徒が来る。
「ミス麻生北の飯田さんいますか? 僕と一緒に撮影してください」
「どうぞ」
カメラマンはうちが務めた。
飯田ちゃん、平日でもすごく人気だな。
撮影が終わると、彼らは部室から去っていった。
今度は顧問の小日向先生が来る。
「加藤、ある人物から用だ」
「用って?」
「サラマンダー財団の竜宮沙羅子代表からだ」
部室の外へ出ると、その方と対面する。
「お久しぶりです。虎美」
「こちらこそです」
沙羅さんは視線を隣にある黒いクルマに向けた
車種はS14後期型日産·シルビアだ。
「実は虎美。このクルマをテストして欲しいのです。620馬力のロータリーを搭載したS14の」
馬力を聞くと……うちは驚愕した。
「無理ですたい。女子高生のうちに620馬力のクルマなんて……」
「このクルマは某ショップの新しいデモカーです。オーナーがあなたの腕を見込んでテストドライバーに指名したようです。高出力のクルマの運転はいい修行になりますよ」
仕方なく受け入れることにした。
「あなたがS14に乗っている間、エクリプスを預かってもよろしいでしょうか?」
「よかです」
沙羅さんにキーを渡し、うちのエクリプスに乗り込んで帰っていった。
学園ナイターレースの時のFTOと同じ流れだ。
あの時はS.S.Tという全身タイツを着せられて操縦したもので、 今ではテクニックが向上したいい思い出だ。
けど、今回はそれを着ずにハイパワーなS14を乗りこなす。
ひさちゃんが来る。
「どしたん? 虎ちゃん」
「こんクルマを運転して欲しかと頼まれた」
「速そうなクルマたい」
「うちにできるんやろうか?」
突如、ひさちゃんはしりもちをついた。
「痛か……」
「大丈夫?」
「大丈夫ばい」
ったく、ひさちゃんは運が悪いのだから。
夜、箱石峠。
沙羅さんから託されたS14を操縦した。
うちのエクリプスより1.5倍のパワーのあるクルマは直線では速かった。
しかしうちは怖かった。
「アクセルば踏めん……」
パワーを恐れたうちはペダルを床まで踏めなかった。
620馬力は高すぎる。
全開まで走らせると事故を起こす恐れがある。
コーナーに突入する。
サイドブレーキを引き、ドリフトさせながら攻めようとした。
「うわッ!」
620馬力のFR(フロントにエンジンを置き、リアを駆動する駆動方式。安定性より旋回性能が重視されている)は安定しない。
ドリフト状態に入っていたS14はスピンする。
うちには乗りこなせないのか?
クルマと共にスタート地点へ戻ってきた。
自動車部のメンバーだけでなく、顧問の他に時田さんもいる。
「お疲れです。虎美お嬢さん」
時田さんがS14の近くへ来た。
クルマから降りて会話する。
「うちはまだこんクルマば乗りこなせん……」
うちらは飯田ちゃんの方を向けた。
相変わらず人気だな。
愛車のSVXと共に多くの男性ギャラリーに囲まれていた。
中には彼女とはじゃんけんする者もいた
小日向先生がうちに訪ねてくる。
「加藤、ギャラリーがおらんようになったらインタビューしてもよかか? 部員の飯田がミス麻生北になったわけやし、部活をPRせんといかんし……そん動画はホームページに載せるけん」
「よかです」
40分後、飯田ちゃんを囲むギャラリーが去ると自動車部のインタビューが始まった。
「はい、麻生北高校自動車部です。うちが部長の加藤虎美です。ここばホームコースとしております」
「部員の飯田覚です」
「同じく森本ひさ子です」
「うちらはいつも、ここば走っております。こんコースは前半が上りで、後半が下りとなっとるコースです。学校が終わったらすぐに……」
インタビューの最中に、ボディキットを身に着けた青いミニカダンガンが乱入してくる。
ドライバーは中肉中背の男性であり、ジェイソンみたいな仮面とピエロのような帽子を身に付けていた。
そのクルマとドライバーには赤と水色のオーラが輝いている。
覚醒技超人だ。
「速い奴はいねぇのか?」
乱入者が現れたため、せっかくのインタビューは中断する。
「お嬢さんたちは下がってください。俺がいるぞ」
「なら、挑んでやる」
ゼロクラとダンガンがスタート地点に並ぶ。
2台は一斉にスタートし、前者が先行した。
しかし、バトルの結果は散々だった。
それを行っていたクルマたちが戻ってくる。
「大した相手じゃあなかったな」
「くそ……」
時田さんが敗北した。
「次の相手を探すか」
と言い残し、ダンガンは去ろうとする。
「待て、うちがおるばい!」
「お前か……オーラが見えるから覚醒技超人だな」
「うちが挑んだるばい!」
うちはダンガン乗りに対して淡河を切る!
「虎美、相手は時田を倒すほどの走り屋よ! あと今のクルマじゃあ乗りこなせないから負けるわ!」
「今日はもう遅か! 今度にした方がよか!」
「断る理由はない……」
こうしてうちと謎のダンガンのバトルが成立した。
それぞれのクルマに乗り込み、スタートラインに並ぶ。
「虎美、ピーキーなクルマで勝てるのかしら……」
「俺の敵を取ってくれたらいいのだが……」
「あのクルマは……噂の」
小日向先生はダンガンのことを知っているようだった。
「ダンガンのことを知っとるんですか?」
「最近現れた速か走り屋ばかり狙う輩たい」
うちは今乗っているのは、未だ乗りこなせていない代車のS14。
果たしてピーキーっぷりを克服できるのだろうか?
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