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東アジアのカトリック建築 Phát Diệm


フランス人芸術家が絶賛したベトナム建築

 ベトナム近代藝術を研究していたなかで、ファッジェム大聖堂の存在を知りました。ハノイにつくられたインドシナ美術学校の校長であったヴィクトール・タルデュー(詩人 ジャン・タルデューの父)が、このファッジェム大聖堂に大きな感動を受け、これをモデルにベトナムの藝術(とくに建築)を創出していくべきだという旨を述べているのです。タルデューは、ベトナムの藝術をつくっていくためには、フランスのコピペはダメと言っています。かといえども、ベトナム古来のものをそのまま盲目的に踏襲していくのもよくないとも。進化を求めながらベトナムらしさを求めていこうと考えていました。「ファッジェム大聖堂のようなものを手本に」と。

 そこで、私は、このファッジェム大聖堂を見ないでベトナム藝術の論文を書き上げるわけにはいかないと思い、2018年に足を運びました。西洋では「第一の藝術」といえば、それは建築です。「すべての藝術は建築の派生」と考えられているので、この大聖堂に近代ベトナム藝術の鍵があると思ったのです。

入口部には、下のような大きな池があり、キリストが両腕を広げて歓迎してくれていますが、なんだか、大聖堂ではなくて古刹巡礼にやってきた雰囲気です。

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神父 陳文六 & 名もなき石工、木工たち

 ファッジェム大聖堂は、Le père Trân Van Luc  (陳文六 神父)が建立したとされています。Armand Olichonの書いた Le Père Six を読んで、ドラマティックな人生を歩んだ陳文六さんは安南の副王だったと知りました。とまれ、この陳神父の監督のもと、四半世紀(1875~1899)の時を経て、沼地だったこの地に、東南アジア最大のカトリックの施設が出来上がります。

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何がすごいといえば、石工や木工たちの技です。陳文六さんは、すでにカトリックの教会や大聖堂を、どこかで目にしているいるはずです。でも、教会を見たことがない現場で実際働いていた数多くの石工や木工たちは、どのようなものを想像しながら作ったのでしょう。この時期のベトナム、建築の設計図などがあったのでしょうか。写真の鐘楼(方亭)は、中央てっぺんに十字架こそありますが、一瞥したところ、仏教の鐘楼そのまんまです。ゴ~ン、という鐘の音もお寺の除夜の鐘そのものでした。私は、鐘のあるところまでは上らなかったのですが、ハノイ歴史研究会さんによれば、梵鐘にはラテン語と中国語で刻印されているそうで、四隅の塔の頂の人物は、袈裟をまとった聖人(マルコ、ルカ、ヨハネ、マタイ)とのことです。http://hanoirekishi.web.fc2.com/phatdiemkyoukai.html (ハノイ歴史研究会)

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ベトナム的なマニエリスム世界、混交世界

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本堂、もとい、大聖堂は、ご覧のように、木造建築です。赤い漆と金箔で覆われた祭壇は圧巻です。実は、アメリカによって壊されて修復しているようですが、それでもマニエリスム的な、凝りに凝った表現はベトナム的だという印象をうけました(かつて、知識人ファム・クインがベトナムの藝術はマニエリスムに陥りやすいと言っていたのを思い出しました)。水色の天井に、天女と天使の混在する世界。ずっと、ずっと見ていたかったのですが、ミサが始まって追い出されました。

とりみんぐ

欄間(?)みたいなところに天女様がいるの、見えますでしょうか。


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こちらのチャペルは、たしか本堂の西に位置する聖ヨセフ礼拝堂でした。木工の技が光る、粛然かつ清楚な礼拝堂でした。レースのような透かし彫りのモチーフはやはり薔薇だったのかな? ロザリオ教会だけに。

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中華世界と聖母の心臓

上の写真と下の写真は、「石の礼拝堂」で、すべて大理石造り。鳳凰・虎・竹といった中国由来のモチーフがあり、仏教や道教、キリスト教世界が混交する世界があります。

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祭壇の台には、聖母の心臓も彫られていました。薔薇の花々に囲まれて! 「あなた自身も剣で心を刺し貫かれます」というシメオンの言葉が頭をよぎります。周囲は、相変わらず、お寺の随所に用いられている宝相華的な装飾。この祭壇の側面には蓮のモチーフもありました。

風水の構図:北に山、南に水

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敷地の最後方には、聖母マリアにちなむ「ルルド山」、キリストの誕生地「ベツレヘム山」、処刑された「ゴルゴタ丘」もあります。写真は、たしか、ルルド山です。中国にあるような奇岩庭、太湖石のような感じです。

これをみたときに、ようやくピンときました。この大聖堂敷地内が風水によって配置されていることを。入口部にあった「水(池)」と、最後方の「山」。そして、東西に置かれた礼拝堂。風水で言う、一番重要な「穴」の部分に大聖堂。山から発する「気」は、南の「水」へと流れ、この敷地自体が最高のエネルギーを発するようにデザインされている。だとすれば、私が礼拝堂でみた「鳳凰」や「虎」のほかにも、亀さんや龍さんも何処かにいて、四神がこの大聖堂自体を守っているのかもしれません。もう一度行きたい。

プレゼンテーション1

モチーフやフォルムの越佛折衷ばかりに気を取られていましたが、マクロな眼で俯瞰しないと見えないものがあるなと思いました。

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