見出し画像

SPAC『アンティゴネ』空間デザインノート(1)「いざ、法王庁」

2016年夏、私はアヴィニョン演劇祭真っただ中のアヴィニョンにいた。目的は翌年のフェスティバルにSPACとして参加するための会場の視察である。同行したのは、ク・ナウカ創設期からの宮城さんの盟友であり、私にプロの舞台のイロハを仕込んでくれたテクニカルスーパーバイザーの堀内氏だ。候補となった会場は、法王庁中庭とサン・ジョセフ高校中庭の2箇所だった。2人は両会場での演目を視察して、空間的・技術的な見地から、どちらの会場がSPACにとってベストな選択なのかを考えるという役割を負っていた。

実のところ、私の気持ちは初めから「法王庁中庭」に向いていた。既に2014年に、同フェスティバルを代表する会場であるブルボンの石切り場で、『マハーバーラタ』という大きな成果を上げていたSPACが次に挑戦すべきは、フェスティバルの本丸、法王庁中庭をおいて他にない、と少々気負いながらも思っていたのだ。
 それは、世界遺産にも指定されているアヴィニョン法王庁の中庭。13世紀半ばからおよそ一世紀ほどかけて増築を重ねた、カトリック教皇(法王)のための宮殿の、大小二つある中庭の内のひとつ(大きい方)である。1947年から始まった演劇祭のメイン会場として利用され、毎年夏になると、世界中の演劇ファンが押し寄せる。世界中の演劇人が一度は挑戦してみたいと思っている場所だ。沸き立つ心と共に私は法王庁を訪れた。

ところが、実際にその場所に足を踏み入れた瞬間、私は厳しい現実に直面することになった。

~つづく

「続きを読みたい」と思っていただけ方はハートボタンをお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?