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SPAC『アンティゴネ』空間デザインノート(9)「『アンティゴネ』?」

2016年8月、アヴィニョン視察から帰国した私は静岡に向かった。

SPACが翌年の演劇祭に招待されるにあたっての会場の選定、そしてその会場で何を上演するのか、という打ち合わせを宮城さんと行うためだった。

そもそも、上演会場と上演作品、どちらが先に決まるのか?これはニワトリと卵の様な関係で、一概にどちらが先とは言えない。時には会場が先に決まり、その会場に合わせて作品を選定することもあれば、その逆もある。

今回は、会場と作品の選定を、さまざまな想定を勘案した上で同時に決めてしまおう、という流れになっている様だった。「様だった」というのも曖昧な表現だが、実の所、視察にあたっては事前に打ち合わせなどはしておらず、ほぼ真っさらな状態で候補の会場を見て来て欲しいという話だったのだ。

とはいえ、会場に関する私の腹は既に固まっていた。「法王庁一択」である。石切場での成功を経たSPACが、守りに入る事なく更なる挑戦をすべきだというのが私と堀内さんの合致した意見だった。

となると、問題は何を演るのか、である。

打合せの議題は自ずと、上演作品の話に向かっていった。

「法王庁で勝負する事ができるのなら、『アンティゴネ』をやってみたいんだよね。」

宮城さんの言葉に、私はとても驚いた。

よりによって・・・『アンティゴネ』?

法王庁中庭の、あれだけの巨大な空間を存分に使えば、相当ダイナミックなスペクタクルが可能である。その為の「秘策」も既に考えてあった。

しかし『アンティゴネ』は、ギリシア悲劇の中でも、いわゆるスペクタクルとは程遠く、むしろ動きが少なく、膨大な台詞による対話と独白が主題となった題材である。それをわざわざあの巨大な空間で上演しようというのか?

しかも、『アンティゴネ』は数あるギリシア悲劇の中でもとりわけフランスでの上演が頻繁にある人気の作品である。つまり過去にありとあらゆる演出での上演が為されており、フランス人の目が肥えている。すなわち「日本人である我々がフランスで『アンティゴネ』を上演すると言う事は、フランス人が日本で『忠臣蔵』を上演する様なもの」って言ってませんでしたっけ、宮城さん?

疑問だらけの私は単刀直入に尋ねた。

「何故、法王庁で『アンティゴネ』なんですか?」

〜つづく

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