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「MIU404」のBlu-rayBOXを買った話②


①はこちら。


シマチャンを好きなことと綾野さんの気持ち悪いおたくであることは矛盾しない。古事記にもそう書いてある(ない)。こんばんは。

予告通り②では綾野剛as伊吹藍、桔梗たいちょとハムちゃん、外国人労働者問題の話をしたいと思います。
たぶん見返すたびに新たな発見があるので、見返して発見したごとに記事が増えますがとりあえず今回で一区切りとしたい。いやーBlu-ray買って良かったね。布教もしやすいし。

2個目の記事なのでさくっとはじめます。


④伊吹藍としての綾野剛
伊吹やってるときの綾野さんのきゅるきゅる具合ったらねー。調子良くなっちゃいますね。
一応あれで挨拶はできる人で、初対面の志摩一未に初めてなんでよろしくお願いしますって言ったときの良い笑顔が宛らバラエティに出るときの綾野さんだった。
ロングインタビューのときも見た目は伊吹藍のガワで、口調や中身が綾野さんの落ち着いた物腰だから脳が混乱する…綾野さんの演技してないときの素の声音、低くて落ち着いてて言葉を探り探りで、時折単語の力が強い言い回しをするのが良い。バシッと言ってほしいところをバシッと強い言葉で断言するのがうまい。ベースの部分の優しくて穏やかな雰囲気に添えるように、アクティブな雰囲気をほんの少し織り交ぜるのがたまらない。
伊吹藍を演じている綾野さんはこのアクティブ要素を意図的にマシマシにしてて、なんか後に語ったところによると少年マンガを役作りの参考にしたとのことなんですけど、ほんと「5歳児を心に住まわせたままの正義感の強い成人男性」っていう難しい役どころをこの再現度でやってのけるのが半端なくすごいと思います。1話の見どころは「道交法違反!」って叫ぶとこです。あそこカッコよくて好き。
あと走るパートがほんとにめっちゃ走ってて最高によい。フォームが綺麗。頭の高さがブレてない。志摩一未が横転した車から出てきて「ああ、『足が速い』」って納得しながら言う、あの背中。あの説得力。

なんか書いてたら見たくなったんで見てきます。

(閑話休題)
「走る」人である伊吹藍を演じるにあたって、ほんとにめっちゃ走って収録に臨んでくれた綾野さんには感謝しかない。7話のアクションパートもそうなんだけど、身体能力が高くて考える前に体が動くっていうキャラ設定は、組むのは簡単だけど動かすのはめちゃくちゃ難しいと思う。殊に映像作品というのは実際に動いてる画を撮るわけで、動いてる画は生身の人間が動いて撮るわけで、いわばキャラクター設定の根幹に関わるところをこの上ない説得力でもって表現してくれたことに圧倒的感謝があります。いや、プロだから当たり前なんだけど、細かい「こうしたほうが伊吹っぽいかな〜」みたいな工夫を感じるんですよね。それはプロだからって誰でもできることじゃないし、突き詰めた先にあることだと思うので、ああいう「この演者でなければこのキャラクターが成り立たなかった」を見せつけられると幸福度が段違いです。伊吹が綾野さんでよかった。綾野さんが伊吹でよかった。役の説得力がつよい。
「綾野剛」で検索すると「タバコ」がサジェストされるくらいタバコの似合う綾野さん、あんまり私生活で吸ってそうなイメージがないのは走ろうと思えば伊吹くらい走れてしまうからかな……もうすっかりアスリートでも見るような気分で見ています。
吸ってそうでもあるし吸ってなさそうでもある。どちらにも固定できない、その流動性が綾野さんの魅力かもしれない。でもあの肌の潤いを見てると私生活でヘビースモーカーなのが全然信じられない。ね〜どんなケアしてるんだろうね〜

8話9話の伊吹は全体的に見てられない感じになってて、ひとりの背中が小さくかなしく、私の方まで凹みそうになったけど、10話のワーキングスペース捜査で薬物やってるのを摘発するシーンは諸々の事情で私がときめきました。山本もね……クスリはゆるさなかったのよ……(訳知り顔の女)
直感行動型で、しかし許せない基準を自分の中に明確に持ってる。総じて伊吹が警察官らしい言動をするのに弱い模様。屋形船の中で「全員動くな」って言うとこもカッコよかったな〜。
しかし9話で澤部のことボコボコにしてたけど、あれ始末書何枚書いたんでしょうね笑

前回の記事で2期やるとなるとこんな完成度で難しそう〜みたいな与太話をしましたが、知られざる伊吹の過去、8年間の奥多摩ライフをスピンオフで出してもらってもうちらは全然構わないんで、むしろ払わせてください。制服警官時代、靴の仕様が走りにくくてイヤだっただろうな。


⑤桔梗隊長とハムちゃんと青池透子の話
星野源と綾野剛によるW主演のバディが話題になりがちですが、今作絶対に忘れてはいけないのが桔梗さんとハムちゃんのシスターフッドで、もちろん警察官と被害者(情報提供者)という立場の違いはあるんだけど、こっちの2人だけでワンクール1作作れるくらいの密度はあるな…と確信しちゃった
「アンナチュラル」でも東海林とミコトの良すぎる絡み(配役もあって! 尾頭さんとカヨコ…)が取り沙汰されてたけど、今回の桔梗とハムちゃんは置かれた立場もあって手を取り合う重みと必然性が桁違いだった。
製作陣の中央に多く女性が揃い、言うなれば物語の方向性を決める立ち位置を女性が占めているため、女性たちの描写に「うっそやんそれはないわ」という誤魔化しが一切ない。いや、本来製作者の置かれた立場や性別のバイアスによってキャラクターの像が歪むようなことはあってはならないのですが、「視聴者の共感」を狙った結果性別バイアスがやや強く作用することがままあるため、フィクションには都合の良い女や都合の良い男がたくさん出てくるという構図。サービスショットもなんか増えちゃうという仕組み。それ自体を批判する気はないけど、今の時代はそれではダメで。というか、○○向けとカテゴライズすることが足枷になることの方が遥かに多い時代に、その生存戦略は却ってまずいんじゃないか、という商業的な事情は、私みたいな素人にもわかるところではあって。
桔梗さんとハムちゃんが夜に家事と仕事をひと段落させて、お酒を飲みながら喋ってるシーンの眼差しがすごく良かった。オフモードの、人目を意識しない、親友というのとはまた違う、しかし生計を共にする、桔梗にとっては「守らなければいけない人」、ハムちゃんにとっては「恩人」。お互いへの立場を超越した労りの感情が見える名シーンで、あの1コマがあったことによって桔梗家の解像度がグンと上がることになった。さらに「ずっといていいし、この家から嫁に行ってもいい」という言葉、あれをしれっと言うのもスゴイ。取ってつけたような綺麗事に聞こえないのもスゴイ。桔梗さんならそう言うだろうな、というキャラクター性の掘り下げと説得力、脚本もさることながら麻生さんの持ってる雰囲気のなせる技だなと思う。麻生さんといえば「夕凪の街 桜の国」という映画で原爆症に苦しむ女性を演じたときの空気感がめちゃくちゃ好きで、サバイバーズギルトと死の恐怖の両方に苛まれる難しい役を全身で表現されてたのがすごく印象的。ブルーリボンとか色々取ってたはず。なぜかあまり話題になってないけど、今なお広く見られてほしい映画でもある。
そんな麻生さんの独特のオーラが桔梗さんという、ノンキャリ叩き上げで警視、隊長にまでなった女性の絶妙な品の良さ、ふとした鋭さを際立たせていて、これはこの人以外ないわという最高のキャスティングなんですが、ハムちゃんを演じた黒川さんもまたこの上ない最高のキャスティングだったと思う。たしかにきゅるっとしてる。きゅるきゅる魔神。最上級のきゅる。見た目もさることながら存在が愛くるしい。それでいて、エトリの追及に怯えるときの見開かれた目から伝わる恐怖心、絶望の表象。うまい。守りたくなるわ。わかるわ。こんな目されたら桔梗さんでなくても放っておけない。だし多分、家族の状況など色々鑑みて、桔梗さんにしかその手を取れる人がいなかった。

実はシリーズ通して一番好きな話かもしれない4話(たぶんみんな好きだろ! 高速道路の分岐点で鳥肌立ったろ)、まだ救いきれていないハムちゃんと、救ったはずだったのに救えなかった青池透子の対比が凄まじいし、従来のフィクションにもあまりフォーカスされないできた「なにかを守りたい、助けたいと思う女のすがた」を克明に描いた結節点だと思ってる。桔梗さんにとってもそうだし、青池透子にとってもそう。立場の違いが弱者(手取り14万、暴力団との繋がりを断ち切れない)と強者(管理職、公権力を行使する警察官)を分けるが、何かを守りたい気持ちに貴賎も正誤もない、その挑戦が衝撃でもあり2020年に製作された意義を感じる尊さでもあった。女性は自分の意思で誰かを救っていいし、誰かを守るために身を粉にしても良い。それは家族であってもなくてもいい。ヒロイズムは男性にのみ美化されるものではない。当たり前のことなんだけど、良質なフィクションで見せられると感動も一入だと思った。守られてる立場のハムちゃんが、守りたい助けたい、と成川のことを大人としてサポートしようとするのもたいへんよかった。ハムちゃんのこういうところが、ありがとう一緒に戦ってくれて、と死にかけながら桔梗さんに告げるところにも表れている。つくづく作り込みが丁寧、、キャラクターに矛盾がない。

ちなみにこれはみんなそうなのかわかんないんですけど、AmazonでBlu-rayBOX買ったら広告が2枚入ってて、1枚はユーキャンのいつものやつ、もう1枚はこの4話で出た広告の元ネタになったと思しき団体の寄付を呼びかけるものでした。偶然にしては出来すぎているし、購入者にこれほど効果的な広報戦略もないわな…と感心するなど。なにかガイドラインでもあるのかな。パッケージの外、箱に同封されてたので、販売元からの頒布物ではなさそうではあるが。
自分も別の活動ではあるけど募金を通して支援しているものがいくつかあって、募金はほんと文字通り「目に見えない徳を積む」行為で見返りとかは一切ないんだけど、関心を広げて世界に目を向けるのに、数千円の授業料は安いほどだと思っている。
なお詐欺には注意。募金をダシにしたスリにも注意。日本ではあんまりないけど、自分がベルリンに住んでいた頃はしょっちゅう狙われました。東アジアの人間は狙われるんだよなあ。世界はまだまだ難しいことがたくさんある。



⑥外国人労働者について
自分は「池袋ウエストゲートパーク」という小説も昔からめちゃくちゃ好きで(MIUの話が好きな人は結構楽しめると思う、内容的に。オススメ)2007年くらいに発表されたシリーズの中で中国人労働者の話を読んで、この世のものとは思えないくらい憤りを覚えたんですよね。で、なんとなくその問題意識がずーっと自分の中にあって、アジア間で搾取する構造について、またはそれと並行としてヨーロッパとアフリカの間で発生している搾取について、どうしても納得できない部分があった。資本主義の構造的欠陥と言ってしまえばそれまでなんだけど、人道的にちょっとなと思うところが多かったし、恵まれてる側に属する人間がこうした問題に対して思考放棄したら終わりだろっていうのもあって、折に触れて話題にする必要性を感じた。
5話のベトナム人技能実習生の話題はまさにそれで、物価の違いからこうして日本に来て職を得る人は多いんだけど、利潤は差異から生まれるものなので、どうしたって得をする人間が出てくる。そのぶん、更に大勢の人が様々な形で損をする。水森の慟哭は涙なしには見られなかった。水森が見てきた地獄、送り返してきた人たち、使い捨てられて生きていけなくなった人もいただろう、それに対するやり切れなさ、のうのうと生きている先進国の自分への罪悪感。
この話を4話の後に持ってくるのもすごい。そんな世界的構造問題に日本の警視庁、初動捜査の担当者がどう絡むのかというともちろん限度はあるんだけど、志摩には志摩なりの正義があって、いま目の前で起こってる事件をだからといって見逃すつもりもなく、自分の仕事を淡々とやってる。
自分の仕事を淡々と続けられる幸せ。
苦しみながらではあるが、職務を全う出来る幸せ。
前の記事で志摩は幸せそうに仕事してないって言ったけど、本当に幸せじゃないというよりは、幸せそうにする仕事ではない(誰かが不幸にならないと必要とはされないから)という志摩なりの職業召命観だったら更に良いなと思いました。その召命観がいちばん浮き彫りになったのが、5話の水森に「しらねーーーよ」って言うシーンと、6話全体を通して。

働くとは、仕事をするとは、生計を立てるとは、見知らぬ土地で生きるとは、夢を抱いて海を渡るとは、助けるとは、救うとは、守るとは。
色んなことを考えさせる脚本、演出だったと思います。
こうしなきゃいけないああしなきゃいけない、こう考えるならこれが正解、というのを提示しない点がいい。色んなものの考え方があることと、この作品が取り扱ったテーマが問題として挙がることは充分、パラレル的に存在し得る。
ただ一貫して、「水森がやったことはルール違反。法で裁かれる必要がある」という姿勢をぶらさなかっただけで大正解なんだと思う。



結局このへん書きながら見返してたら思ってたより長くなってまた全然「こんばんは」って時間じゃなくなってる笑
MIU404、とにかくとても良いドラマでした。
11話あるドラマは2回に切って感想言うくらいでちょうどいいね、分量的に
またそのうちなんか気づいたことがあったら第3弾書くかもです。

次は〜〜〜何について書こうかなあ
感想言いたいものはたくさんあるんですがテーマ選定が常に悩ましいところ。
なんか考えます。

またよろしくどうぞ。では。

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