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豚の膝を買ってしまった

僕の家には今、豚の膝がある。

話は先週に遡る。スーパーにて、お肉コーナーを物色するもめぼしい物がなかなか見つからず、棚の奥の奥の方へと手を伸ばしてみると、鮮やかな色をした新鮮な赤身肉を発見。迷わず購入した。

家へ帰り、冷凍保存するために開封。買う時には見えなかった部分が露わになり、僕は言葉を失った。真っ赤なお肉のその裏側は、皮膚だったのだ。浅黒い何色とも言い難い濁った色をした皮膚。細短い毛が散見され、それに、なんかシワシワしている。
パッケージに書かれたハンガリー語を翻訳アプリで調べてみた。
豚の膝
そう書かれていた。
僕は驚かなかった。誰の目から見てもわかるくらい、それは豚の膝そのものだったからだ。とりあえずラップに包み、冷凍庫にしまい込む。
これを解凍する日は来るのだろうか。

豚 膝 レシピ
で調べてみた。
二、三件ヒットしたが、そのどれもが調理時間3時間超えだった。
その中の一つをじっくり見てみると、まず下ごしらえをして一晩寝かせる、とある。
いや膝のくせに生意気だよ。
わざわざ時間かけて料理してあげようと思って解凍したらあ、やっぱもうちょい寝かせて!てか?
これがスペアリブとかVIP系のお肉さん達だったらわかる。美味しさが保証されている彼らのために一晩待ってあげる心の余裕は僕にだって全然ある。調理時間が長くたって何時間でも付き合うさ。美味しいんだもの。
しかし今回の場合、相手はお肉コーナーの隅っこで寒そうにうずくまっていた醜い膝小僧くんである。それを拾ってあげた僕に対してその態度はないよ。

実はすごく美味しいのかもしれない。でもなんせ見た目が膝すぎる。標本だったら褒められてるくらい生々しい。解凍する勇気は今のところ無い。僕の心は狭いんだろうか。膝を肯定的に受け入れられるだけの度量が欲しい。
優しくなりたい。
自分を変えられるその時が来るまで、もう少しその皮膚をシワシワさせて待っていてほしい。


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