【つぶやき絵本書評】『たのしいふゆごもり』(福音館書店)
【つぶやき絵本書評】は、
絵本論や絵本研究の視点をほんのりまじえながら、
ひとりごとをつぶやくように絵本を紹介していく記事です。
気まぐれに絵本を選んでつぶやいていきます。
秋ですねぇ。
職場のまえの木々もすっかり紅葉して、
道端にはおちばがいっぱい。
さて、この季節になると
本棚からかならず引っぱり出してしまうのが、
『たのしいふゆごもり』(福音館書店 )。
『たのしいふゆごもり』
片山令子 作 片山健 絵
福音館書店 1991年
森に住むくまの親子が、冬眠のしたくをするおはなしです。
秋の森に出かけたふたりは、
木の実を拾って、はちみつを採り、
川で魚をつかまえ、綿を集めます。
ともだち親子に会って遊んだりしながらも、こぐまもがんばってお手伝い。
うちに帰ったら、
採れたての木の実や魚がいっぱいの夕ごはんをいただきます。
食後、綿で枕を作るおかあさんぐま。
ーと思ったらおや?
なにかを作り始めました…。
***
子どもの頃、大好きでなんども読んでもらった絵本。
片山令子さん と片山健さん コンビの作品は、
いつも 絵 と 詞(ことば) ※ が絶妙に調和していて
とてもすてきです。
詞作家 と 画家 という
それぞれがプロフェッショナルだからこそ、
2つの要素がきちんと寄り添い、補い合い、活かし合っています。
※詞(ことば)… 絵本は基本的に、絵と文章からなるものです。絵本の文章のことを 詞(ことば) といいます。
詞は会話によって登場人物のキャラクターを、
絵はいきいきとした自然の風景や空間の広がりを、
それぞれ伝えてくれるのです。
健さんの鮮やかでおおらかな点描が
わたしはたまらなく好きです。
この筆遣いは、なんとなくゴッホを彷彿とさせるような。
まさに、金色にかがやく秋の森の "印象"派 という感じ。
秋晴れの空のもとにひろがる秋の森や
しんしんと画面一杯に降る雪など、
見開き全面※ をつかって描かれた絵には、
思わず吸い込まれそうな力強さがあります。
※ 「見開き」とは、本のページを開いた時、向かい合う左右の2ページのこと。この場合、その左右2ページ全体にわたって絵が描かれていることを意味します。
いっぽう、
令子さんの詞からは、親子の関係性が伝わってきて、じんわりします。
母ぐまに全幅の信頼を寄せ、
その庇護のもとでのびのび育っているこぐま。
おおらかでたくましく、優しく深い愛情で包んでくれる母ぐま。
何かにつけて「あたしがとった○○」と自己主張する、
自我がめばえまくりの幼いこぐまのことを、
きちんと尊重して「あなた」と呼んでいるのもすてきだなぁ。
うまく言葉にできないけれど、
いわゆる"おかあさん"という、
多くの生き物にとってよりどころになる存在のすべてが、
ここに凝縮されている感じがしますね。
いくつになって読んでも、なんだか胸がきゅうっとなるのです。
そうそう、
奥付※ に書かれた英訳タイトルについて。
" LITTLE BEAR, HAVE A HAPPY WINTER SLEEP! "
邦訳すると、
「 こぐまちゃん、春までおやすみ 」
みたいな感じかな? (ちがったらすみません…)
うん、これはこれですてき!
なんて、ひとりで発見してニヤニヤしていました…。
※ 奥付(おくづけ) … 本の本文が終わった後や巻末に設けられる、書誌に関する事項が記述されている部分。(Wikipediaより) タイトルや著者、出版社などが書かれている部分ですね。
ストーリーに派手な起承転結はないけれど、
穏やかで、安心感とちょっとの羨望と
思慕が詰まっていて、
なにより秋の豊かな自然にとっぷりと浸れる、
秋の読書にぴったりの1冊です。
寝る前など、
親子でゆったり味わってほしいなと思います。
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