箱根駅伝2021 なぜ想定不可能な展開に陥ったのか

「ピコンピコン鳴らしてくるわ」

昨年2020年の箱根駅伝で何人かの有力選手が走り出す前に言っていたセリフだ。ピコンピコンとは箱根のテレビ中継で区間新記録が出たときに鳴る効果音のこと。昨年はいわゆる厚底シューズの影響もあり、実に13回ものピコンピコンがテレビに響いた。しかし、今年の箱根は2区で東京国際大のイエゴン・ビンセントが区間新を出したものの、その後は一度もチャイムは鳴らなかった。

いきなり話はズレるが、昨年のそのビンセントの走りを振り返ってみる。
ビンセントは3区、21.4kmを走り、59分24秒。彼らは300m走るのに1分はかからないから、ハーフマラソン(21.0975km)だと、58分40秒程度か。当時のハーフマラソン世界記録が58分01秒、日本記録が1時間ちょうど。思うにハーフマラソン以上の距離のレースで国内最速だったのではないかと思われる。なので、もうちょっと大きく報道されても良かったと思うのだが....

話を元に戻して、今年はいわゆる厚底2年目で、まだ記録の伸びる余地はあったと思うし、事実、昨年(今シーズン)の全日本大学駅伝でも14個の区間新記録が生まれている。にもかかわらず、箱根での区間新記録は僅かに1個。これは何故なのか?

その大きな要因は箱根の1か月前、12月4日に開催された日本選手権だと思われる。この大会、いつもは9月に行われていたが、長距離種目は好記録が出るよう、暑い時期を避けて、昨年は12月に開催時期が移されたのた。

日本選手権は実業団ランナーが多く出場するが、当然学生トップクラスのランナーも参戦し、好結果が多数生まれた。当然、彼らは箱根でも区間新記録を出し得る訳だが、1か月前に真剣勝負をした反動か、ほぼほぼ力を発揮できなかった。

詳しく見てみよう

1区 塩澤稀夕(東海大) 区間2位
  三浦龍司(順天堂大) 区間10位←参加予定だったが、ケガのため日本選手権は出走せず

2区 池田耀平(日体大) 区間3位(日本人トップ)
  田澤廉(駒沢大) 区間7位
  太田直希(早稲田大) 区間13位

3区 中谷雄飛(早稲田大) 区間6位
  吉居大和(中央大) 区間15位

7区 西山和弥(東洋大) 区間12位

この顔ぶれなら、誰が区間新記録を出してもおかしくないはずだが、新記録どころか区間賞すら取れなかった訳で、多くの選手は不調を口にはしなかったが、日本選手権の影響が何らかあったと考えるのが自然だろう。各校のエースが実力を出し切れないことで、レースは混沌とし、思いがけないレースとなってしまったのだ。

特に全日本大学駅伝でアンカーで逆転劇を演じた、駒沢大の田澤は自分がトップでタスキを持ってくると宣言していたし、自分がタスキを受ける直前にビンセントがタスキリレーしていたので、絶好のペースメーカーになると思っていたのだが、早々に突き放されてしまった。日本選手権で今期学生最高タイムを叩き出した選手の姿とは言い難かった。

大迫傑選手は、雑誌Number1018号で、学生の駅伝レースのスケジュールはタイトなので、ちゃんと目標とするレースに照準を合わせるように言っている。そもそもタイトなスケジュールな上に日本選手権が入ってしまったことで、11月1日の全日本大学駅伝、12月4日の日本選手権、1月2,3日の箱根と2か月の間に3つのビッグレースをこなすということは、学生トップのランナーといえども、容易ではないということは間違いないだろう。

今年は日本選手権はオリンピックの選考のため、5,6月に開催され、いつものスケジュールに戻る。さて、来年はどれだけのピコンピコンが聞けるのだろうか?

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