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ロンドンで片腹痛い①

【片腹痛いの意】
おかしくて見ていられない。滑稽で苦々しく感じる。

※この一連の記事「ロンドンで片腹痛い」には、以前書いた引率日記を加筆訂正したものも含まれます。

私は専門学校の教員だ。
研修旅行の引率で、ロンドンに学生を140人連れて行った事がある。

海外に行くことは余程慣れていない限り、かなりのエネルギーを要する。
そこへきて140人もの(かろうじて)人間を連れて行くとなると相当だ。


正直に言うと、クソほど非常に大変だった。
そして、クソほど大変に面白かった。(言葉遣い・・w)。


そもそも、任意参加の研修旅行にこんなに人数が集まるとは思いもよらなかった。
まず、旅費が学生にしては高額だし、その頃欧州ではテロが頻発していたので、40人集まれば良いほうだろうと考えていた。

逆に40人が最少催行人数だったため、実施するためには何としても40人は集めないといけなかった。
私自身がロンドンに行きたいという超個人的な一心で企画した研修旅行だ。

「絶対に40人集めたるぜ!」という並々ならぬ気合と共に、私は学生に向けて渾身の超絶おもしろプレゼンテーションを行った。


パワーポイント80枚を駆使し、怒涛の30分間のプレゼンテーション。
(これ以上長いと学生の集中力が切れる)
担当学科の学生約250名を前に、やり切った。


その結果・・・



40人どころか、140人も集まっ
てしまった…


さすがに、ちょっと集めすぎたかも。
恐る恐る、旅行代理店の担当者に電話をして、人数を伝える。

私は人間が本当に「ひーー!!」という悲鳴を上げるのをはじめて聞いた。

担当者「先生・・飛行機もホテルも今更そんなに取れません!無理です!」

私「いや、でもほら・・売上げがすごいことになるでしょ、ね?がんばろ!よろしく!!」

無責任に丸投げしたにもかかわらず、担当者は本当に何とかしてくれた。
(それはそれは大変だったと思う)

飛行機は3便に分けて、現地ホテルで合流する事になり、旅程もグループごとに1日ずらすなどして何とか140人でロンドンに行くことに相成った。

私は旅行の責任者だったので、ロンドンには全日程の10日間滞在する。
そして学生約50名と成田から飛び立つことになった。


連れていく学生は18歳~20歳で、ほぼ皆んな海外旅行は初めてである。
なのに奴らはきっと、ディズニーランドにでも行くくらいの軽い気分でいるに違いない。


集合時間は出発時間の4時間半前にした。
個人の海外旅行じゃあり得ない。
特に私は海外でも1時間前に空港に行く、ギリギリ派なのだ。

集合時間早すぎたかな・・と一瞬思ったが、
結果、4時間半前にしておいて大成功だった。

まず、時間通りにこねーし。
来ても空港内で迷子になるし。
日本円をポンドに替えてないし。
この期に及んで「Wi-Fi借りたいけどどうすんの?」とか言うし。
勝手にどっか行くし。
手荷物に刃物いれてるし。
スーツケースにパスポート入れて預けそうになるし。
※上記の事はもちろん事前に丁寧に説明、指導しています(笑)

声を張り上げすぎて、出発前に私の喉は死んだ…。

集合から出発まで4時間半もあったのに、結局なんだかんだで割とギリギリに飛行機に乗り込んで、私は迷わずビールを頼んだ。
カラカラでガラガラの喉にビールが染みる。
「仕事中ですし、学生を連れているからアルコールはちょっと控えます…」とか言ってられん。
そのくらい疲れていたし、これから先が不安しか無いのでそれをアルコールで紛らわせようと思った。

そして、その不安は見事的中する。


直行便では無かったため、乗り継ぎの空港で飛行機から降りた直後、私は全員を集合させた。
そして「今すぐ次の飛行機チケットとパスポートを確認しろ」と指示。

あります!
ありました!
大丈夫です!
持ってまーす。

と学生が声を上げてくれ、ホッとひと息ついた次の瞬間…


「先生…パスポートが無いです…」と手を上げる男子が1人。

OMG…まじか…。


1番恐れていた事が起きた。

だからあれ程言ったではないか。
「パスポートは命の次に大事だから絶対無くすな、落とすな、忘れるな…」
しつこいを通り越して念仏の様に唱えていたのに。

「お金は最悪何とかなるけど、パスポートを忘れたり無くしたりしたらロンドンに行けないよ。無くすならせめて入国してからにしてね。」って100億万回言ったよね??


乗り継ぎ地はアブダビ。

同行した添乗員さんに日本領事館に連絡を取ってもらい、その間に私はその他の学生達を乗り継ぎ便のフロアに連れて行った。
「次の飛行機の出発は約3時間後、それまで自由にして良いけど絶対時間は守ること、自分の手荷物からは目を離すな、私はパスポートを無くした彼とパスポートを探しに行くからそれまでちゃんとやれ」と一気に言い残し、ロストパスポートボーイの元へ。

さて、なんとしてもパスポートを見つけなければならない。

飛行機に乗る直前に係員にパスポートを見せている。
そして、飛行機を降りた直後にすぐに持っているか確認をさせたので、パスポートを無くしたとしたら飛行機の中か機体に繋がる通路しか考えられない。

私達が乗っていた機体に戻り、パスポートが落ちてなかったか聞いたが、答えはNO。
粘って機体の中を見せて欲しいと頼んだら、清掃後なら良いとの事だったので、清掃が終わるのを待って機体内を探させて貰ったが見つからなかった。

念のため、成田空港にも連絡したが無い。
他の学生の手荷物も全部調べたが無い。

そして添乗員さんから「先生、残念ながら日本領事館、今日はお休みのようで仮の査証を出すのは無理だそうです」

元々審査が厳しいヒースロー空港。
このご時世だ、事情を話して通してもらうなんて絶対無理よね・・・。
と、思いつつダメ元でヒースロー空港にも連絡してみた。

「は…?君何いってんの?ダメに決まってんじゃん」的な英語で返された。

帰国させるしかないのか。。
はじめての海外旅行がこんな結果になるなんて、本人がボケでアホなのは間違いないのだが、可哀想でいたたまれない。

呆然としていたら、添乗員さんがテキパキと言った。


「先生、私は彼の帰国のチケット手配をします。ただそれをしてると我々が乗る予定の乗り継ぎ便に間に合わないためヒースロー空港までご一緒できません。こちらの手配が終わり次第、追っかけますので、残りの学生さん達をお願いします!先生、急いでください!」

気がついたら、乗り継ぎ便の搭乗時間が過ぎていた。
アナウンスで私の名前が呼ばれている。
ボーっとしている暇はない。

「be動詞って何だっけ?」とか言ってる英語力が底辺の残り49人。
私がたった1人で何とかできるのか…。
あのヒースロー空港の厳しい入国審査を無事通り抜けられるのか…全く自信がない。

やるしかないよな…。


諦めに近い気持ちで、離陸時間ギリギリに最後の搭乗者として、飛行機に乗り込んだ。
他の乗客はしっかりシートベルトまでしている。

ほったらかしにしてしまった学生達はちゃんと座ってるかな…?
不安に思いながら席に進むと、きちんと座ってニコニコしてる学生たちがいた。

「先生だ〜!やっと来たよ!」と誰かが言って、なぜか皆んな拍手で迎えてくれた。

「しっ!静かに!周りに迷惑だし恥ずかしいからやめなさい」とか言いながら、学生の顔を見たらちょっと泣きそうになった。
私たちはロンドンに向けてアブダビを後にした。

箱根の関所的、ヒースロー空港が我々を待っている。

【続く】続きはこちら

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