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ロンドンで片腹痛い②

【片腹痛いの意】
おかしくて見ていられない。滑稽で苦々しく感じる。
※この記事には、以前書いた引率日記を加筆訂正したものも含まれます

①の続き。
(↑①からどうぞ)

パスポートを無くした学生と唯一の頼りだった添乗員さんを残して、学生49人と私はロンドンヒースロー空港に向けてアブダビを後にした。

アブダビからヒースローまでは約8時間のフライト。

帰国する事になった学生の心中と、これから先の旅のトラブルを案じ、暗澹たる思いになりながら、深いため息をついてまずはワインを飲んだ。
(何はともあれとりあえずお酒に走る我…)

呑気な学生達はCAさんに「beef or chicken?」と聞かれて、元気良く「meet!」と答え怪訝な顔をされている。


更に不安が募る。 


そしていよいよ私達の乗った飛行機はロンドンヒースロー空港へ着陸をした。


予想通り、空港の入国審査は厳しくなっているせいで長蛇の列だった。

とにかく集団からはぐれないようにすること、入国審査は1人ずつ行くこと、入国理由を聞かれたら観光できたという事だけ伝えれば良い、この3点を言い聞かせて審査の列に並んだ。


1人の男子学生が「わー!すげー!!外人超かっけー!!」とか言っている。
ここでは最早お前が外人だという事にいつ気が付いてくれるのだろうか…。

そして入国審査、いよいよ我々の番がきた。
学生達の様子を見守るため、私は最後尾についた。

まず、審査官達が「謎の東洋人集団」に眉を顰めている。
更に、何を聞いてもキョトンしてる学生に呆れている。

そして、質問に答えられず困り果てた学生が私を指差して「マイティーチャー」と言った。

審査官と目が合った。



あー、嫌な予感。



その後同じように奴らは私を指差して、
「僕たちよく分からないから詳しくは先生に聞いてちょ、ぷひ(๑╹ω╹๑ )」的な事を身振り手振りで審査官に訴え、あまりのアホ共に面倒くさくなった審査官は一気に学生達を全員通すと、5人掛りで私を取り囲んだ…。


全員、背が高く胸板のあつい屈強そうな男性だった。
そして、漏れなくイケメンだった。
日本でだってイケメン男性5人に囲まれるなんて、そうそうない。


一瞬、胸が高まる。
そして彼らがつけている香水にクラっとする。


いやいや、喜んでる場合ではない。
きっと私はピンチなんだろう。


「君が彼らの先生だね?何が目的できたの?」(もちろん英語)

「そうです。全員私の生徒です。私達は学校の旅行で観光目的で来ました」(下手な英語)

「本当に観光だけ?」
「はい!もちろん観光だけです!」

「彼らは大学生?」
「専門学校生です…」

「本来ならビザが必要な事とかしないよね?」


なんか知らんけど、とても疑われてるようだ。
私の拙い英語力ではもうすぐ限界を迎えてしまう。 
学生達も不安そうに私を見ている。

お前らの英語力の無さのせいじゃ、ボケ!と心の中で悪態をつきながら、どうしたものか考えて出した答え…。


仕方ない、奴らを売ろう!

深呼吸を一度して、一気に言った。

「ビザが必要なこと⁇そんなことする訳ないじゃないっすか!彼らの能天気でバカそうなあの顔を見て下さいよ。何かしそうに見えます⁇」


みんなバカとか言ってごめん…ここを切り抜けるためだから許せ。


審査官達の顔が一気に緩んで、5人とも爆笑してくれた。
爆笑しながら無事通してくれた。


あぁ良かった…、緊張で背中の汗がすごい。
心底ぐったりしながらバゲッジクレームに向かう。
迎えのバスを待たせているので、とっととスーツケースをピックアップしなければならない。


「先生、なんか盛り上がってましたけど何話してたんですか?」こっちの苦労も知らないで、学生がニヤニヤ楽しそうに話しかけてくる。

「あーー、あれね。カッコいい人たちだったから今夜遊ばない?って誘ってみたんだよ」

「え!?まじっすか?先生さすがっすね〜」と言って、「ねーねー、先生がパスポート見せるとこのお兄さんを逆ナンしたらしいよー!」と早速みんな言いふらしている。


ま、いっか(笑)


無事に荷物もピックアップし、現地添乗員さんとバスが待つ出口に向かう。

アブダビで分かれた添乗員さんから、パスポート紛失学生が無事?日本に向けて飛び立ったと連絡があり、即親御さんにも一報を入れる。


他の便のチームも無事に着いただとか、これから出発するなどと、次々に私の携帯に連絡が入る。
その時思い出した、そう言えばこの研修旅行の責任者は私だった(笑)


これから数日間、きっと色々あるに違いない。


学校や親御さんの手前、ルールは設けてはいるが、多少の悪さには目を瞑るつもりでいる。

良い意味で人生が変わるようなそんな経験になればいい。

見上げると眩しいくらいの青空で、ここはロンドンだよな?と一瞬目を疑った。


現地添乗員さんが手を振っている。
「先生!聞きましたよ、大変でしたね〜。お疲れ様です!でも凄いです。ロンドンがこんなにスッキリ晴れるなんて年に3日あるかないかですよ!」

「誰が来たと思ってるんですか、私超晴れ女なんです。私がロンドンにいる間は絶対雨降らせませんよ(笑)」

実際、本当にロンドンにいる間に雨は降らず、ロンドンに10年以上いる添乗員さんからは奇跡だと言われた。

そしてやはり奇跡みたいなトラブルや面白いことが頻発したのは言うまでもなく、私はストレス解消に夜な夜なパブに通い、ビールを煽ることになる…。

【続く】

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