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対話企画:障害者雇用の『ここっておかしいよね?』 #7岩﨑 諭史さん

障害がキャリアを積む上で”障害”にならない社会を実現する会社、Connecting Pointの阿部潤子です。

対話企画「障害者雇用の『ここっておかしいよね?』」の7回目は、岩﨑 諭史さんです。
岩﨑さんとの出会いは、岩﨑さんにとっての恩師であり、私にとっての恩人でもある共通の知人を通じてもたらされました。初めてお会いした2019年当初から、農福連携への熱い想いをもって携わっていらっしゃる岩﨑さんに、農業を通じた障害者雇用の実践が増えてきた今だからこそ、その想いの丈を語って頂きました。どうぞ最後までお楽しみください。

まずは、岩﨑 諭史さんのプロフィールから:
大学卒後、福祉サービス事業所で約10年、障害者の雇用支援、職域開発に携わる。2018年4月パーソルサンクス株式会社(現、パーソルダイバース株式会社)へ入社し、よこすか・みうら岬工房の開設準備から携わり、現在に至る。精神保健福祉士/JGAP指導員

(対話相手:岩﨑 諭史さん)

①岩﨑さんのご経験に基づく、「『障害者雇用』のここっておかしいよね?」とその理由を教えてください。
岩﨑:「おかしいよね」は、「違和感」という表現になるかなと思います。
私は、現在の会社(パーソルダイバース株式会社)で働き始めるまで、神奈川県の三浦半島にある就労継続支援B型事業所でサービス管理責任者をしていました。その経験の中で、多くの方が、障害者雇用は社会的意義のある取り組みだと言ってくれますが、実際に障害者雇用に取り組む立場になると、一歩踏み出せない面があるなと思っています。

阿部:一歩踏み出せない、というのは?

岩﨑:障害者雇用になると、その方の障害や病気をフィルターにかけてしまって、「出来る/出来ない」の二元論になりやすいことに違和感を覚えます。

阿部:「二元論」についてもう少し教えてください。

岩﨑:障害者雇用では、「働ける人/働けない人」という対比で語られやすいですが、一般的に「人が働く」ということは、「(能力的な)出来る/出来ない」だけで語れるものではないと言われたりしますよね。にもかかわらず、障害のある方が働くことについて「(能力的な)出来る/出来ない」だけで語られやすいなと思っています。

阿部:なるほど。

岩﨑:私自身が、障害者雇用を通じて、農業や障害のある方の可能性を広めていく役割を担いながら、会社の中で自己実現を果たしているからこそ、「人が働く」ということは、「(能力的な)出来る/出来ない」であったり、病気や障害の判定では計り知れないものではないか?ということを、多くの方に気づいてもらいたいなと思います。

阿部:なるほど。昨今の障害者雇用は、そのような二元論に陥っていないか?というのが、岩﨑さんの「おかしい」ポイントですね。

岩﨑:はい、そうですね。20時間以上の就業等、制度上の縛りであったり、「XXXな方でないと採用出来ない」といった会社の採用基準等もあったりします。しかし、働かなければ成長出来ない、気づけない部分って大きいのかなと思います。もちろん、働いたことで、身体に不調を来たす方もいると思いますが、働くことを通じてしか出会えない人生や人もいると思います。

阿部:雇用する立場である岩﨑さんが、「国の制度や企業の戦略で線引きをしない、してはいけないのではないか」と仰っていることが、とても興味深いなと思っています。

岩﨑:そうかもしれないですね(笑)。パーソルダイバースでは、色々な取り組みをしていますが、農業には多種多様な仕事があります。その方にあった仕事や作業を何かしら生み出せますし、作ることが出来ます。なので、働くことを通じて、何か出来ることがあるはずですし、たとえ、いま出来なくても、これから先、出来るようになるかもしれないと、その可能性を探求し続けることが「障害者雇用」や「働く」ことの意味ではないかと思っています。
国の制度や企業の戦略で線引きをしない、してはいけない、ところなのかなと私の経験から強く感じています。

阿部:岩﨑さんのご経験から?

岩﨑:10年間、福祉の業界にいたからこそ、この5年間、雇用する立場になって、確かに就労準備性が足りなかったり、ちょっと難しいなと感じる方もいますが、1年経つと社会人として立派に成長して、農家さんに「頑張ってるね」と声をかけていただける方もいます。
あとは、仕事の成長はこれからかもしれないけれど、生活面は安定していて、ご家族からも「働けて良かった」と言われることがあるので、「出来る/出来ない」に当てはめて考えてはいけないのだなと思っています。

阿部:「働く」ことの意味を考えさせられるエピソードですね。
一方で、企業が行う採用活動なので、ある程度の枠組みの中で人を採用することが一般的かと思いますが、岩﨑さんにとって、その一般論(採用活動の当たり前)を疑うほど、「農業」には、様々な可能性があるということでしょうか?

岩﨑:そうですね。他の業種では採用が難しいかもしれないと思う方も、農業やモノづくりの分野は仕事を切り出しやすいので、活躍の場を作ることが出来る面もあります。もちろん、採用後に、色々とサポートが必要なケースもありますが、仕事にフィットしたときは、パフォーマンスが高い方もいらっしゃいます。
また、障害者雇用に取り組む企業や特例子会社には、それぞれ異なるビジョンや戦略があると思いますが、弊社の場合は、「失敗しても成長していこう」と考えてくれる懐の大きさもあって、経営理念(雇用の創造/人々の成長/社会貢献)に照らし合わせながら、障害者雇用の取り組みを探求していける環境も関係しているのかなと思います。

阿部:「会社らしさ」を実現する障害者雇用ですね?

岩﨑:はい。単純に特例子会社として農業を行うだけではなく、その会社として、どのような戦略があって、どのような方を雇用するのか、というのを自分なりにかみ砕いて実践することかなと思います。数字だけで障害者雇用に取り組むのではなく、せっかく縁あって一緒に働いているので、そういったところを追求しながら、一緒に成長していけたらと思います。

国としては、特例子会社ではなく企業グループ本体で雇用を促進することを求めるのかもしれません。しかし、特例子会社があるからこそ、安心して働ける方もいらっしゃる事実は、これからも大きく変わらないと思います。だからこそ、安心して働ける環境を作り、提供していくことが、これからの特例子会社における障害者雇用を考えていくことに繋がると思いますし、農業であれば、色々な働き方が出来ると思っています。

阿部:農業は、その人の持っている力を発揮出来る「発揮どころ」がたくさんあるってことですね。幅が広いですね。

岩﨑:そうですね。縦というより、横に広げることが出来ますね。大変、と言えば大変ですが、社員のみんなが頑張っている姿を見ると良かったと思いますし、「農業で働いてみたい」、「パーソルダイバースで頑張りたい」と言ってくださる候補者の方に出会うと、何とかして一緒に働くことは出来ないかなぁと考えます。

阿部:農業であれば、働ける人、活躍出来る人の裾野が広がるということですね。そのような農業の可能性は、岩﨑さんが前職で福祉事業所にいた頃から感じられているのですか?

岩﨑:いえいえ。農業の可能性というよりも、三浦半島に、特例子会社であったり、障害者雇用に取り組む会社が出来たらいいなと思っていました。そもそも「働く機会」がないので、そのような機会を作りたいと…。

阿部:首都圏にある神奈川県横須賀市や三浦市であっても、働く機会が限定的なのでしょうか?

岩﨑:そうですね。この地域であれば、週30時間働ける方は、都市部の特例子会社に就職したり、移動が出来ることが前提かなと思います。しかし、通勤が難しかったり、生活のサポートが必要だったり、何らかの課題があって就職に至らない方も、地元ならば就職出来る可能性があったりします。ただ、残念ながら、地元では、観光や建築産業がメインで、特例子会社があったとしても狭き門なので、農業事業を行う特例子会社があったら誘致したいと思う立場でした。そして、この5年間取り組んでみて、働き方や仕事というのは、多様な形で作っていけるものだなと私自身の価値観が変わりました。

阿部:なるほど、そこからのスタートだったのですね。地元ならば就職出来る人がいるというのは、岩﨑さんが冒頭で仰っていた「おかしい」ポイント(二元論「働ける人/働けない人」で語られやすい)にも通じる内容と思いますが、現職に就く前から、同じような違和感を抱いて来られたということですか?

岩﨑:そうですね。大学時代から障害者の親の会に関わったり、施設のアルバイトをする中で、「働ける方」は限られるし、現実は厳しいことも感じてきました。その中で、地域連携で障害者就労に取り組めないのかなとずっと描いていました。

「出来る/出来ない」よりも、「どうやったら出来るか?」を考えて、たとえ手帳を持っている方の全員は救えなくても、より多くの方に「機会」を作っていくようなソーシャル・ディベロップメント(社会開発)をしていきたいと思っていました。

阿部:社会福祉士/精神保健福祉士としてのソーシャルアクションですね。

岩﨑:そうですね。相談援助技術よりも、社会資源を活用していく、開発していく方が私は得意なんですね。なので、今の仕事も、私自身にフィットしているのかなと思います。
制度を変えていくことよりも、機会を作っていくことに私の想いがあるのだなと感じていますし、その想いは22歳の時から変わっていません。

阿部:大学時代から、当事者団体に関わられていたのは、何かきっかけがあったのですか?

岩﨑:振り返ってみれば、幼い頃から、身近に障害のある同級生はいましたし、高校時代には、毎朝、車椅子を持ち上げたりしていました。その後、大学時代のアルバイトで、子どもたちと関わっていた時に、集団行動に馴染めない子どもがいて、その時に初めて「発達障害」を知りました。そこから、その子どものことを知りたくて、当事者団体と繋がりを持つようになり、神奈川県内だけでなく、都内の施設・病院にも見学に行きました。そうした経験の中で、私と同い年でありながら、手帳の有無で、こんなにも生き方が違うのだということを20代で学びました。

今思えば、そこで感じたことは、「おかしいよね」というよりも、「矛盾は当然」だったのだろうとも思います。

阿部:矛盾は当然?

岩﨑:きっと「変わらないままの現実」かもしれないけれども、その時の経験があってよかったと思っています。現実は、変わらないままかもしれませんが、だからこそ、身近にある地域から小さな変化を生み出していくことで、地域の方のマインドを少しずつ変えて、働きづらさや生きづらさを緩和出来る社会を作っていければと思っています。
この私の想いが、会社のビジョンにそっているからこそ、自分自身も仕事を通じて自己実現出来ているのかなと思います。

②その「おかしい」ポイントは、なぜ変わらないままなのだと思いますか?阿部:「矛盾は当然」という言葉が、結構、印象的です。それが「変わらないまま」になってしまう理由かなと思うのですが、岩﨑さんは、どう感じられますか?

岩﨑:社会福祉を勉強すると、「変わっていない」ことに気づきませんか?
精神障害のある方の社会的復権が声高に唱えられた時代がありましたが、社会はそこまで大きく変わっていないですよね。とはいえ、「変わらない」から放棄する訳でもないし、「変わる」ための手段はたくさんあると思っています。

阿部:「変わらないまま」の理由を考えるよりも、打ち手を考えて実行することが大事ということですね。

岩﨑:両方あって1つだとも思います。

阿部:両方とは?

岩﨑:「理解出来る方」と「理解出来ない方」がいる、ということですね。
時代が変われども、生きづらさや生活のしづらさは変わらないのかなと思います。学生時代に、福祉系の論文を大小様々に3000本くらい読みましたが、時代背景やエビデンスは変われども、目的設定の部分は変わらず、この仕事を続ける限りは、ずっと探求し続けるのだろうとも思いました。

③「おかしい」ポイントは、どうしたら解決出来ると思いますか?
解決に向けて、岩﨑さんがこれまで取り組まれたことがあれば教えて下さい。
阿部:「変わらないかも…」と感じつつも、岩﨑さんは、これまでも障害のある人が自分らしく暮らし働ける社会づくりに向けて、様々に取り組まれてこられましたよね。

岩﨑:そうですね。「変わる/変わらない」という事実に背を向ける訳ではなく、自分自身も、その事実に誠実に向き合っていく必要があるのかなと思います。

阿部:事実に誠実に向き合う、ですね。

岩﨑:はい。そのように私が考えるようになったのは、カブを生産している1つの農家さんとの出会いがあります。

阿部:どんな出会いだったのか、是非教えてください。

岩﨑:農作物って1年に1回しか収穫が出来ないんですね。それを失敗すると1年分のすべてがダメになってしまう。ある時、その農家さんから、「私の今の年齢から逆算すると、残りの人生で、私はあと13回しかカブを作れないんだよね。岩﨑さんは、その残りの13回を私と一緒にやってくれるの?」と言われたことがあります。

阿部:覚悟を試されますね。

岩﨑:はい。農業は、農家さんの生活や命にも関わってきます。この農家さんは、そのくらいの覚悟を持って、弊社に仕事を依頼してくれているのだなと思いました。その時から、私は、「出来る/出来ない」、「変わる/変わらない」というより、「変わっていきたい」、「良くしていきたい」という想いのある方と一緒になって機会を作っていく、雇用を創造していきたいと思うようになりましたし、その方が私の生き方にあっているのだろうと思いました。様々な障害者領域の課題は解決出来ないかもしれないけれど、そういった取り組みを周知していくことは出来ると思うので。

阿部:「変わっていきたい」、「良くしていきたい」という想いの人と一緒になって機会を作っていくというのが、岩﨑さんなりの「おかしいポイント」への方策ですね。1つ1つの取り組みを丁寧にやった結果、気づいたら「出来る/出来ない」、「変わる/変わらない」を超えていました、という感じなのかなと思いましたが、いかがでしょうか?

岩﨑:そうですね。私は、職場で一緒に働いているスタッフにも、障害のある社員への管理指導というスタンスではなく、あくまでも、どうやったら一緒に成長していけるか、を考えて欲しいと伝えています。そこをあきらめずに考え続けて、取り組み続けた結果、職場内でもスタッフ同士の目線合わせが出来るようになったのだと思いますし、社員一人ひとりの成長を期待しながらみんなで取り組めたのだと思います。

阿部:あきらめずに取り組む、ですね

岩﨑:社員の成長が、地域の農業や農家さんの成長に繋がっていくという好循環の方が楽しいです。最近は、社員同士が1つの共同体になっていけるのだなと感じています。「出来る/出来ない」よりも、皆と一体感を持って取り組んで、会社も私たちのことを応援してくれる環境が、今、目の前にあるので、会社、上長へ感謝しつつ、これまでぶれずに進んできて良かったなと思います。

阿部:そうですね。リーダーとしての想い、大事ですね。

岩﨑:自分の軸がずれたら、ここまで発展していなかったと思うし、雇用も出来ていなかっただろうなと…。私自身も、「理想と違います」といって異動していたと思います。
障害者領域にある様々な課題は、「おかしい」が前提で、その課題に対して、日々出来ることを着実に積み重ねていくことで道が拓けるということを信じていますし、その姿勢を20代で出会った精神保健福祉領域のレジェンドの皆さんから学びました。

阿部:時代を創ってきた実践の積み重ねですね。

岩﨑:はい。企業なので、業績を求められるところもありますが、そこは社内にも説明をしながら、改善に常に取り組んで、今まで成長してきていると思います。最近は、見学に来られた他社の皆さんが、「誰が手帳を持っていらっしゃる方ですか」とか、「仕事中の真剣な眼差しや動き方が、弊社の社員と全然違います」といった感想を寄せて頂くので、本気になってみんなが働ける農業を作れているのだなと感じます。

阿部:嬉しいフィードバックですね。

岩﨑:課題解決とか社会変革までは繋がらないかもしれませんが、私たちはパーソルダイバースの一員として「はたらいて、笑おう。」を実現していきたいという想いがあります。

働く楽しさを追求出来たり、「今日も来てくれてありがとう。頑張ってくれたね」と誰かに期待されたり、褒められることも単純に嬉しいですよね。農家さんに声をかけてもらえることも社員の成長に繋がりますし、そのような場を、あきらめずに地域に作り続けてきたことで、少しずつ地域も変化してきているのではないかなと思います。

阿部:岩﨑さんが20代の頃に出会った精神保健福祉領域の皆さんと同じ道を歩まれているのだなと感じます。

岩﨑:そうですね。そして、これからは、農福連携に取り組む企業同士の“比較”ではなく、企業、社会福祉法人等も含めて同じマインドを持った方たちと繋がって、三浦半島から全国に、「農業」を起点に人と人との繋がりを広げていけたらなと思います。

阿部:これまでのお話を伺っていると、岩﨑さんの取り組みの原動力には、障害のある人にとっての「機会」をどのように作っていくか、それを探索し続ける探求心にあるのかなと感じています。「機会」は、働く機会だけでなく、誰かと一緒に過ごす機会だったり、誰かから必要とされる機会であったり、「機会」にも多様性がありますよね。それらすべてを地域の中でいかに創り出していくのかを考え、実践していく、ということですね。

④「おかしいポイント」を越えた先にある社会/障害者雇用の姿は、どのようなイメージですか?
阿部:では、そうした取り組みを1つずつ積み重ねてきた結果、見えてくるかもしれない社会や障害者雇用の姿を岩﨑さんは、どのようにイメージされていますか?

岩﨑:私のテーマは、これからも「農業」だと思います。私がこの道に進むきっかけとなった師との出会いがあって、その恩師の想い「農業を通じて地域を良くしていきたい」、「障害者雇用を通じて、農家さんにもっと良くなってもらいたい、活躍の場を作っていきたい」を、私は今も引き継いでいます。なので、障害のある方にも、農業を通じた人との出会いであったり、その方との出会いが人生を豊かにしていく、という経験を味わってもらいたいなと思っています。
そして、これからの5年間は、会社の事業を通じて、社外にも様々な出会いの機会を作って、社員が人と出会う機会を広げていきたいです。それが会社にとっての強みになったり、繋がる方の幸せになれるように探求していきたいなと思っています。

阿部:社員が人と出会う機会ですね。

岩﨑:障害者雇用をしていると「あの会社は、XXXさん」といった名物プレイヤーが生まれやすいと思うのですが、そうではなくて、現場の社員がフロントに立つ機会を作っていきたいと思います。

阿部:フロントに立つ機会?

岩﨑:例えば、農業に興味のある地域の子どもたちと交流する機会であったり、グループ会社内外を問わず、農福連携に興味のある方に実際に体験してもらえる機会を作ったり、農業だけでなく、人との出会いも合わさることで、より豊かになるのかなと思います。

結局は、お互いを知らないから、障害について理解が難しいのだろうと思うので、そこを超えていく機会を提供出来たらなと思います。

阿部:今日は、「機会を作る」という言葉が多く出てきているので、そこが岩﨑さんの想いの中心なのだろうと感じています。

岩﨑:人の成長や楽しさ、嬉しさ、豊かさを作っていけるのは何かな?と考えたときに、事業を作ったり、人が集まる場を作ることで、変化していく機会や仕組みを作っていきたいと思っています。

現在、よこすか・みうら岬工房は30名強の社員がいますが、農業で30名の雇用が生まれたことは、結構大きな成果であると思っています。立ち上げ当初は、「障害者が農業で働けるなんて思ってない」とか、「畑を荒らしに来るのではないか?」と警戒されたこともありましたが、今では、多くの農家さんが、障害の有無ではなく、まるで親戚のように「XXくん」と社員に声をかけて接してくれています。

このような経験があったからこそ、いま取り組んでいることの先に障害の有無を超えた世界観が生まれる、という確信があって、会社としても、障害のある方への意識を変えていくきっかけを社会に提供出来るのではないかなと思っています。

阿部:「障害のあるなしを超えた世界観」というのは、「おかしい」ポイントを超えた世界観とも言い換えられるのでしょうか?

岩﨑:そうですね。難しいなぁとは思っていますが…(笑)

阿部:難しいと仰っていながらも、これまでも「おかしいポイント」に誠実に向き合って来られているので、やっぱり、乗り越えていける可能性を信じていらっしゃるのだろうなとも感じます。

岩﨑:そうですね。これは一生ものだと思っています。

阿部:とても共感します。

岩﨑:農業分野で障害のある方が働くことについて、社会参加という側面だけでなく、農業人としても働いていける可能性が十分にあると思っています。

障害のある方に本当に農業が出来るのか?といった疑問であったり、働き方を含めた障害者雇用のあり方や課題も様々に取り上げられていますが、他社との比較ではなく、私たちが、障害者雇用に誠実に向き合ってきたその成果を社会に発信していきたいなと思います。誠実に向き合って、嘘偽りなく発信していかないと、社員に負い目を感じさせてしまうかもしれないし、それだけは避けたい。社員の活躍によって、行政や関係機関からもお声がけ頂く機会も増えたので、障害者雇用への信頼を生み出すのは、現場で働いているプレイヤーであって、みんなが活躍できる組織を作っていくことが大事なのだなと思っています。

阿部:誠実に向き合うというフレーズも今日はたくさんお聞きしましたが、それが岩﨑さんの課題への向き合い方なのだなと感じています。障害者雇用の「おかしい」ポイントだけでなく、職場の人間関係においても、きっと同じような姿勢で向き合われているのだろうなと思いました。

⑤目指す社会に向けて、岩﨑さんは、何をしたら今の仕事をやり遂げたと思えそうですか?
阿部: 障害の有無に関わらず、地域の中に働く機会や人と出会う機会を作りながら、「おかしい」ポイントを超えていこうとされているのだなと思いますが、岩﨑さんにとって、何をしたら今の仕事をやり遂げたと感じられるのでしょうか?

岩﨑:実は、最近、その瞬間が訪れたんですよね(笑)

阿部:おぉ、どういうことでしょう?

岩﨑:取引先の農家さんの1つに、8カ月間にわたって10名程度の人員が毎日、必要な現場があります。その現場を、障害のある社員だけで作業を回せるようになったときは、やり遂げられたなという感覚がありました。
もちろん、最終的には、障害のある社員だけで仕事を回せるように仕掛けを考えて、これまで取り組んできたのですが、苦手な作業は、その作業を得意とする社員が補ったり、社員同士で「XX作業については、私が出来ます」と声を掛け合ったりしながら、定量の目標を決められた時間までに終わらせることが出来るようになりました。

阿部:すごいですね!

岩﨑:そうですね。何より、農家さんから「みんな成長しているね」、「任せて安心だよ」と言われたときに、農業で働く機会を作って、正当な評価を頂くという私の役割を全う出来たように感じ、達成感がありました。

阿部:あぁそれは嬉しいですね。既に大きな達成感を味わえたご経験であったと思いますが、それを超えるくらいの達成感は、今後、どんな場面で味わえそうですか?

岩﨑:私が味わえたような経験を広めていきたい、増やしていきたいなと思います。
障害のある方が農業人として成長していくためには、もちろんサポートが必要な部分もありますが、一人の社員、かつ農業のプロフェッショナルとして、農家さんの援農であったり、自分たちで作物を作って消費者へ販売したり、働くことを通じて自己実現していける取り組みを広めていきたいと思います。きっと、その展開が出来たら、今の仕事をやり遂げられたと感じられるかもしれません。

阿部:単純に横展開して、同じような仕組みで農業に取り組める機会を増やしていく、ということではなく、働く人たちが、農業人としての誇りを持ちながら、農家とも関係性を築いて自己実現が出来る機会を増やしていく、ということですよね?

岩﨑:はい、その通りです。障害のある方を雇用してマッチングするだけでなく、組織としても地域としても、お互いにwin-winになっていける機会を作っていくということです。それが実現出来ると、少しずつその地域が豊かになっていきますよね

阿部:そうですね。

岩﨑:地域全体を豊かにすることが、企業の成長にも繋がっていくのだろうと感じているので、そういった取り組みを全国に広げていきたいですね。私と同じようなビジョンと想いを持って農業事業をやっていきたいという方たちと繋がって、農業での障害者雇用をより価値のあるもの、付加価値のあるものにしていきたいなと思っています。

阿部:付加価値ですね。「農福連携」と一言でいっても、色々なスタイルがあるので、私も理解が追いついていないところもあるのですが、「付加価値」に注目していくというのは、興味深い視点だなと思いました。

岩﨑:農業を通じて関わっている方たちが、本当にwin-winになれているのか、農業者はもちろん、そこで働いている方たちが、農業を通じて経済的にも社会的にも豊かになっているのか、だと思います。

阿部:なるほど。

岩﨑:多くの農家さんは 1日14時間、お正月を除く年間363日働くことが当たり前の生活ですが、草取り等の細々とした作業を弊社に委託することで、農家さんにしか出来ない仕事に集中し、生産性を高めることに成功した農家さんもあります。だからこそ、私たちも一緒になって誠実に取り組まないといけないし、技術も成長していかないと、農家さんがより良いものを作るお手伝いは出来ないだろうと思っています。実際、事業をはじめた頃は、手を抜いてしまって失敗したこともあります。

阿部:手を抜いて失敗した経験?

岩﨑:農家さんに対して、障害ゆえに挨拶が出来ない社員がいると説明しても、「うちが嫌いなら来なくていい」とか、「昨日来たメンバーよりも、今日来たメンバーの方が作業出来ていないのに、なぜお金を払わないといけないの?」と、仰る方もいました。

阿部:シビアですね。

岩﨑:そうなんです。でも、私たちが、農家さん側に立って物事を考えられていなかったと気づかされた点もありました。なので、社会や自社の社員だけでなく、農家さんも含めて、色々な方に360度誠実に向き合うことが必要だなと感じています。それは大変なことかもしれないですが、農家さんたちの障害のある社員に対する眼差しが変わるといった瞬間に出会うと、私を含めて、現場で一緒に働くスタッフも嬉しいですし、きっと障害のある社員自身も嬉しいのだろうなと思います。

私自身、そのような瞬間に生まれるドラマが嬉しいなと感じますし、1本のドラマを制作して終わりではなく、そのドラマをこれからも作り続けていくことなのだと思います

そして、そのドラマを観て感じてもらえる機会を作っていくことが、「おかしい」ポイントであったり、「変わらないまま」の課題を変えていく力になっていくのかなと思っています。

阿部:そのドラマを観て、「障害」や「障害のある人が働くこと」について驚きをもって知ってもらう、ということですね。ドラマ制作に向けて、明日から取り組もうと考えていらっしゃることはありますか?

岩﨑:任せる部分は、もっと任せていこうかなと思っています。プレイヤーの時間とマネジメントの時間がある中で、この1カ月は、プレイヤーとして現場で判断する必要があったのですが、私がやっているプレイヤーの部分も挑戦したいと思う社員もいるので、そこは思い切って任せてみようかなと。何を任せられるか、これから洗い出していきたいなと思っています。そして、私自身は、次の3年後に向けて、農家さんを支えていく取り組みとして私たちに何が出来るかを考えつつ、現場を一緒に支えている社員がもっと輝ける方法を考えていきたいと思います。

阿部:本日は、素敵なお話を聴かせて下さり、ありがとうございました。

対話を終えて:
私たちは、自分自身の能力でさえも「出来る/出来ない」で考える傾向にあるのでは?と振り返っています。本来、「出来る/出来ない」の間にはグラデーションが広がっていて、その間に様々な可能性があるにもかかわらず、“わたし”を取り巻く環境や、“わたし”に語りかける内なる声によって、その可能性に蓋をしてしまっているようにも思います。そして、私たちが、その思考や行動の習慣を他者に向けてしまった時、多様性を損なうリスクがある、ということを岩﨑さんとの対話から学びました。
まずは、自分自身を「出来る/出来ない」の二元論で評価しない。
そして、その間に隠れている“わたし”自身の可能性を掘り起こしていく。
それが、自分自身の中にある「多様性」に気づくことであり、DE&Iを実現していく最初の一歩ではないかなと感じています。

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