「最近頭の中で鳴ってる音楽があるの」ってこれだったのか!韓国映画『スウィング・キッズ』
自分が死んだらこの曲で送り出してほしいというセットリストがありますか? こんにちは、じゅんぷうです。
わたしはあります。そのセットリストの大トリを飾るのが、デヴィッド・ボウイの「モダン・ラヴ」です。1983年、アルバム「レッツ・ダンス」からシングルカットされたうちの1曲。ボウイがカルトなヒーローからポップでキャッチ―なスーパースターになった作品として見方はいろいろあるようですが、遡って聴いたすべてをひっくるめても好き。
この「シリアス・ムーンライト・ツアー」のライブ映像を使ったPVが好き過ぎて本当に100回は見てるのではないかと…。VHSでも持っていました。
カメラや編集もですが、ダンサブルでなんだかすげないボウイ、バンドも観客もすべてのパフォーマンスがキマリまくっているこの映像以上に、この曲を生かすものなんてないと思っていたのに、ここへきて思いもよらないところからそれは現れました。
日本では2020年2月に公開された韓国映画『スウィング・キッズ』。
舞台は朝鮮戦争下、韓国の東南端にある巨済(コジェ)島の捕虜収容所。朝鮮戦争で最大規模の収容施設で、国連軍が管理し、朝鮮人民軍(北朝鮮)と中国義勇軍の兵士、民間の避難民合わせて収容人数は10万人を超えたこともあるとか。
ギスは舞踏経験も才能もありますが収容所の大問題児。所長はそんなギスが「自由主義のダンスを踊る共産主義者」として大々的に取り上げられれば自分も評価されるという思惑があってのこと。
前半は、ギスたちがタップダンスに夢中になっていく様子やチームに絆が生まれていく過程が描かれ、青春映画として気軽に楽しく見ていられます。だけど現実を描くことに関しては容赦しないのが韓国映画。
捕虜たちの間で、共産主義対資本主義による血なまぐさい抗争・粛清が激化していき、資本主義アメリカのダンスに魅せられている革命戦士ギスは苦しみます。一方、そうした不穏な状況の収容所に出入りできなくなって収入を絶たれたヤン・パンネ。4ヵ国語を話すことができ、歌もダンスも得意。こんな時代でなかったら違う生き方ができたはずの彼女が、心配して会いに来たジャクソンに
「頭の中でずっと鳴ってる音楽があるの。
うまく説明できないけど、見せるわ」
と言ってタップを踏み始めるときに鳴るのが、お待たせしましたモダン・ラヴです!!
ギターにドラムが絡んでくる、煽りに煽るイントロのビート。どんどん盛り上がっていく疾走感で見ている側の感情も絶頂続き。エモーショナルとはこういうことよ…!
設定的にはこの時代には生まれていない曲ですが、そんなことどうでもよくなるヤン・パンネとロ・ギスの自由を切望する魂のタップ。基本的にタップのシーンは「シング・シング・シング」とかジャズのスタンダードナンバーだったのですが、ここでは彼らの魂の叫び…ファッキン・イデオロギー、そしてタップへの情熱が「モダン・ラヴ」に込められていたのです。ボウイが書いたこの曲の本質は解釈が難しいところだけど、それももうどうでもいいやってなるほど胸を打つ、悲しくも最高のシーンでした。
モダン・ラヴの歌詞に、
❝no confessions❞(懺悔なんかいらない)
❝no religion❞(宗教なんかいらない)
とありますが、誰かが勝手に決めたイデオロギーも、分断による苦しみも人種差別も、そんなのぜんぶいらないよね!!
ちなみに現大統領の文在寅は巨済島で避難民の子どもとして生まれたそうです。北朝鮮から海路で撤退する国連軍の船で戦火から逃れた両親は、船の中でクリスマスを迎え、米兵からキャンディをもらったことを幼い文在寅に語ったとか。
タップはイデオロギーも言葉も超えるし気持ちを伝える。韓国映画の容赦なき描写に免疫のない方も、この映画のダンスシーンは見る価値ありです。