硝子細工の女神

毎日、毎日。
透明なケースの外側から覗き見ていた、
硝子細工の女神。
傷一つ無い滑らかな体が
僕の心を魅了していた。

できることなら、触れてみたい。
だけど、不器用な僕がそんなことをしたら
君の顔に、手に
ひびを入れてしまうかもしれない。
ああ、でも許されたい。
少しだけ。一晩だけ。

「そんなこと言わないで。
私をここから出して、ずっと一緒にいてよ」

ふと声が聞こえた気がした。
もし僕の、都合のいい幻聴でなければ。

「うん、分かった」

勇気を出して僕は君を手に取った。
すると、
ケース越しには見えなかった無数の傷が、
君の内側にあるのが分かった。

これはどうしたの?とは訊かなかった。
君は、孤独のあまり
自分自身で傷を作って
救いの手を求めていたんだね。

「もう大丈夫だよ」
「嬉しい」

僕は君を奪って走り去った。
全力で
追手は、まだ来ない。

硝子細工の女神との恋。
禁忌を犯した僕達には、これからたくさんの困難が待ち受けているのだろう。

それでも。

朝焼けの光を浴びて
傷だらけの君の体は
複雑に、
美しく輝いていた。

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