カヌーの速度で 小野十三郎

教科書で習った詩人のひとり。つまらない評論文なんかより小説や韻文が好きだったからすぐに小野十三郎も大好きになった。工業地帯の風景を題材とした詩だったような。この一冊はたぶん書店での衝動買い。「ゆっくり/水を切るカヌーの速度で/言葉さがしをしている。」という帯の言葉に惹かれた。

「終着駅」

造船所につとめていらっしゃる――国鉄和田岬線の終着駅の話。線路の土堤にはタンポポやヨモギ……。海の方まで広がる葦原を小野十三郎が写生に来ていたなんて。待っているものは誰?会いたいあなたは誰?敢えないと思っているけど出かけていくお昼間。

「きょうは終わった」

だれかベッドごと持ち上げて/おれをそこにはこんでくれ/言葉だけがいまも少し離れたところで/おれの不安につきそっている。

「尾が消えてしまっても」

ああそうか、ハレー彗星の詩が多いのはちょうどハレー彗星が地球のそばにさしかかった頃だったからか。そういえば、ハレー彗星を見るのがこどもの頃の夢で、でも夢が叶うころにはそれはわりと普通に日常のことになっていたっけ。そんな夢の変節。大人になるのは淋しい。

「終りの時はなく」

いま、おれは/地平の氷原に/春楡の/大きな影を見ている。

とっくに死んだはずの君がやってきていう「おはよう」。それを聞きたいか。今の私は聞きたいのだろうか。

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(『カヌーの速度で』小野十三郎 1988 7.27浮游社)

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