【112.水曜映画れびゅ~】"Boiling Point"~飲食業は、戦場を超えた地獄~
"Boiling Point"は、2021年公開のイギリス映画。
第75回英国アカデミー賞で英国作品賞を含む4部門にノミネートされた作品です。
あらすじ
1年で最も忙しい日のレストラン
クリスマス前日の金曜日の夜。
ロンドンの人気高級レストランは、活気と殺気に満ちていた。
予約殺到で大盛況の店内は、美味しい料理と高級なワインを楽しむ客でいっぱいだ。
その反面で、大忙しの厨房とホール。立て続けに通る注文は留まるところを知らない一方で、次々とトラブルが起こる。
衛生管理検査の要請、洗い場のバイトの遅刻、有名シェフとグルメ評論家の来店、アレルギー持ちのお客用の料理の用意…
レストランのオーナーシェフアンディは、心身の限界を感じながら、波乱に満ちた1日を乗り越えようとする。
正真正銘の"全編ワンカット"撮影
人気レストラン店の忙しい1日の裏側に迫る本作。
なんといっても見どころは、"ガチの"全編ワンカット撮影であるところ。
ワンカット撮影というのは、全編でカットを用いていない作り方をしている作品です。近年ではよく聞かれる技法となっており、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2015)や『1917 命をかけた伝令』(2019)などの作品もワンカット撮影で作られた作品です。
しかしこの2作は、言ってしまえばワンカット"風"の作品であり、実際は編集やCGなどを用いて、違和感なく映像と映像をつなぎ合わせて、カットの切れ目がないようにみえるように作っているのです。
しかし、本作は正真正銘のガチで全編ワンカットで撮っています。NO 編集・NO CGで、ガチの一発撮り90分で作られた作品なのです。
そんな前代未聞の作られ方をした本作ですが、そのやり方によって現場にはとんでもない緊張感が走っていたと、キャスト陣は明かします。
そしてその緊張感が映像にもしっかりと生かされており、劇中を包む空気感は、張りつめすぎて少し触れれば途切れてしまいそうなピアノ線のようでした。
一生喧嘩してらぁ
そんな撮影法で描かれるのは、繁忙期を迎えているレストランの裏側。
バタバタ忙しい厨房とホールの店内模様が映し出されるのですが、とにかくずーーーーーーっと喧嘩していましたね。
客とホールスタッフ、料理長とバイト、副料理長とホールマネージャー、料理長と副料理長… and more
終始ピリピリしている雰囲気は、戦場…というよりも、地獄と表した方が適当かもしれません。
そして私個人的にも、この作品がハマった要因があります。
というのも、私も学生時代にアルバイトで京都の料亭風の居酒屋で、洗い場兼ドリンカーとして働いていた経験があるのです。
そしてその時の思い出が、この映画と"超"既視感があるんですよね。
まさに繁忙期は地獄。厨房もホールも洗い場もドリンカーも、忙しすぎて手が回らないのにもかかわらず、そういう時に限ってミスが起きて、そのミスが全セクションに影響を与えて、マジでピリピリするんですよね。それで、決まって料理人の方がキレ始めて、店長とか副店長とかと喧嘩をおっぱじめるんですよね。バイトからしたら「もう、やめてくれよ」って感じです。
ともいう私も、バイトリーダーになった頃、新しく入った副店長が全然仕事できない人で、その人と喧嘩しちゃったりもしたんですけどね…。(「あの頃は若かった…」と反省しております笑)
つまり言いたいこととしては、飲食業は程度の差はあれど、大体本作で描かれている状況が共通しているのではないかということです。なにせ、飲食業界と言ったら、ブラック企業のなかでも"ブラック中のブラック"として有名ですからね。
そんなあるあるネタも潜んでいる本作は、飲食業に携わる人にこそ見てほしい作品とも言えます。ご興味のある方は、ぜひご覧になってみてください。
前回記事と、次回記事
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次回の更新では、ヒュー・ジャックマン主演のドラマ映画"The Son"(2022)を紹介させていただきます。
お楽しみに!