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【135.水曜映画れびゅ~】『笑いのカイブツ』~人間をはみ出した時、カイブツは生まれる~

『笑いのカイブツ』は、1月5日から公開されている映画。

岡山天音主演、仲野太賀、菅田将暉が出演しています。

作品情報

大阪。何をするにも不器用で人間関係も不得意な16歳のツチヤタカユキの生きがいは、「レジェンド」になるためにテレビの大喜利番組にネタを投稿すること。狂ったように毎日ネタを考え続けて6年——。自作のネタ100本を携えて訪れたお笑い劇場で、その才能が認められ、念願叶って作家見習いになる。しかし、笑いだけを追求し、他者と交わらずに常識から逸脱した行動をとり続けるツチヤは周囲から理解されず、志半ばで劇場を去ることに。
自暴自棄になりながらも笑いを諦め切れずに、ラジオ番組にネタを投稿する“ハガキ職人”として再起をかけると、次第に注目を集め、尊敬する芸人・西寺から声が掛かる。ツチヤは構成作家を目指し、上京を決意するが——。

公式サイトより

人間からはみ出した時、カイブツが生まれる

5分で1。1日2000。

ツチヤタカユキは、1日2,000個のボケをノートに書き殴り続けた。

いいボケをケータイ大喜利の番組に送り続けた。その努力実って、レジェンドの称号を獲得した。しかし、レジェンドになった彼には何も残らなかった。

その後、吉本の劇場で構成作家見習いとして働き始める。そのなかでも彼はお笑いセンスを遺憾なく発揮する。その一方で、人間関係がうまくいかなかった。結果、辞めた。

その後はハガキ職人として、またボケを考え続ける日々に戻った。その採用率は驚異的なものだった。そんなある日、ラジオのパーソナリティを務める芸人からラブコールを受けた。

「ツチヤ、今ラジオを聴いているか?一緒にお笑いやろう!」

全く成長が見られない成長物語

伝説のハガキ職人として名を馳せ、オードリー若林からラブコールを受けて上京したツチヤタカユキ。その半生をつづった同名小説を映画化したものが、本作です。

映画鑑賞後に購入。
映画に描かれなかった"その後"の物語も綴られています。

そんな本作は、共感性羞恥がえげつない作品。ツチヤタカユキの対人恐怖症っぷり、人間不信っぷりがありありと描かれて、なんともいえない恥ずかしさを自分までも抱いしまいます。画面から目を逸らしたくなる瞬間が何度あったことか…。

とはいっても半自伝的作品なので、そんなツチヤも色々なことを経験して最後には成功をつかみ取る成長物語だと思って、我慢して観ていたのですが…

その成長が全く見られないんですよね!

逆にどんどんオカシくなっていきます。人間関係もこじれにこじれ、結果的にツチヤはこじら・・・せまくっていきます。これがまた辛い…。

類似だけど、全く違う作品

そんな本作鑑賞後に、ある作品を私は思い浮かべました。

さかなクンの半生を描いた、こちらも半自伝的作品『さかなのこ』(2022)。

こちらも、まったく主人公が変わろうとしないんですよね。それでも周りが支えることで、お魚大好きミー坊はお魚博士になっていくのです。その展開は、まるでファンタジーのようでもありました。

その一方で『笑いのカイブツ』は、ほとんど誰も助けてくれません。それでも手を差し伸べようとした人にさえも、ツチヤは何の感謝もせずに冷たくあしらいます。ツチヤに残ったのは、お笑いだけでした。

ツチヤもさかなクンも、どちらも異常なストーリーです。でも、よりリアリティがあって、より胸を抉られたのは、ツチヤの半生でした。

”カイブツ”岡山天音

そんな本作は、なんといっても岡山天音が凄すぎるっ!

一昨年に、それこそ『さかなのこ』でカミソリもみを演じているのを観て「なんだこの変な俳優は!?」と思いました。そこから注目をしていましたが、岡山天音ほど”個性派”という二つ名が似合う俳優はいません。

そんな岡山天音の演技力が、本作で爆発している。あの独特の気持ち悪さが、私たちに胸を抉るほどの共感性羞恥を植え付けます。

また、”実質”オードリー若林役を演じたのが仲野太賀。まあ安定感抜群で、文句なしですよね。

そして菅田将暉がヤンキー役で出演。すっかり最近は整くんの印象が強くなっちゃいましたが、やっぱりああいう役が1番菅田将暉に似合ってますね。

・・・

とても素晴らしい一作である一方で、かなり心労にもなる作品です。ご覧になる時は、ご覚悟を…。


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次回の更新では、ヴェネチア国際映画金獅子賞受賞、そして先日発表のあった米アカデミーで作品賞含む11部門でノミネーションを獲得した"Poor Things"哀れなるものたちを紹介させていただきます。

お楽しみに!