見出し画像

【139.水曜映画れびゅ~】"Rustin”~黒人差別サーガを追う~

"Rustin”ラスティン ワシントンの「あの日」を作った男は、昨年からNetflixにて配信されている映画。

来月行われる米アカデミー賞にて、主演男優賞にノミネートされている作品です。

㊗ アカデミー賞 ノミネート!!

☆ノミネート
主演男優賞

第96回米アカデミー賞 結果一覧

作品情報

※日本語字幕のないトレーラーです。

1963年のワシントン大行進を主導した活動家、バイヤード・ラスティン。公民権の歴史の流れを変えようと力を尽くし、人種差別や同性愛への偏見にひるむことなく戦った彼の姿を描く。

Netflixより

ワシントン大行進の立役者

1963年、アメリカ首都ワシントンDCにあるリンカーン記念館の階段上で、キング牧師は言った。

私には夢がある。それは、いつの日か、この国が立ち上がり、「すべての人間は平等に作られているということは、自明の真実であると考える」というこの国の信条を、真の意味で実現させるという夢である。

私には夢がある。それは、いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である。

私には夢がある…

演説「私には夢がある」の訳文の一部抜粋
参照:AMERICAN CENTER JAPNAN


この演説が生まれた背景にあるのが、黒人の職と自由を求めた「ワシントン大行進」だ。様々な人種・階級の人々が25万人近く集結し、ワシン トン記念塔からリンカーン記念堂まで行進した。

その「ワシントン大行進」の発起人であり、立役者となったのが、バイヤード・ラスティン。キング牧師の右腕となり、型破りな発想で公民権運動を扇動した。しかし、その存在を知る人は少ない。

そんな公民権運動の語られてこなかった英雄の物語が、本作にて明らかになる。

黒人差別サーガ

『グローリー』(1989)、『マルコムX』(1992)、『評決のとき』(1996)など、黒人差別を主題とした作品が、これまで多くの制作されてきました。

特に、2013年製作の『それでも夜は明ける』がアカデミー作品賞を受賞して以降、ほぼ毎年のように黒人差別をテーマもしくはサブテーマとする映画が製作されています。

●2013年
『それでも夜は明ける』『大統領の執事の涙』『フルートベール駅で』
●2014年
『グローリー/明日への行進』
●2016年
『ムーンライト』『フェンス』『ドリーム』
●2017年
『ゲットアウト』
●2018年
『グリーン・ブック』、『ブラック・クランズマン』
●2019年
『ハリエット』『黒い司法 0%からの奇跡』『アス』
●2020年
『マ・レイニーのブラックボトム』『あの夜、マイアミで』『ザ・ファイブ・ブラッズ』
●2021年
『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』『隔たる世界の2人』
●2022
『ティル』『NOPE/ノープ』『自由への道』

私の知る限りでも、これだけの映画があります。奴隷制、公民権運動、そして現代。史実を基にしたものや、フィクションのもの、ホラーやSFで語る作品も…。多種多様な作品が黒人差別の歴史や現状が叙事詩サーガとして紡がれています。

そういった多くの作品がある一方で、日本の観客にはこの一連の作品群があまり届いてないように思います。

例えば、ブラックパンサー党の幹部であったフレッド・ハンプトンの生涯を描いた『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』

アカデミー作品賞にノミネートされ、ダニエル・カルーヤが助演男優賞、H.E.R.が歌曲賞を受賞したにもかかわらず、コロナ禍の影響等もあり、ひっそりとDVDスルーとなってしまいました。

他にも、一昨年公開の『ティル』。白人女性に口笛を吹いただけでリンチされて殺された黒人少年の実話を映画化した作品です。

世界から絶賛され、昨年のアカデミー賞で0ノミネートだったことに対して抗議の声が上がったほどの作品です。その結果、アカデミー賞のプロローグで司会のジミー・キンメルが「ノミネートされなかったが、『ティル』と『ウーマン・キング 無敵の女戦士たち』は素晴らしい作品である」と言及しました。

しかし、この作品も日本公開には紆余曲折がありました。当初はAmazonプライムでの配信スルーの予定であり、その配信が延期…。結局、PARCOの配給で昨年の12月にやっと公開されました。

そして本作も、同様です。

公民権運動において最大のデモとなったワシントン行進。その立役者は、活動家のバイヤード・ラスティンです。

そんな英雄の存在は、今までほとんど語られてこられませんでした。その物語を、『マ・レイニーのブラックボトム』のジョージ・C・ウルフが監督して映画化となりました。

活動家でありながらも全米黒人地位向上協会NAACPに厄介者扱いされて起こる、外部との対立。そして、黒人であり、同性愛者でもあったラスティンの内なる葛藤。知られざる英雄の姿をコールマン・ドミンゴが見事に演じ、素晴らしい作品となっています。

しかし、YouTubeで予告編を探ってみると、なんと日本語字幕が付いていない!アカデミー賞にノミネートされているにも関わらず!

以上のことからわかるように、黒人差別サーガに対して、日本の配給はかなりやる気ないんですよね…。だから、自分でこのサーガを追っていくしかないんです。

なぜ、黒人差別サーガを追うのか?

黒人差別・人種差別は、確かに日本人にとっては身近に思えない問題です。しかし私は、対岸の火事として他人事に扱うことはできません。そんな私の意識の発端は『大統領の執事の涙』と『グローリー/明日への行進』です。

もともとアメリカの歴史を勉強していたこともありますが、この2つの映画で公民権運動を深く知り、「自分も、この問題と向き合わなければならない」と思い始めました。

そして今の私にできることは、それまでの歴史、そして現状を知っていくこと、そしてそれを多くの人に共有することです。そのツールが、映画です。もちろん、映画がすべてを語るとは思いません。でも、知るきっかけになるのは確かです。だから、私はこのサーガを1つ残らず観ていきたいと思っています。たとえ劇場公開されなくとも、たとえ日本の配給会社がやる気なくても、これからも私は独自に観ていきます。

黒人差別サーガに終わりはありません。

『アメリカン・フィクション』

こちらはフィクションですが、同じく黒人差別を背景にした物語で、アカデミー賞に作品賞含む5部門にノミネートされた『アメリカン・フィクション』が来週27日からAmazonプライムより独占配信されます。

劇場公開してほしかった気持ちもありますが、早く観られるのを嬉しく思います。ぜひ、皆さまもご覧ください。


前回記事と、次回記事

前回投稿した記事はこちらから!

これまでの【水曜映画れびゅ~】の記事はこちらから!

次回の更新では、『ケイコ 目を澄ませて』(2022)の三宅唱の最新作『夜明けのすべて』を紹介させていただきます。

お楽しみに!