組織と個人の好循環モデル ~「労働組合の再活性」と「組合員のキャリア自律」の重なり~
「個のために組織がある時代」という極論ではなく、現実に根差した個人と組織の好循環モデルを構想するフェーズに労働組合は立っています。そのためには、個を起点とした組織の再活性、すなわち組合員のキャリア自律を促進する活動によって、労働組合の組織力をより柔軟で力強いものとすることで、組合員が働く・暮らす場面で労働組合・企業に対するエンゲージメントを高める。このような好循環を創造する組合活動の再設計をお勧めします。
では、何から始めるか?
ダイレクトに組合員に接点を持つ組合活動の領域を確立することです。組合員の「働く・暮らす」すなわち人生キャリアに関して直接的接点を持つ組合活動です。この領域は、組合リーダーが実践してきた「職場巡回・世話役活動・面着活動」などの組織活動と区別し、組合員の「個」の部分に向き合う新たな組合活動の領域といえます。
具体的には、組合員が自身の人生キャリアに向き合う機会を提供すること。そのためには聴き手が必要となりますが、身近な仲間や職場リーダーが日常的に話を聴くという行為がむつかしい現代、聴き手としては「キャリアコンサルタント」が望ましいでしょう。
キャリア面談のアンケートより
先日、某労組にて試験的に実施した「組合員のキャリア面談」の結果をご紹介します。
【キャリア面談を受ける動機】
キャリアの方向性を考えてみたい。
今後の働くイメージをより明確に描きたい。
今の働き方になんとなく不安を感じている。
ワークとライフのバランスに悩んでいる。
職場の人間関係の悩みを解決したい。
今までの仕事や生活について振り返ってみたい。
生活上の悩みを話してみたい。
【キャリア面談の感想】
こんなにも長い時間(1時間)自分本位で話したのは初めて。とてもスッキリした。
自分の思いを言語化することで、今後のビジョンや、やるべきことが明確になった。
現状の状況について話を聴いて頂いたおかげで、自分がやるべきことが明確になった。
目標や方向性の悩み、仕事や家庭などの広く個人の悩みを聴いてもらうことは重要だ。
有事ではなく平時に自分のキャリアを考えておくことが必要だと思った。
当該労組では、これらの組合員の「個」に向きあい、そこから得られた声・思い・情報を起点に、これからの組合活動の領域の確立に活かしていくとのことです。
組織と個人の好循環モデルの再設計に向けて
民主主義を前提に組織を運営する労働組合は、「みんなの共通テーマを、みんなで考え、みんなで行動する」を目指してきました。しかしコロナ禍を経て職場での繋がり、労組リーダーと組合員の関係性が希薄化し、個のあり方が多様化する中、「みんなの共通テーマ」が変質しています。究極的には「組合員の幸せの実現」が共通テーマですが、その幸せのあり方は組合員個々に質が違います。
これからの時代の労働組合は、組織主体から個主体に少しだけ軸足をずらし、「個別のテーマに、みんなの知恵を活かし、自律的に行動する」ことを組合活動の領域として確立していくモデルチェンジの段階にあるのではないでしょうか。
淺野淳