「農場の隣で開発」というストーリー/AGRIST株主インタビュー:ジャフコ グループ株式会社九州支社 山形様
・山形 修功 氏:ジャフコ グループ株式会社 九州支社長
1992年日本合同ファイナンス㈱(現ジャフコ グループ㈱)入社。国内(大阪・東京)ベンチャー・中堅企業への投資・上場支援、米国ベンチャー企業の国内事業開発支援、イスラエル、アジア企業への投資(フィリピン・シンガポール駐在)、国内投資審査等を経て、2007年10月より現職。地方企業を中心に多くのEXIT実績を有する。Forbes JAPANの2021年版「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」1位。慶應義塾大学卒、中小企業診断士。
ジャフコ グループ株式会社
「新事業の創造にコミットし、 ともに未来を切り開く」をミッションに掲げ、革新的かつ創造的経営を行う成長性豊かな企業に対し、ステージに応じたリスクキャピタルを供給。経営や事業拡大にコミットする事で企業価値の向上を支援している。
(以下 敬称略)
※所属役職や記事内容は、2021年8月時点のものです。
出会いは5年前ー縁と運
齋藤:山形さんとは宮崎県の商工会議所が実施しているイベントで審査員を一緒にさせてもらったときに初めてお会いしました。
山形:2016年くらいですかね。福岡のスタートアップを支援する団体Startup GOGO(スタートアップゴーゴー)が宮崎で初めて開催したイベントにパネルディスカッションで登壇したのですが、その流れで宮崎のスタートアップのピッチイベントに審査員として参加させていただきました。
齋藤:5年の歳月を経過してAGRISTに投資にいたった経緯を教えて下さい。
山形:当時は齋藤さんに対して地方創生をやっている人というイメージしか持っていませんでした。その後、知り合いがAGRISTに出資するという話を聞き、具体的にビジネスとして動いているんだと意識しはじめました。
それから、AGRISTがピッチイベントで複数の賞を獲得しているのを見て、齋藤さんに久しぶりにメッセージを送ったというのが、2020年の8、9月くらいです。コロナ禍なので、オンラインで齋藤さんとCOOの高橋さんと面談させていただきました。これが最初という形になると思います。
農家の現場で起きている課題をテクノロジーで解決
AGRIST株式会社 代表 齋藤潤一
齋藤:AGRISTの最初の印象を教えて下さい
山形:コロナ禍なのでオンライン会議の画面越しからのスタートでしたが、これは面白そうと感じて、直ぐにパートナーの佐藤(ジャフコ グループ株式会社 AGRIST投資担当 佐藤 直樹氏)との面談をセットしました。実は佐藤が最初から「いいね」という印象を口にするケースは少ないのですが、AGRISTの場合はその数少ないパターンでした。そういう意味では、非常に良いスタートだったのかなと思います。
齋藤:そこから出資が決定するまでには様々な審査や過程がありますが、なぜAGRISTに出資しようということになったのでしょうか。
山形:AGRISTはピッチイベントでたくさん賞を取られているだけあって、説得力や資料の作り込み、そして何よりもストーリーとして非常によくできていました。農家の現場で起きている収穫の担い手不足の課題をテクノロジーで解決する、農場のすぐとなりに開発ラボがあるからPDCAを高速で回せるんだというシナリオは非常にわかりやすかったです。
ビニールハウスの暑さを体感
齋藤:はじめてロボットを見たときの印象はどうだったでしょうか?
山形:話に聞いていた以上にロボットが動いて収穫できていることが印象的でした。
また、実際に農家さんお話をさせていただいて、ビニールハウスにも入ったことで、実際のハウスの中の蒸し暑さを感じました。
農場で作業することがどれだけ大変かが何となく理解できて、農家さんがどういう悩みを抱えているか、オンライン会議では伝わらないリアルな現場で農家の声を聞けたのは大きかったと思います。
ビジネスを一人でやるには限界があるー経営者の熱量と求心力
齋藤:ストーリー性に加えて経営者の評価も重要と思いますが、経営者としての齋藤への評価はいかがだったでしょうか?
山形:私の社内資料では、人脈が広くて、人懐っこくて、人を巻き込む力があるということを書きました。もちろん、実際にロボットの会社で経営がうまくできるのか?不安がなかったわけではありません。ただ齋藤さんの巻き込む力や地方への思いを掛け合わせていくと面白いと思ったし、今でも思っています。
齋藤:なぜ巻き込む力が大事なのだと思われるのですか?
山形:ビジネスを一人でやるには限界があるので、経営層、従業員、顧客層含めいろんな人を巻き込んでいくことが重要です。特にAGRISTの場合は人口1万7千人という小さな町で、ロボット開発のエンジニアが集まるのかというのは不安でした。そこでは経営者の熱意や求心力が重要になります。
AGRISTさんに関わらず経営者を見るときには、巻き込み力、人間力みたいなところはすごく重視しますね。
地方の可能性を伸ばしていきたい
齋藤:地方に注目をしている理由はなんですか?
山形:僕たちがやっているベンチャー投資では東京に人もお金も集中しています。
しかし、人口に比例して、全国各地にイノベーションを起こす素質を持った人は生まれているはずです。九州は1千万人規模の人口ですから、東京の半分くらいの人数で起業家が生まれていてもおかしくない計算になります。
ただ、その人が育つ環境の中で、そういう可能性が潰されたり、そもそも起業に至らないことも多いのではいかと思います。そういった起業家や起業家の卵を潰したくない、伸ばしていきたいという考えもあり、地方への思いが強くなっているのだと思います。
齋藤:私も地方にはビジネスにおいても起業家の成長においても伸びしろを感じます。
山形:地方に生まれた異才、天才、秀才が、その環境ゆえに才能が開花しなかったり、東京に行ってしまってたりして、どんどん地域の経済が衰退していく事が課題だと思っています。
地方の優秀な起業家とJAFCOの資金力が重なり合い、そこにさらに優秀な人を巻き込んでいくことには大きな可能性を感じているところが、私が地方にこだわっている最大の理由です。
地方課題を解決しながら世界に飛び立っていくぞと考えているAGRISTのような会社には、どんどん投資して行きたいなと思っています。
齋藤:AGRISTへの投資の決め手はなにかございましたか?
山形:一つでは言えないですけど、農場の横にラボがあるというストーリーは非常に好きです。実験に主体的に関わっていただける農家がいらっしゃるというのは、なかなか無いのではと思います。そこは社内で投資を決めるときもかなり主張していった部分ですし、割とスムーズに受け入れられた部分でもありました。
アップデートする過程で製品が更に良くなっていく
齋藤:AGRISTには、今後どんなことを期待していますか?
山形:まずは製品をきちんと作り上げて、商品として販売を開始して欲しいというのが一番最初に期待するところです。その先はきゅうり、トマトのロボットも見たいですし、そこで蓄積したデータからの展開も楽しみです。
中国はじめ、海外展開への夢も広がりますが、最初のお客様に喜んでもらうところが一番見たいですね。
いまはまだ仮説でしかないわけです。販売を開始してからいろんな課題が出てくると思います。それをアップデートする過程で製品がさらに良いものになっていく。最初の導入とそこからの改善というところにすごく期待していますし、そこに集中してもらいたいなと思います。
齋藤:AGRISTのこのロボットが新しい農業の歴史の1ページになるように、諦めずに事業成長し続けていきます。
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