[海外論文]コーチングの効果について -Executive Coaching: It Works!

はじめに

コーチングというものがビジネスの領域でも使われるようになってから半世紀以上が経ちます。
日本でも少しずつコーチングは普及してきており、特にビジネス領域では主にマネジメント層にコーチをつける日系企業も増えてきているなという印象です。コーチング的な関わりを研修として導入する企業も同様です。

ですが、一方でその効果については誰もが明確に、分かりやすく説明することができるわけでもない、というのが実情ではないでしょうか。

やはりコーチングは日本よりも海外の方が普及しており、また学術的な研究も数十年行われてきていることから、そこから何らかのヒントを得ていきたいと思います。

Executive Coaching: It Works!

今回読んだ論文はこちらです。

http://positiveinsights.co.uk/articles/EXEC_COACHING_IT_WORKS.pdf

2002年にとあるアメリカの大手企業で実施されたエグゼクティブ向けのコーチングからデータを抽出したもので、対象は114人のエグゼクティブ。42人のコーチが担当し、6か月間合計12回のコーチングセッションを行っています。また、コーチング実施後に両者それぞれに対してアンケートを実施し、それを用いてコーチングの効果について述べています。

(アンケートの回答率がエグゼクティブ91%に対しコーチ69%と異様に低いのが気になりましたが、こういった研究を行う上でやはり「守秘義務」は壁になります。勝手な推測ですが、回答しなかった31%のコーチの中でそれを理由に回答しなかったコーチも多かったのではないでしょうか。)

エグゼクティブコーチングの5つの効果

その結果によると、コーチングを受けたエグゼクティブには以下の5つの変化が見られたということです。

  1. より効果的な人材のマネジメント

  2. 上司との関係性向上

  3. より効果的な目標設定と優先順位付け

  4. エンゲージメント及び生産性の向上

  5. より効果的な対話・コミュニケーション

1. より効果的な人材のマネジメント

「人間力が磨かれたことによって自身の行動や決断が周囲にどのように受け止められているか、についての洞察が深まった」98%
「自己認識と個々の強みについての理解が深まった」99%
「直属の部下の管理が良くなった」91%
「社内顧客の管理が良くなった」94%

これらはエグゼクティブ自身が自分のリーダーシップに対する自信が高まったことを示唆しており、影響力、交渉力、対立時のマネジメント、フィードバック等のスキルも向上しています。
また、自身がコーチングを受けることで自分の部下に対してもコーチングまたはコーチング的な関わりをするようになったことで、関係性の向上と相まってリーダーとしての有効性を高めることにつながっています。

2. 上司との関係性向上

「コミュニケーションやフィードバックの改善により、より生産的な関係が構築された」79%

エグゼクティブのコメント:
「自身の行動がいかに上司との関係性に影響を与えているか、理解が深まった」
「上司との仕事の進め方について理解が深まった」
実際にエグゼクティブの上司も、彼/彼女に対しての成長の支援により興味を示すようになり、相互にオープンなフィードバックを行うようになったという声もあったとのことです。

3. より効果的な目標設定と優先順位付け

「より明確な業績目標の設定が可能になった」88%
「より明確な事業目標を直属の部下と設定できるようになった」80%
「コーチングが意思決定とそれが他社に与える影響についての洞察を与えた」76%

関わる業務範囲が一気に広がる中でどのようにしてより効果的なチーム運営をしていくか、は管理職の大きな課題です。上記のような効果が生まれることで、チーム全体にもチームワークや場への参加、そしてコミットメントが生まれています。

4. エンゲージメントと生産性の向上

「業務の生産性が向上した」78%
「業務への満足度が向上した」75%

エンゲージメントの向上が生産性の向上に寄与することは今では多くの企業で重要視されていますが、コーチングに対する費用対効果と言う意味でも、生産性の向上は非常に重要なファクターとなります。

5. より効果的な対話・コミュニケーション

「上司との間でオープンな対話が増えた」68%

2で挙げた上司との関係性向上につながってくるところでもありますが、特に直属の上司とのコミュニケーションの質・量は本人の意欲やパフォーマンスに大きく影響するので、こちらも非常に重要なファクターです。
そしてこれは上司だけではなく、他者との対話の質に影響を与えるものとなります。

今後の研究の課題

上記のケースでは、個人と組織に対して非常にポジティブなインパクトがコーチングによってもたらされたことが明らかになっています。
ただ、今回はコーチと被コーチによる回答にとどまっているため、今後より質の高い洞察を得るためにはその上司や部下等の視点も必要になってきます。

また、ここからは僕の視点になりますが、

  • コーチングの効果はどれぐらいの期間持続するのか

  • どのような従業員に対するコーチングが一番効果的なのか(年齢・成熟度等)

  • 国によって違いはあるのか

などのテーマも興味深いところです。
コーチングの効果に関しての研究は特に欧米で現在進行形で進んでいますので、引き続きこちらで少しずつ皆さんと共有できればと思います。

コーチングの学術的なお話に興味のある方は…

このようなイベントが10月6日に東京・渋谷で開催されます。

僕も当日お邪魔しますが、ご興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか。

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