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イノベーションの歴史 9 (電気)

「汎用技術」(General Purpose Technology)

電気やコンピューターのように多くのイノベーションを引き起こす技術は、「汎用技術」(General Purpose Technology)と呼ばれます。汎用技術は、さまざまな産業や分野に適用可能で、新しい製品やサービス、生産方法の開発を促進する技術です。汎用技術は、経済成長や産業構造の変化に大きな影響を与え、イノベーションの波を引き起こすことが特徴です。
電気は、蒸気機関に続く人類の大規模な汎用技術でした。

人類が初めてエネルギーを蓄えることを覚えた!

人類は、火を使いこなすことから始まり、風力や水力、石炭(化石燃料)など、さまざまなエネルギー源が利用されてきました。しかし、これらのエネルギー源はいずれも直接利用することが前提であり、効果的に蓄えることが難しいものでした。電気が登場するまで、エネルギーはその場で消費されるか、運搬に手間がかかる形でしか利用されませんでした。電気は人類が初めて蓄えることのできたエネルギーです。
電気は継続的に供給でき、急速に消費される必要がありません。これにより、エネルギーを非常に効率的に使用できるようになりました。また、電気は輸送が容易であり、遠隔地にある発電所から家庭や工場へ電力を供給できるため、エネルギーインフラの構築が可能になりました。さらに、電気は環境に優しいエネルギー源であり、燃焼による大気汚染や二酸化炭素の排出が少ないため、持続可能なエネルギー供給に貢献しています。

エピソード0

古代ギリシャ(紀元前600年頃): タレス・オブ・ミレトスが、琥珀を摩擦すると軽い物体を引きつける現象を発見しました。これは、静電気の最初の観察とされています。
1600年: イギリスのウィリアム・ギルバートが、静電気の研究を進め、"electricus"(電気)という言葉を初めて用いました。
18世紀: ベンジャミン・フランクリンが、雷と電気が関連していることを示す実験を行いました。彼は、空気中の電気を導くことができるという考えを発表しました。ブラッドピット主演の『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』という映画があります。

電気の発明 

1800年: イタリアのアレッサンドロ・ヴォルタが、最初の電池(ヴォルタ電池)を発明しました。これにより、初めて電気を蓄えることが可能になりました。
1820年: デンマークのハンス・クリスチャン・オルステッドが、電流が磁場を発生させることを発見しました。これにより、電磁気学の基礎が築かれました。
1821年: イギリスのマイケル・ファラデーが、電磁気学の原理を利用して初の電動機を発明しました。これにより、電気を機械的な動力に変換することが可能になりました。
1831年: マイケル・ファラデーが、電磁誘導の原理を発見し、電磁力が電気を生成することを証明しました。これにより、発電機の開発が可能となりました。

発明王エジソン

1879年: トーマス・エジソンが、実用的な白熱電球を発明しました。これにより、電気照明が一般家庭や産業に普及し始めました。1882年、世界初の商業用発電所(パールストリート発電所)をニューヨーク市に開設しました。これにより、初めて電力供給網が構築され、電気が一般家庭や産業に広く普及し始めました。
「私は失敗を一度もしたことがない。ただ、1万通りの方法がうまくいかないことを学んだだけだ。」
エジソンのこの名言は、「失敗は成功への正しいプロセスである」というイノベーション精神を支える言葉になりました。

早すぎた天才テスラ

1887年: セルビアの技術者ニコラ・テスラが、交流(AC)発電機と変圧器を発明し、交流電力の利点を示しました。これにより、電力を長距離で効率的に送電できるようになりました。
1891年: ジョージ・ウェスティングハウスが、アメリカ初の交流電力送電線を建設し、ナイアガラ滝からバッファローへの電力供給を開始しました。これにより、交流電力が広く普及し、現代の電力インフラの基礎が築かれました。
テスラは電気の発明においてはエジソンに負けない功績でした。なのに派手に大成功したエジソンに比べ、テスラは有名ではありません。実際テスラは生前には成功どころか失意のうちに孤独に死にました。
テスラは、当時アメリカで電力市場を支配していたトーマス・エジソンと競合関係にありました。エジソンは直流(DC)電力システムを支持していましたが、テスラは交流(AC)電力システムの方が効率的で安全であると主張しました。この競争は「電流戦争」として知られています。
最終的に、テスラの交流(AC)電力システムが勝利し、現代の電力供給システムの基盤となりました。しかし、この成功にもかかわらず、テスラはビジネス面での成功を収めることができませんでした。彼は特許や資金調達に苦労し、ビジネスパートナーとの対立もありました。また、彼のアイデアは時代に先駆けすぎるものが多く、理解されずに終わることもしばしばでした。
彼はなんと無線送電にまでチャレンジしていたのです。皆さんご存じのように無線送電は2023年4月現在にでもまだ十分に実用化されていません。世間は早すぎた天才についていけず、資金援助を打ち切りました。
テスラは晩年、ニューヨークで貧困に苦しみながら生活していました。1943年に86歳で孤独に亡くなりました。その後、彼の遺品は債権者によって競売にかけられ、彼の業績は長い間忘れ去られることとなりました。
しかし、近年ではテスラの功績が再評価され、彼の発明や理論が現代の技術や科学に大きな影響を与えていることが認識されるようになりました。エジソンが成功したビジネスマンでもあったことに対し、テスラは純粋な発明家であり、ビジネス面での才能には恵まれなかったため、その後の人生が困難なものとなったと言えます。
そういうところがイーロンマスクにテスラの社名をつけさせた理由なのでしょう。

電気はあらゆるものを変えた!

以降、電気の利用は急速に拡大し、産業革命から現代社会に至るまで、人類の生活を根本的に変える力となりました。
主なものを以下に列挙します。

  1. 照明産業: 電気照明の登場により、石油ランプやガス燈に代わり、より安全で効率的な照明が一般家庭や産業に普及しました。

  2. 製造業: 電動機の導入により、工場での生産性が大幅に向上しました。また、生産ラインの自動化が進み、大量生産が可能になりました。

  3. 電力産業: 発電機の発明により、石炭、石油、天然ガス、水力、風力、太陽光などのエネルギー源から電気を生成することができるようになりました。

  4. 交通産業: 電気鉄道、地下鉄、路面電車などの電気鉄道システムが開発され、都市間や都市内の移動が効率的になりました。また、電気自動車の登場により、環境に優しい交通手段が普及しつつあります。

  5. 通信産業: 電信や電話の発明により、遠隔地との高速な情報伝達が可能になりました。インターネットの登場により、データや情報のやり取りがさらに進化しました。

  6. 家電産業: 電気を利用した家電製品(冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビなど)の登場により、家庭での生活が劇的に便利になりました。

  7. コンピュータ産業: 電子計算機の発明により、情報処理の能力が飛躍的に向上し、さまざまな産業や研究分野における効率化やイノベーションが促進されました。

  8. 医療産業: 電気を利用した医療機器(X線機、心電図、超音波検査機器など)の開発により、診断や治療が劇的に向上しました。

電気はあらゆるものを変えました。


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