長編小説【三寒死温】Vol.23(完)
エピローグ(最終話)
樹齢百年は優に超えているであろう黒松の一枚板が、黒檀色の鈍い光を放っている。足元も覚束ない最低限の照明のみが灯る薄暗い空間の中、一直線に伸びているはずの境界線は闇に溶け込み、手で触れなければその存在を確認することができない。
カウンターの上では、等間隔に落ちるスポットライトの眩い光が、仄白いグラデーションの波紋を広げていた。
その中心で静かに佇む、シングル・モルトのグラス。
直径10㎝にも満たない円筒の中で煌めくアイスボールは、琥珀色の宇宙に漂う新しい