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J-WAVE(81.3fm) SONAR MUSIC 新世代UKヒップホップ特集 OAこぼれ話「躍進するUKドリルシーン」編

2021年1月21日(水)21時より放送された、あっこゴリラさんがナビゲートするJ-WAVE(81.3fm) SONAR MUSIC 「新世代UKヒップホップ」特集にJun Fukunagaがゲスト出演させていただきました。

本稿では番組の最後にもお話しさせていただいていた、時間の関係でお話できなかった分をテキストでご紹介します。

「新世代UKヒップホップ」特集放送では、以下の4つのパートに分けてお話させていただきました。

1. USのヒップホップに対してUKヒップホップの特徴、進化について
2. 2010年代に起きたグライムリバイバルについて
3. 近年、グライムを凌ぐ人気になりつつあるUKドリルについて
4. これから注目のUKラッパーについて
*リンク先で各こぼれ話記事をお読みいただけます

今回はパート3"近年、グライムを凌ぐ人気になりつつあるUKドリル"についてのこぼれ話を書いていきたいと思います。

UKドリルとは?

ここ1~2年くらいの間にグライムリバイバルの人気がピークを迎えたとUKメディアが伝える一方で、それと入れ替わりに人気を博しているのが「UKドリル」と呼ばれるジャンルです。特に2020年は、UKドリルの躍進を紹介する音楽コラムもUKメディアでは見られるようになりました。

UKドリルは2012年(もしくは2014年)にサウスロンドンで誕生したと言われていいます。

シカゴ発祥のヒップホップのサブジャンル「ドリル」とUKのギャングスタラップ「ロードラップ(00年代中期頃にサウスロンドンで誕生。犯罪、ギャング、暴力的なトピックを主としたリリックでUSのギャングスタラップの影響を受けている)」シーンの影響を受けており、暗く、重たい音、ロードラップと同じくリリックも犯罪や暴力的なものが多いことが特徴(特に初期)です。そのため、敵対するギャング同士のディス曲の発表時には、それがエスカレートして暴力的な紛争になることも。

そんなシーンのため、UKドリルファンは、どのラッパーが服役したかやどのギャングメンバーが誰を攻撃したかの考察をネット上で行い、ラッパーのそういった状態などをスコアボード化するのがコアな楽しみ方のようです。

音楽的にはシカゴのドリルよりもグライム、UKガレージの影響(ダンスホールやジャングル、ドラムンベースなどレイヴィーな音楽の影響も)を受けていることから、時に"ニューグライム"と呼ばれることもあるようです。また、UK由来のレイヴの雰囲気も踏襲している感じがあります。

トラックの特徴はシカゴのドリルよりも早いテンポ(標準的なテンポとされるのがBPM140くらいでグライムの標準的なテンポと共通)、重たいキック、スライドするベース(メロディラインを兼ねる場合も)、ダークなメロディーで、早いテンポでパーカッション的に打たれるスネア(もしくはハンドクラップ)の使い方がグライムと共通する部分の例に挙げられる場合もあります。

"UKドリル"確立の立役者67とUKドリルクラシック「Lets Lurk」

このジャンルに当初関わっていたのは、ギャングのメンバー、もしくは犯罪が日常化した荒れた地区、治安が悪い場所に住む者などが中心でした。そういった環境の中から生まれたUKドリルですが、一説によると音楽的に磨き上げ、シカゴのドリルとは別物としての"UKドリル"として確立したのが、サウスロンドンのグループ、67です。

67とロードラップのレジェンドで最重要人物であり、グライムシーンとも親交が深い(Skepta、JME、Stormzyらがアルバム『Landloard』発売時のプロモーションに協力するなど)Giggsをフィーチャーした「Lets Lurk」が、今ではUKドリルのクラシックのひとつとして認知されています。また、67の「Take It There」という曲もUKドリルクラシックのひとつに数えられています。

UKドリルの暴力的な歌詞や描写が物議を醸す

この曲がリリースされた2016年頃は、イギリスでギャングによるナイフクライムが問題になっており、UKドリルの暴力的な歌詞や描写のMVが犯罪を助長しているとされ、問題になりました。しかし、実際の影響力については疑問視する声もあり、ガーディアン誌は、以下のような記事も公開しています。

また、そういった問題からUKドリルのMVが、YouTubeからBANされることも起きており、YouTubeの代替アップロード先として有名ポルノ動画サイト「Pornhub」が選ばれたことも一部で話題になりました。

UKドリルに影響を与えたロードラップの第一人者Giggs

先述のGiggsは、音楽活動も行なっていたサウスロンドンのギャング、"Peckham Boys(Black Gangとも)"の中のサブグループのひとつ、SN1のメンバーとしても活動していた時期もあり、のちに自身のレーベル「SN1 Records」も立ち上げています。

そのGiggsですが、彼にグローバルでの知名度を得る機会を与えたのが、グライムシーンとも交流があったDrakeです。Drakeは、2017年の『More Life』にグライムMCのSkeptaやUKのシンガーソングライターのJorja SmithとともにGiggsをイギリスからのコラボレーターの1人に抜擢。「No Long Talk」、「KMT」でGiggsをフィーチャーしています。

その「KMT」をイギリスの有名フェスのひとつ、レディング&リーズ・フェスティバルで2人が披露する様子がこちら。

また、RedbullはGiggsの代表曲の特集を組んでおり、ストリートヒットから英国の非公式国歌級のカタログがあると評しています。中でも2007年のミックステープ『Ard Bodied』に収録された「Talking Da Hardest」は、Dr Dreがアトランタのラッパー、Stat Quo用に作ったビートを使ったフリースタイル曲でロードラップのクラシックです。

Giggsに関しては、FNMNLがDrake『More Life』リリース当時に公開している「UKラップシーンで最もリスペクトを集めるラッパーGiggsについて」という記事が日本語で読めるものの中では非常に詳しく書かれています。

UKドリルはその後、タイプビートカルチャーとリンクして、ネット経由でUSにも伝播します。

そして、Pop SmokeなどがUKドリルのトラックを使って、UKドリルの影響を受けた「ブルックリン・ドリル」を起こします。そのPop Smokeと縁が深いプロデューサーがUKドリルのプロデューサーの808 Melo。今では彼は、Pop Smokeの代表曲「Dior」のプロデュースを手掛けたことで広く知られています。

Pop SmokeとUKドリルの関係については、筆者のブログでも書いているので、そちらをご参照ください。

"UKドリルシーンのキング"Headie One

そして、現行のUKドリルシーンを代表する1人がHeadie One(ヘディ・ワン)というラッパー。2020年にデビューアルバム『Edna』リリースし、UKアルバム・チャート初登場1位を獲得(それ以前には2014年以降、ミックステープを8作発表しており、2019年の『Music x Road』が5位をマークしている)。Complex UKは"UKドリルシーンのキング"と評しています。

グライム同様、Drakeと結びつくことでグローバル化が進んだUKドリル

また、トレンドに敏感でUKラップに多大な関心を寄せているDrakeも、イギリス国外からUKドリルにいち早く興味を示した1人です。2016年にサウスロンドンのクルー、Section Boyz(2018年にSmoke Boysに改名)のステージにSkeptaとともにサプライズ出演。自分の持ち曲の「Jumpman」を披露しています。(Skepta「Shutdown」のパフォーマンスも一見の価値あり)。この時の会場はキャパ1000人程度のベニューだったので、会場がDrakeのサプライズ出演に沸き立ちました。

Drakeは、2018年のLink Up TVでのUKドリルのフリースタイル「Behind Barz」を披露しており、その時はHeadie Oneのヒット曲「Know Better」の"シィィィー"というパートも引用しています。

また、DrakeとHeadie Oneは、2020年に「Only You Freestyle」というUKドリル曲でコラボ。同曲を手掛けたM1OnTheBeatは、これを機会に808 Meloに続くグローバルに成功するUKドリルプロデューサーとの呼び声も高い注目のプロデューサーになりました。

ほかにもDrakeは、UKドリルのプロデューサーのAXL Beatsによる「War」(2019年)や、「ブルックリンドリル」界隈のラッパー、Five ForeignとSosa Geekをフィーチャーしたブルックリンドリル風の「Demons」という曲をリリース。このようにUKドリルのグローバル化は、グライム同様、Drakeによって進んだ面もあります。

多様化するUKドリルと"BBCが選ぶ2021年注目の新人アーティスト" Pa Salieu

そんなUKドリルのサウンド自体も年々進化しており、最近はグライム以外にもR&B、ダンスホール、アフロビーツ(アフロスウィングとも呼ぶ)、80sポップの要素がサンプリングなどによって取り入れられるなどより多様化しています。

その中でBBCが選ぶ2021年注目の新人リスト「Sound Of 2021」1位に選ばれたUKラッパー、Pa Salieu(パ・サリュ)の「Bang Out」という曲はまさにその基準に当てはまる曲です。同曲では、70年代後半から80年代前半に活躍したイギリスのバンド、Japanの「Ghosts」がサンプリングされています。

ただ、Pa Salieuは、UKドリル以外にもグライム、ダンスホール、アフロビーツの要素が詰まった音楽性が特徴で、そういった内容になっているのが、2020年11月にリリースされたデビューミックステープ『Send Them To Coventry』です。

そのため、Pa Salieuを厳密にUKドリルのラッパーとするかには意見が分かれるケースもあります。例えば、出世作の「Frontline」は、UKドリルよりもアフロビーツ寄りのビートが印象的な曲になっていました。(UKアフロビーツの代表的なラッパーJ Husと比較する声も)。

とはいえ、仮にUKドリルのことを先述したとおり、グライムの系譜にある"ニューグライム"として捉えるなら、グライムがほかのジャンルの要素を融合しているように、Pa Salieuの音楽性はある意味、UKドリルの進化系と言っても良いのでは?という印象もあります。

ちなみにUKドリル界隈で次のブレイク候補と言われているCentral Ceeという若手ラッパーですが、「Loading」という曲(現時点でのYouTubeでのMV再生は1000万回以上)では、ジャズ風のサックスループが使われていたりと、進化の過程にある"UKドリルの今"を感じさせてくれます。

UKドリル関連のおすすめ読みもの

UKドリルの進化については、DJ Magが「The evolving sound of UK drill」という記事を公開しています。これは、シーンのプロデューサーにインタビューした"プロデューサー目線"からみたUKドリルシーンの進化という興味深い内容になっています。

Pollenが公開している「The Evolution Of UK Drill And Why It’s Set To Stay」では、UKドリルの人気拡大について、YouTubeの専門チャンネル、TwitterでのMV拡散、TikTokのダンス動画によって、これまでUKドリルに触れる機会がなかった人にも認知されやすい環境になったことを理由のひとつとして挙げています。

次回は最終パートとなる「これから注目のUKラッパーについて」のこぼれ話を書きます。

J-WAVE(81.3fm) SONAR MUSIC 「新世代UKヒップホップ」特集のタイムフリー聴取は以下のツイートをご参考ください。


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