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パジャマで海なんかいかない @WATERRAS〈JAZZ AUDITORIA〉(20240428)

 陽光と快い音を浴びた、都心のグルーヴィなオアシスタイム。

 2024年はレコーディングや各ソロ活動などに注力するために活動休止と宣言しながら、“クインテット”以外の編成ではライヴやイヴェントも行なっている“パジャ海”ことパジャマで海なんかいかないが、東京・神田の複合施設「ワテラス」(WATERRAS)を舞台にした入場無料のジャズ・イベント〈JAZZ AUDITORIA〉に出演。2013年からスタートし、12回目となる〈JAZZ AUDITORIA〉は4月26日~28日の3日間で開催。その最終日となる28日のパジャ海のステージを観賞した。

 この日のパジャ海は、FiJAを除いた4名編成。3月に行なわれた竹内アンナのビルボードライブ東京公演(「竹内アンナ @Billboard Live TOKYO(20240301)」)にバックバンドとして参加していたこともあり、生演奏を体感するのは約2ヵ月ぶりと、久しぶりな感じはなし。いつもはアーシーな色合いと柄のパジャマを“正装”としているが、BesshoとHarunaがTシャツにオーバーオールといったように、都会の街中の昼間のジャズフェスだからか、外見的にはパジャマ感がないままステージに登壇。老若男女が集う、爽やかな洒脱と祝祭感が漂うなかで、ジャズの気風がもたらすセッションならではの自由闊達な演奏を繰り広げた。

 まずは、クロエを除いた楽器隊で春の快い風のような肌当たりのインストゥルメンタル曲から音を滑らせていくと、クロエも加わって、ジャズ・スタンダードの「ジャスト・フレンズ」へ。1931年に作られ、チャーリー・パーカー やチェット・ベイカーをはじめ、ビリー・ホリデイ、サラ・ヴォーン、フランク・シナトラなど多くのジャズメン&ヴォーカリストが紡いできたスタンダードを、パジャ海らしくスタイリッシュかつパッション溢れるアレンジで披露。続く「Between the Lines」からは再びオリジナルに戻ったが、普段ならポップな彩りで描くフックも、ジャズ・フェス仕様ということで、小粋なテクニックや、変則的な間を挟み込んだアレンジに。「我々はオーセンティックなジャズ・バンドはないけれど、ジャズに、ジャズ・ミュージシャンに、ジャズ・イヴェントに関わるスタッフに、ジャズを愛するファンに、最大のリスペクトを持ちながら、自分たちらしい音楽をやっていきます」とBesshoが語って、「Brazen Fire」から中盤・後半へと進めていく。

 ワテラスの特設ステージを俯瞰し、ビルに囲まれた都会の音のオアシスといった佇まいを感じたか、「Rain」以降はしっとりとしたムードや、クロエのヴォーカルの陰影を強めたアレンジで、静けさを帯びたパッションを発露させたアクトに。演奏中はメンバーの一挙手一投足に目を注ぎ、音に身体を委ねていた観客も、演奏が終わるや否や拍手喝采。Besshoが「こんな大勢のお客さんを前に、“タダ”で見ていただけるなんて、本当にありがとうございます」としたり顔で話し、笑いを呼んでいた。

 クライマックスは新曲の「Boredly you」(曲紹介の時にBesshoの発音をクロエがただしてネイティヴな発音で言っていたが、本当にリスニング能力皆無なので、曲名が耳で聞き取れないのが辛い。「自信があるみたいな意味」とクロエが説明していたから、たぶんBoredlyだと思う、いや、思いたい……)と「Electric」。新曲は、ベースやドラムのボトムが力強くリズミカルに響き、鍵盤が跳ねるアッパーなファンキー・ソウル。観客のクラップにいざなわれ、伸びやかな声を上空へと放つクロエのヴォーカルが愉悦を呼んだこの曲は、「Trip」「Electric」に続くキラー・チューンになりそうだ。

 Harunaのファットなベースから導かれた「Electric」では、そのイントロでメンバー紹介を兼ねてソロ・パートを披露。パジャ海というバンドの1ピースではあるのだけれど、それぞれがソロやサポートなどで手練を繰り出す俊英たちだけに、ソロ・パートでもそれぞれに個性が滲み出ているようで愉しい。Harunaが小柄なのを感じさせない地を這うようなベースをブイブイと鳴らせば、Seiyaがエナジー滾る独創的なリズム感のドラミングでより漆黒のグルーヴを纏わせた後に到達したクロエのヴォーカルが舞うフックは、実に開放的なヴァイブスを湛えていた。

 FiJA不在の4人編成だったが、ジャズ・フェスならではのややインスト・パート多めのアレンジにマイナーチェンジしたのか、全体的にコンパクトながら音の振れ幅や抑揚もある仕上がりに。FiJA不在が物足りないということは皆無で、むしろこのカルテットにFiJAが加わったら、より音の奥行きや彩色が潤いそう……という期待を大きく感じたのだった。

 個人的には全くジャズに明るくはないが、パジャ海を通してジャズのフレキシブルな音楽性と闊達な音色を浴び、五感を刺激させることが出来たフリーライヴだった。

◇◇◇
<SET LIST>
01 Seasons
02 Just Friends (well known for song of jazz standard)
03 Between the Lines
04 Dawn
05 Brazen Fire
06 Rain
07 Don't forget me
08 Boredly you (New Song)
09 Electric

<MEMBERS>
パジャマで海なんかいかない:
Bessho / 別所和洋(key)
Chloe / クロエ(vo)
Haruna / まきやまはる菜(b)
Seiya / 小名坂誠哉(ds)

パジャマで海なんかいかない(Bessho / Chloe / Haruna / Seiya)

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【パジャマで海なんかいかないに関する記事】
2023/04/23 パジャマで海なんかいかない @天王洲キャナルフェス(20230423)
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2024/03/01 竹内アンナ @Billboard Live TOKYO(20240301)
2024/04/28 パジャマで海なんかいかない @WATERRAS〈JAZZ AUDITORIA〉(20240428)(本記事)

もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。