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EYRIE / パジャマで海なんかいかない @CHELSEA HOTEL(20230521)

 躍動するパジャ海と怪演のEYRIE、それぞれが描く刺激的な音空間。

 4月23日の天王洲キャナルフェスでのフリーライヴで初めてライヴを観た(記事→「パジャマで海なんかいかない @天王洲キャナルフェス(20230423)」)別所和洋のプロジェクト、“パジャ海”ことパジャマで海なんかいかないが、3ピース・インストゥルメンタル・ユニット“EYRIE”(エイリー)の東名阪対バンツアー〈interwave〉の東京公演に出演すると聞き、渋谷チェルシーホテルへ。パジャ海は5名編成のプロジェクトだが、ツインヴォーカルの一角のFiJAが体調不良(声が出ないとのこと)で休養を余儀なくされ、急遽4名編成でのパフォーマンスとなった。

 ヴォーカルのクロエは、金曜夜のBLUE NOTE PLACEでのマーク・ド・クライヴ=ロウのステージ(記事→「Mark de Clive-Lowe & Friends @BLUE NOTE PLACE(20230519)」)でのゲストとしてその歌声を聴いたばかりだが、現本隊プロジェクトへ戻って、ヴォーカルの"違い”が感じられるかを意識しながら、開演の時を待った。

 天王洲キャナルフェスで観た時と同様のアーシーな柄のパジャマ風衣装で登場し、最初はヴォーカルレスの3名によるインストゥルメンタル「SOMI」からスタート。「ヴォーカル(FiJA)が一人休みだから守りに入ると思いきや、新曲4曲をやるという攻めの姿勢」という別所の言葉のとおり、クロエがステージインしての2曲目のヴォーカル曲から惜しげもなく新曲を披露していく。

 クロエのヴォーカルは、瑞々しくエレガントな佇まいが魅力。いわゆる明澄なヴォーカルは時に淡白に感じることもあったりするが、ネオソウルやR&Bとの親和性が高いクロエのヴォーカルは、声色に言わずもがなソウルネスが根ざしているに他ならないのだけれど、単に綺麗というか淀みがないというだけではない、奥深さが伝わってくるから不思議だ。深緑の大自然にも響きわたるような浸透力に満ちたヴォーカルには、神秘性も垣間見えるよう。「Brazen Fire」での伸びやかな歌い口を聴くにつけ、そう再認識した次第だ。

 また、クロエの流麗なヴォーカルを心地よく泳がせているのが、別所の鍵盤から放たれるメロディだろう。時に軽やかに、はたまた畳み掛けるように抑揚激しく旋律が楽曲の道標となって、ヴォーカルとともに楽曲に陰影を深く刻んでいく。その連帯性があるからこそ、Harunaのベース、Seiyaのドラムとともに弾き出す、アブストラクトで変幻自在に変貌を遂げていくバンド・サウンドにも嫌みなくフィットしていくのだろう。 

 バンドのみで披露した「Dream Journey」では、小柄ながらも身体全体でリズムを放つHarunaがソロパートでブインブインとファンキーなボトムを鳴らせば、Seiyaが溌溂としたリズミカルな打音から水流がぶつかるかのごとくの躍動みなぎるドラミングまでを往来し、別所がアウトロを美しく纏めていく。3名のバンド隊ではあるのだが、非常に音の厚みとグラデーションを感じる。そのあたりに確固たる訴求力や快活なグルーヴが生まれる秘訣があるのかもしれない。クロエが戻って披露した「Between the Lines」でもその迫力やバランスの妙は変わらず。Seiyaが緊迫感をもたらすアグレッシヴな高速ドラミングを畳み掛けても、螺旋となって一糸に纏いながら昇華する、勢いと鮮烈な色彩感は秀抜だ。

 ところで、ベースのHarunaとEYRIEのドラムの山近拓音が中学の時から一緒という縁もあってか、親しい交流を続けているなかで、今回EYRIEの対バンライヴへの出演に至ったようだ。別所の「幼なじみでベースとドラムって、なんか恋とか生まれなかったの?」の問いには、Harunaが「まったくもって生まれませんでした」との回答で、フロアに笑いが起こる場面も。

 後半も新曲2曲をラインナップ。「Don't forget me」はやるせなさを醸し出すほの暗さを纏ったメランコリックなチルアウトを軸にしているが、チチチチというドラムビートの音を皮切りに、焦燥や苦悩を感じる性急なリズムへと展開していく。どこかしらエリカ・バドゥ風のやや物憂げなトーンを想わせる作風にも感じた。

 思わず「最後の曲になりますが……え、違う?」とクロエが言ってしまったように、これまではラストに配していた「Trip」だが、この日はラスト前に。「Trip」では、おそらく本来ならFiJAが歌うパートを、別所やHaruna、Seiyaも歌うなど、また違ったコーラスの形が楽しめる瞬間もあった。

 「この距離で観られるのも、今のうちですよ」と茶目っ気たっぷりに別所がパジャ海での自信や充実ぶりを感じさせる言葉を発したところで、「〈Trip〉を越えるさらに凄い曲ができた」という新曲「Electric」へ。ワウっぽいファンキーな音鳴りのなかを颯爽と歌い紡ぎ、ヴォルテージをさらに高めるドラミングを経て、「なにが始まる、踊りたくなる」というコール&レスポンスでオーディエンスとジョイフルなグルーヴを共鳴させながら、エンディングを迎えた。

 残念ながらFiJAを欠いたステージとなった……という感覚は、最後まで沸き起こることはなかった。むしろ、新曲たちがFiJAのヴォーカルが加わった時には、どのようなケミストリーが起こるのかという期待を抱かせるステージになったのではないか。新曲群とともにギアを上げたパジャ海の勢いを体感した、あっという間の60分だった。

◇◇◇

 全くの予備知識もなく、初観賞となったEYRIE(エイリー)。鈴木瑛子(ほんのり初期のm-floのLISAの雰囲気も)、RINA KOHMOTO(ショートヘアを振り乱し、ハート柄が多く入ったアウターが印象的)の女性鍵盤奏者2名とドラマーの山近拓音という、全員がバークリー音楽大学で研鑽を積んだインストゥルメンタル・ユニットだ。最大の特徴は、連弾とドラムで波濤のように迫りくるダイナミズムだ。

 ステージ左の鍵盤1台の前に鈴木とKOHMOTOが並び、右端にドラムの山近という、中央がぽっかりと空いた配置にも少し驚いたが、のちにKOHMOTOがショルダーキーボードを抱えてセンターへ登場し、納得。

 仏の小説家、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの童話『星の王子さま』をオマージュしたデビュー・アルバム『Eyriesii』(エイリーシー)の楽曲を中心に構成していくが、前半には「マイ・フェイヴァリット・シングス」(ミュージカル『ザ・サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌、というよりもJR東海のキャンペーン「そうだ 京都、行こう。」のCMソングという方が分かりやすいか)のEYRIE流カヴァーも。ただ、カヴァーとはいうものの、おなじみのメロディ以外はあまり原型を保っていない、非常に斬新なアプローチで疾走していく。

 ある物語を題材にして楽曲を生み出すというコンセプトは、YOASOBIやHoneyWorksなども展開しているから、特段珍しいという訳ではないが、ヴォーカルレスのインストゥルメンタルで描き出すという特色ゆえ、楽曲はドラマティックという以上にダイナミックでエネルギッシュ。アルバム『Eyriesii』の紹介コメントには「物語のシーンを想起させるような、美しくノスタルジックなメロディを奏でる」といったように書かれているのだが、それは彼らが「なかでも大切にしている楽曲」として演奏前に曲の説明をするという「Because It is She」くらいで、息を呑むような疾走感にパッションが重なるジェットコースターのような展開の妙が肝。特にゾーンに入ったかのように鍵盤に指を滑らせるKOHMOTOの恍惚の表情は、目を惹きつけられる。そのKOHMOTOは、ボカロPによる和の要素を採り入れたエレクトロ・ダンス・ポップのエッセンスも感じる「月の色の輪」や「Just Like the Grown-ups」、いつかどこかでまた会えるようにという願いを込めて作ったという「Someday, Somewhere」でショルダーキーボードを駆使し、小柄な体躯を大きく揺らしていた。

 憑依感のあるKOHMOTOとは対照的に、鈴木はあまり穏やかな表情を崩さないのだが、指先のそれは別物で、波動が蠢くような鮮烈で生命力に溢れる演奏を"仕掛け”てくる、そのギャップが面白い。山近のドラムもアタックが強いアグレッシヴなドラミングを響き渡らせるが、けたたましさを感じないのは、鍵盤と高い濃度でシンクロするグルーヴを放っているからだろうか。

 ヴォーカルレスで紡いだ60分。胸を鷲摑みにされるような連弾の妙がエキセントリックなドラムと交じり合うサウンドスケープは、喜怒哀楽、紆余曲折を高濃度で凝縮したかのごとくのエキサイティングな音絵巻か。オーディエンスを独創的な世界へといざなう、刺激的な怪演となった。

◇◇◇
【パジャマで海なんかいかない】
<SET LIST>
01 SOMI(Instrumental)
02 (New Song)
03 (New Song)
04 Brazen Fire
05 Dream Journey(Instrumental)
06 Between the Lines
07 Don't forget me(New Song)
08 trip
09 Electric(New Song)

<MEMBERS>
パジャマで海なんかいかない are:
Bessho(別所和洋 / key)
Chloe(Chloe Kibble / vo)
Haruna(まきやまはる菜 / b)
Seiya(小名坂誠哉 / ds)

【EYRIE】
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Eyriesii
02 Star Crossing
03 43rd Sunset
04 My Favorite Things(Original by song from musical "The Sound of Music")
05 The Seventh Planet
06 Because It is She
07 月の色の輪
08 (New Song)
09 Just Like the Grown-ups
10 Someday, Somewhere
≪ENCORE≫
11 (New Song)

<MEMBERS>
EYRIE are:
鈴木瑛子(key)
Rina Kohmoto(key)
山近拓音(ds)

◇◇◇
【パジャマで海なんかいかないに関する記事】
パジャマで海なんかいかない @天王洲キャナルフェス(20230423)
Mark de Clive-Lowe & Friends @BLUE NOTE PLACE(20230519)(Chloe出演)
EYRIE / パジャマで海なんかいかない @CHELSEA HOTEL(20230521)(本記事)

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