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竹内アンナ @Billboard Live TOKYO(20240301)

 モダンな染色で新鮮な景色を生んだ、才女とパジャ海とのケミストリー。

 デビュー5周年を迎えたシンガー・ソングライターの竹内アンナが、東京、大阪、横浜の3都市を巡る自身初のビルボードライブツアー〈Billboard Live Tour 2024〉を開催。5周年というメモリアルイヤーに相応しく、バックバンドに“パジャ海”ことパジャマで海なんかいかないのクアトロ・セットを招いたスペシャルなステージの初日、東京公演の2ndステージに足を運んだ。

 正直なところ、竹内の楽曲を熱心に聴いてきた訳ではない自分が、このライヴへ歩みを運ばせたのは、マイ・フェイヴァリットなパジャ海がバックバンドを務めるから、という部分は少なくなかった。2024年のパジャ海は5名体制でのライヴはなく、楽曲制作や各メンバーのソロワークスなどに重心を置くとのことだったから、5名体制に近しい形でのライヴを観ておきたかったというのもある。

 とはいえ、竹内に興味がないということではなくて、意図せず耳に止まった「TOKYO NITE」や、こちらもマイ・フェイヴァリットなAFRO PARKERが客演した「Now For Ever」などを通して気になっていた存在ではあった。竹内をステージで観るのは、昨年11月のパジャ海のコットンクラブ公演(記事 →「パジャマで海なんかいかない @COTTON CLUB(20231102)」)のゲスト出演に続いて2度目。その時のパフォーマンスを踏まえ、いつか単独公演を体感したいと考えていたところ、タイミングよく本ツアーと重なった、ということになる。駆け込みではあるが、直前に竹内のプレイリストなどを一気に聴き齧って、六本木へ向かった。

 クロエのコーラスを配したバンドによるイントロダクションがフロアに響くなか、主役の竹内が登場。瞳が大きく、ガーリーなルックスとこざっぱりした感じあるキャラクターの竹内だが、時にスウィートに寄り添ったかと思うと、時にアグレッシヴに歌い放つなど、楽曲の世界観によって声色を変化させるヴォーカルと、ギターを走らせながら、ビートを掴むことに長けたリズミカルなグルーヴが何と言っても魅力だ。「WILD & FREE」では、Besshoのラグタイム風のソロパートを加えた軽快に跳ねる黒人音楽特有のジャズのリズムを基調に、マーチよろしくジョイフルなパッションを伴ってグイグイと推進し、一方、「TEL me」では深い夜を想わせる落ち着いたムードのなかで、人懐こい声色で歌い紡ぐなど、動と静とで別の表情を見せてくれる。

 それぞれの楽曲の色彩を、Besshoを中心としたパジャ海サウンドが、巧みにブラッシュアップ。いや、ブラッシュアップというよりは、竹内のなかにあるタレント性をジャズの観点から引き出したアレンジへ編み直した……という方が適切か。スペシャルなアクトとして、クロエをステージ前方に招き入れて、パジャ海の「Let Me Know」をデュエットするという一幕も。パジャ海の音の波のなかを優雅に泳ぐような竹内のコーラスが印象的だった。

 中盤では事実上竹内を知った楽曲でもある「TOKYO NITE」を。ビルボードライブはライヴのクライマックスやアンコールに背後のカーテンが開いて、全面ガラス窓から夜景が目に飛び込んでくる光景が恒例だが、舞台は東京・六本木だけに、本編ラストかアンコールにて、輝く夜景をバックに「TOKYO NITE」を歌うのでは……などとベタ過ぎる予想をしていたが、あっさりと外れた。次の「made my day」は、原曲ではジャズ・トランペッターの黒田卓也とジャジィ/ローファイ・ヒップホップ・シーンでも支持を得ているビートメイカーのマーカス・Dが客演していることもあり、ジャジィなアクセントが散りばめられているが、ここではBesshoのオルガン風の鍵盤の音色とクロエのスキャットなどで再調理。「TOKYO NITE」からの2曲の流れは、落ち着きあるネオソウルやローファイ・ヒップホップといった個人的な嗜好の作風で、濃厚なブラックネスを愉しめた。

 3月20日に3rdアルバム『DRAMAS』がリリースされるとあって、そのリード・トラック「最幸のふたり」と同アルバム収録の「BREAK MY CASE」の新曲群を披露。演奏前に「早く聴いてもらいたいという気持ちがあるので……」と告げるやいなや、フロアから「オォ~!?」と声が上がるも、「あ、そういうのいいです。言われなくても、やるんで! 新曲やります!」という返しが面白かった(アンコールでも「最後の曲となってしまいますが……」に観客が「え~!」と声を上げるも「あ、大丈夫です。そういうのも大丈夫で~す」と言っていた…笑)。

 このツアーは、5周年のメモリアルとアルバム『DRAMAS』を祝すことが核であるのは言うまでもないが、もう一つ核があるとすれば、パジャ海の客演曲「生活」を実際にステージで共演し、演奏することだろうか。パジャ海のコットンクラブ公演時とは曲順を逆にした「生活」からグルーヴィなアッパー「Free! Free! Free!」への流れで、終盤へ加速度をつけるつことにも成功。“Yeah Yeah~”のフレーズが走るとともに熱を帯び、さらにクロエによるコール&レスポンス、Harunaのベース、Besshoのキーボード、Seiyaのドラムのソロパート回しを経て、パッションが渦巻いた「I My Me Myself」で融点に達するも、その火照りをジャズ・ボッサ風の音鳴りでゆったりと落ち着かせる「RIDE ON WEEKEND」でエンドロールへと向かわせるという、洒落たアレンジで本編は幕を閉じた(竹内のステージアウト時にクロエのスキャットをフィーチャーしたアウトロで締めたのも良かった)。

 アンコールは、竹内が2018年のママズ・ガンのビルボードライブ東京公演を観て、写真を撮ったのを機に出来上がったという、ママズ・ガンのアンディ・プラッツと共作した「Striking gold」を。この曲を自身初のビルボードライブ公演のラストに披露するという、まさにメモリアルな一瞬に立ち会えることが出来た。
 余談だが、もしやと思い、拙ブログの過去記事を探してみたら、どうやら自分も2018年のママズ・ガンのビルボードライブ公演を観ていた模様(記事→「Mamas Gun@Billboard Live TOKYO」)。竹内が観たのが2ndステージかどうかは分からないが、あのモダンなソウルショーから時を重ね、パジャ海という精鋭をバックに「Striking gold」を歌うというストーリーは、本人も感慨深いことだろう(そういえば、ママズ・ガンはアルバム『ゴールデン・デイズ』のツアーで、"ゴールド”繋がりにもなっていたりする)。

 竹内のビルボードライブツアーは3月8日の大阪公演を経て、3月20日の横浜にて完結するが、まだ5周年を祝すスペシャルデイズは続くとのこと。アルバム『DRAMAS』で描き上げたその先にも注目したい、そう思えたステージとなった。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Ordinary days (*1)
02 手のひら重ねれば (*T)
03 20 -TWENTY- (*3)(*M)
04 WILD & FREE (*5)(*D)
05 Let Me Know (duet with Chloe)(original by パジャマで海なんかいかない)
06 TEL me (*1)
07 TOKYO NITE (*2)(*M)
08 made my day(original by 竹内アンナ feat. Takuya Kuroda / Marcus D)(*5)
09 最幸のふたり (New Song)(*D)
10 BREAK MY CASE (New Song)(*D)
11 生活 feat. パジャマで海なんかいかない (*5)
12 Free! Free! Free! (*2)(*M)
13 I My Me Myself (*M)
14 RIDE ON WEEKEND ~ BAND OUTRO
《ENCORE》
15 Striking gold (*4)

(*1):song from EP "at ONE"
(*2):song from EP "at TWO"
(*3):song from EP "at THREE"
(*4):song from EP "at FOUR"
(*5):song from EP "at FIVE"
(*M):song from Album "MATOUSICE"
(*T):song from Album "TICKETS"
(*D):song from Album "DRAMAS"

<MEMBERS>
竹内アンナ / Anna Takeuchi(vo,g)

パジャマで海なんかいかない:
Bessho / 別所和洋(key)
Chloe / クロエ(cho)
Haruna / まきやまはる菜(b)
Seiya / 小名坂誠哉(ds)

Bessho / Chloe / 竹内アンナ / Haruna / Seiya

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【竹内アンナに関する記事】
2023/11/02 パジャマで海なんかいかない @COTTON CLUB(20231102)
2024/03/01 竹内アンナ @Billboard Live TOKYO(20240301)(本記事)

【パジャマで海なんかいかないに関する記事】
2023/04/23 パジャマで海なんかいかない @天王洲キャナルフェス(20230423)
2023/05/19 Mark de Clive-Lowe & Friends @BLUE NOTE PLACE(20230519)(Chloe出演)
2023/05/21 EYRIE / パジャマで海なんかいかない @CHELSEA HOTEL(20230521)
2023/06/27 Funkindustry / パジャマで海なんかいかない @O-nest〈colors〉(20230627)
2023/09/18 パジャマで海なんかいかない / NAGAN SERVER and DANCEMBLE @代官山UNIT〈DEEP DIVE〉(20230918)
2023/11/02 パジャマで海なんかいかない @COTTON CLUB(20231102)
2024/03/01 竹内アンナ @Billboard Live TOKYO(20240301)(本記事)

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