WAY WAVE w/ 仮谷せいら、脇田もなり、PARIS on the City! @GARRET udagawa(20230910)
愛する演者たちとの饗宴で沸かせた、節目と門出のステージ。
“私はあなたのソウルシスター!”と高らかに放つリアル・ソウルシスターズのWAY WAVEが、まだ暑さが続く初秋の渋谷で定期公演〈部員集会〉を開催。第55回を数える本公演は〈WAY WAVE presents「部員集会Special 2023」〉と題して、仮谷せいら、脇田もなりのフィメールシンガーに、ロック・バンドのPARIS on the City!、事務所の後輩のキッズダンサーチーム“DANCE NUTS'”らを迎え、定期公演としては豪勢な、文字通りのスペシャルなステージを展開した。
約3時間という時間枠のなかで、機材転換などがあったにせよ、音楽で感じた愉悦が落ち着くことなくラストまで駆け抜けたのは、それぞれのアーティストがテンポ良くステージを運び、また躍動感に満ちた楽曲を限りなく隙間を作らずに繋げていったからに他ならない。
ファットなベースの爪弾きからスライ&ザ・ファミリー・ストーン「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」へと移行するDJ arincoによるお馴染みの出囃子がフロアに注がれると、そこはもうダンスフロア。フロアの両サイドで回るミラーボールが煌めくなかで、スウィング・アウト・シスター「ブレイクアウト」のカヴァーを含みながら、ソウル、ファンク、ロック、ディスコのグルーヴに心地よく乗り、シャウトするシスターズの痛快なハーモニーで、一気に融点へと高めていった。
ゲスト第1弾として登場したのは、仮谷せいら。WAY WAVEが仮谷に対して「透明感が凄い!」と話していたのを受けて、「そういってくれるのはありがたいが、最近肌の調子が……と悩んでるぞと思いながら歌ってました」と女性ならではの苦労を吐露していたが、その透明感というところも含めて、溌溂とした安定感ある歌唱とステージングが仮谷のチャームポイント。(仮に白のTシャツが映える女性シンガー選手権があったら、ファイナリストには残ると勝手に思っている)爽やかな清涼感と活気をもたらす小柄ながらもバネのあるヴォーカルをブレることなく発することが出来るのは、仮谷ならではの武器だ。ただ、意地悪な見方をすれば、安定感はマンネリにも繋がるともいえる。普段のステージではオケ音源を流すことが多いという仮谷だが、WAY WAVEのバックDJを務めるarincoのサポートが奏功。J-POPに特化したクラブ・イヴェントなどでポップ・ミュージックの勝手を知るarincoが、時にダビーな音でボトムを強調させたり、曲間の繋ぎにアクセントを加えたりして、その"マンネリ”を遠ざける手腕で、仮谷の心躍る歌唱を導き出していた。
仮谷の名をより高めた「水星」からデビュー曲「Nobi Nobi No Style」、そして定番の「Colorful World」への流れは保証付きのそれだが、それらの楽曲には派手やかさは劣ったとはいえ、強く心に刻印したのが「HOME」か。「私にもホームとなるライヴハウスがあったのですが(おそらく惜しまれつつも閉店してしまった代官山LOOPのことだろう)、GARRET udagawaがWAY WAVEの"ホーム”と聞いたので、この楽曲を選びました」とその選曲理由を話していたが、これは自身の拠りどころとなるスペースを大切にして欲しいという、先輩シンガーからのメッセージだったのかもしれない。
ゲスト第2弾は、9月6日にアルバム『UNI』をリリースしたばかりの脇田もなり。WAY WAVEも出演経験のある〈東京歌謡曲ナイト〉や〈東京新宿手帳〉などのクラブ・イヴェントに携わるDJ/振付師のNachuを介して交流を持つことになり、本公演の出演に繋がったとのこと。脇田は〈部員集会〉には初登場で、これでHALLCA、ミアナシメントとともにガールズ・グループ“Especia”出身の現役シンガー3名が全て〈部員集会〉に登場したことになった。
脇田のステージは、8月12日に代々木公園野外ステージで行なわれたフリーライヴ〈東京渋谷ポップシティ〉で観賞して以来(同ライヴにはWAY WAVEも出演)。近年のリリースや活動状況を鑑みるにややもどかしさを感じていたが、2019年の『RIGHT HERE』以来、4年ぶりにようやく4thアルバム『UNI』のリリースに漕ぎつけたことで、上手く言葉に出来ないけれども、それまでなんとなく彼女を覆っていた靄のようなものが晴れてきたような印象も。それは良い意味で肩肘を張らないアティテュードでもあり、難しく考えずに歌うことを楽しむことに重心を寄せようという意識が、そう感じさせているのかもしれない。
バックDJとして脇田を支えるNachuによるハウス/ダンス・ポップに寄せたDJプレイとの相性は言わずもがなで、後半の「IN THE CITY」を短尺にして「I'm with you」へとシームレスに繋ぎ、そこへ清涼感あるハイエナジー/ユーロビート色を添えた「Boyfriend」で纏め上げた流れは、ハウスDJの面目躍如といったところか。中盤にはWAY WAVEからリクエストがあったという、泰葉の楽曲をカヴァー・プロジェクトのPAPER MOON PROJECT feat. 脇田もなりとしてカヴァーした「フライディ・チャイナタウン」と、新作アルバムのタイトル曲「UNI」を配し、脇田の資質の一つである伸びやかなヴォーカルワークと、マイダス・ハッチやトム・ミッシュあたりを遠くに見据えるような80'sディスコや90'R&Bを意識したモダン・ファンク/ハウス、ニュー・ディスコを昇華した新境地を披露。短い時間ながら、新規ファンにも訴求出来る選曲となった。
後半戦はコラボレーション・セクションからスタート。事務所の後輩のキッズダンスクルー、DANCE NUTS'を招いての「SUMMER GIRL」とアン・ルイスのカヴァー「恋のブギウギトレイン」は、先輩・OGというよりも姪甥を見つめるようなWAY WAVEの姉妹の表情が微笑ましいステージに。さらに、脇田と仮谷をそれぞれ再び呼び込んで、脇田とは「3MOTION」を、仮谷とは「Midnight TV」をコラボレーション。特にベティ・ライト「クリーン・アップ・ウーマン」ネタを使った小沢健二「ラブリー」マナーのソウル・ポップ「Midnight TV」では、南部ソウルやゴスペル風の要素が見え隠れする曲風に反応したか、WAY WAVEと楽曲の好反応も見て取れた。
ベースの田中裕一とドラムのちーさーをバックに、姉妹二人が楽器を手にしながら歌うバンド・セクションでは、「祭囃子」から自称“不倫の歌”こと「2番目の女」までを一気に展開。楽器演奏に意識を働かせていることもあって、序盤のDJセクションよりも歌唱のエナジーは僅かに劣るかもしれないが、「ダウンタウングラデーション」では若さだけではない哀感を滲ませた色香を添えた歌唱を、シック「グッド・タイムス」あたりのマナーのカッティングギターが映える「妄想デートソーダ割り」ではグイグイとグルーヴを走らせるなど、フロアを揺らせる熱量はしっかりと確保していた。
最後のゲストとなったのが、Paris on the City!。以前からWAY WAVEのバンドサポートや楽器のレクチャーなどをしていた田中裕一が所属していたロック・バンドだが、8月をもって田中が脱退。WAY WAVEが本公演へのサポート依頼をした時にはまだ脱退が決まってなかったようで、この日は脱退したバンドと元メンバーが脱退直後に共演するという(Paris on the City!にとっては新体制一発目のライヴとのこと)なかなか珍しい光景となった。田中の脱退で抜けたベースは、今井雅也がサポート。今井はParis on the City!として初のステージとのことだが、ギターの小林ファンキ風格が「今井が、幸か不幸か(脱退した)田中が履いていたズボン(の柄)みたいなシャツを着ていて、どういう意志の継ぎ方をしているのかと」と語っているところをみると、(心根での本音はさまざまあるだろうが)脱退後も関係は良好な様子。田中自身も「一人の客としてバンドを観るのを楽しみにしてきた」と話していたが、Paris on the City!のステージ中に声を上げ手を挙げる様子を垣間見て、心からParis on the City!の音楽の楽しんでいたと実感した。
個人的にParis on the City!は初見だったのだが、メンバー個々のキャラクターが濃い印象。女性ファンが多いようで、それまでWAY WAVEファンが陣取っていた前列には入れ替わりでParis on the City!のファンと思しき女性陣が参列。メンバーいわく男性陣が多いフロアはなかなか経験がないとのことで、この日は普段はあまり浴びない雄叫びを浴びて、テンションを上げていた。
ステージは「櫛」を皮切りに、WAY WAVEとのコラボレーションとしてParis on the City!の楽曲「スーパースター」とWAY WAVEの楽曲「SUMMER BREEZE」(音源のギターは小林ファンキ風格が弾いていたとのこと)の2曲を含む5曲を演奏。ロックといってもエッジの刺さるような鋭角なサウンドというよりも、ヴィンテージ・モダンな薫りを窺わせる60年代あたりのソウル/ロックといった印象で、適当なたとえでいうなら、60年代ソウルをビートルズやポップ・バンドがカヴァーした感じといえば、雰囲気はつかめてもらえるか。激しいキメや派手なメロディラインではないのだけれど、どこか斜に構えたというか、どこかに鬱屈さをしたためつつも乾いた音を出そうとする、捻くれ加減を感じるポップ・サウンドは、直情的ではないが、ジワジワと効いてくるような中毒性も見え隠れ。それと、おおよそ恋に臆病な男たちの嘆きや希望を歌ったような詞世界が多そうなのも、女性ファンに人気の要因なのかもしれない。埃っぽさもあるロック「キミはキレイだ」はライヴの定番曲なのか、フロアからクラップや腕を突き上げるアクションが発動。グルグルと蠢く猥雑さと泥臭いなかを突っ切る痛快さが、フロアを興奮で包んでいた。
アンコール明けには、WAY WAVEの二人から「17年所属した事務所を離れ、P-VINEレーベルも離れ、セルフプロデュースで活動」することを発表。歌うことに関してはプロフェッショナルだったとしても、それ以外で裏方としてお膳立てし、支えられてきたことも自身たちが“プロとして”行なわなくてはならないゆえ、これまで触れてこなかった厳しさや責任を痛感することも多いはずだ。だが、それでも自らが欲することへ向かうため、強い意志で舵を切った。もちろんステージ上のパフォーマンスとマネジメントとは勝手が違うが、これまでにも自身たちで多くの楽曲を手掛け、演奏に貪欲に挑んできた姉妹だ。当初は思い通りにいかなくとも、自らがやりたいことを追求したいという、アーティストとして、クリエイターとして、表現者としてこだわる自我を自ら消し去ることは出来ない心境に至ったのだろう。具体的な目先の予定として、年末には配信アルバムのリリースに向けて動いているとのこと。その成否は現時点では誰も分からないが、その信念を応援していきたいと思う。
アンコールラストは、優奈がウェディングソングとして新郎新婦の新しい旅への応援ソングとして作った「僕らの旅」を。「みなさんの応援歌として、みなさんのために歌います」と言って歌い始めたが、もちろんそれは自らを奮い立たせ、自らに活気や勇気を与えるためでもある。杏奈の吹っ切れたように歌い放ったコーラスやフェイクは、不安以上にやってやるんだ!という思いが詰まったようにも感じた。
◇◇◇
<SET LIST>
≪WAY WAVE with arinco SECTION≫
00 INTRODUCTION(include phrase of "Dance To The Music" by Sly & The Family Stone)
01 WAVY GIRL
02 マジカル恋愛体質
03 Breakout(Original by Swing Out Sister)
04 流されていこう
05 ソウルシュガー
≪仮谷せいら with arinco SECTION≫
06 シュドゥダン
07 HYPE
08 HOME
09 水星(Original by tofubeats feat. オノマトペ大臣)
10 Nobi Nobi No Style
11 Colorful World
≪脇田もなり with Nachu SECTION≫
12 遊星からのアイラビュー oh! oh!
13 PEPPERMINT RAINBOW
14 フライディ・チャイナタウン(Covered by PAPER MOON PROJECT feat. 脇田もなり, Original by 泰葉)
15 UNI
16 IN THE CITY
17 I'm with you
18 Boyfriend
≪COLLABORATION SECTION≫
19 SUMMER GIRL(WAY WAVE with DANCE NUTS', arinco)
20 恋のブギウギトレイン(WAY WAVE with DANCE NUTS', arinco)(Original by Ann Lewis)
21 3MOTION(脇田もなり with WAY WAVE, arinco)
22 Midnight TV(仮谷せいら with WAY WAVE, arinco)
≪BAND SET SECTION≫
23 祭囃子
24 ダウンタウングラデーション
25 妄想デートソーダ割り
26 ビリビリBEAT
27 2番目の女
≪Paris on the City! SECTION≫
28 櫛
29 これまでのこと
30 スーパースター(collaborate with WAY WAVE)
31 悪魔の遊歩道
32 キミはキレイだ
33 SUMMER BREEZE(collaborate with, Original by WAY WAVE)
≪ENCORE≫
34 合コン三昧 Oh Yeah!(WAY WAVE with arinco)
35 僕らの旅(WAY WAVE with arinco)
<MEMBERS>
WAY WAVE are:
小池杏奈(vo,g,b)
小池優奈(vo,g,perc)
arinco(DJ)
BAND SET:
田中裕一(b,syn b / ex-PARIS on the City! / 空中カメラ)
ちーさー / ワタナベチヒロ(ds)
Guests:
仮谷せいら(vo)
脇田もなり(vo)
Nachu(DJ)
DANCE NUTS'(dancers)
PARIS on the City! are:
明神ナオ(vo,g)
小林ファンキ風格(g,cho)
阿久津信也(ds,cho)
今井雅也(b/support)
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もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。