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仮谷せいら @LIVE STUDIO LODGE(20230616)

 10年で辿り着いた初ワンマンと新たなNo beat No Smile Style。

 振り返ってみると、初めてしっかりとその音に触れたのは、tofubeats「水星 feat.オノマトペ大臣」に参加していた元気で明るそうな少女という薄っすらな認識の後に手に入れた2015年の1st EP『Nobi Nobi No Styleだったか。山手線の座席に座って一周するシーンを早回しで撮ったタイトル曲「Nobi Nobi No Style」のミュージック・ヴィデオが印象に残っていたが、それから約8年。当時のあどけなさは薄れつつあるけれども、相変わらずのキラキラとした瞳や表情の童顔を見ると、この日が30歳のバースデーというのも驚く。さらに驚くことに、このステージが歌手活動において初のワンマンライヴだという。

 ファンにとっても自身にとっても念願だった仮谷せいらのライヴ〈1st Oneman Live & 30th Birthday Special〉は、フロアを埋め尽くすさまざまな人たちに見守られた、喝采と歓喜に溢れたステージに。会場は代々木にあるLIVE STUDIO LODGE。以前、HALLCAらと出演した1周年記念イヴェント〈LIVE STUDIO LODGE Anniversary event 「Hang Out!!」〉(記事→「HALLCA @代々木LODGE〈Hang Out!!〉」)をはじめ、アルバム『ALWAYS FRESH』のリリースパーティやAmamiyaMaako、Hau.とのスリーマンツアーのファイナル公演などでも会場となっていたから、代官山LOOP無き後の新たな"仮谷'sホームグラウンド”といってもいいか。

仮谷せいら〈1st Oneman Live & 30th Birthday Special〉at LIVE STUDIO LODGE

 光の加減によってはペパーミントブルーにも映ったブルー系のトップスとプリーツ風ロングスカートという出で立ちで登場すると、フロアいっぱいに埋まったオーディエンスを前に嬉しさを弾けさせていた。バンドは左から、ベースにロック・バンド"DATS”の早川知輝、センターのドラムにポスト・パンク系デュオ・ユニット"BRAUSEBADTIL”やインディロック・バンド"CURTISS”で活動するSHOZO、右手にはSHOZOと同じくCURTISS、サポートをしていたGalileo Galileiのメンバーと組んだBBHFでも活動するDAIKI(「Nobi Nobi No Style」を手掛け、Orlandらとともにミュージック・ヴィデオにも出演している)という3ピース編成。同期音源とのシンクロによるバンド・サウンドは、コール&レスポンスも飛び交うチアフルなロッキンポップに仕立てた「Nayameru Gendai Girl」や、終盤に仮谷自身がギターを弾いて演奏した「話をしようよ」「本音」といったシンプルな音鳴りのギターを添えたオルタナティヴなミディアムなどでは、ロック・バンドの面々らしいキレや跳ね、アンサンブルを醸し出していた。

 原曲は電子的なアクセントやダンサブルな曲調が多いこともあって、同期とのバランスはどうなのかと聴いていたが、ガチャガチャと邪魔することもなくスムーズな音としてアウトプット。個人的な嗜好としては、もう少しボトム(ベース)の圧が強くても良かった気もしなくもないが、ギターやドラムも目ざとく前に出てこないサウンドアレンジだったことから、初のワンマンライヴ&30歳のバースデーというメモリアルなステージということも鑑みて、仮谷の歌に寄り添うことを重視したものを意識したアレンジワークだったのかもしれない。

 楽曲は2022年リリースの1stアルバム『ALWAYS FRESH』(レヴュー→「仮谷せいら『ALWAYS FRESH』」)を中心に、デビュー時の楽曲など懐かしい楽曲を含む、オールタイムベスト的な構成。事務所に入所して10年という、単に年数で言えば中堅~ヴェテランへ差し掛かる経歴だが、前述したように、誰もが驚くこのステージが初のワンマンライヴゆえ、集大成ながらもシンガーとしての仮谷せいらを知らしめる名刺的な(たとえば、Perfumeの1stアルバムでベスト盤となった『Perfume〜Complete Best〜』的な位置づけとでも言えばいいか)アクトに。オーディエンスのクラップとともに「どんくらいDon't Cry どんどん暗いCry~」の軽快なリズムとライミングで躍動をいざなう「シュドゥダン」を皮切りに、小沢健二「ラブリー」(ベティ・ライト「クリーン・アップ・ウーマン」)マナーのソウル・ポップ「Midnight TV」と序盤から心地よいビートが跳ねるジョイフルなムードがフロアを包んでいく。

 ファンからのリクエストが多かったことが窺える、オーディエンスの高鳴るクラップとコールが響く「ZAWA MAKE IT」を境に、仄かにセンチメンタルな翳りを忍ばせたエレクトロハウス風の「HYPE」や、仮谷楽曲としてはあまりないラップ風フロウも配したオルタナティヴR&B「HOME」といった大人な雰囲気も垣間見える作風へ。中盤では虚無や喪失、焦燥などの揺れ動く胸の内を吐露する艶やかさも見え隠れした「フロアの隅で」や、U2「終りなき旅」( I Still Haven't Found What I'm Looking For)あたりへも繋がりそうなUKロック作風のギター・アレンジを鳴らした「いつか忘れるなら」などで、表情豊かなヴォーカルワークで"フレッシュ”なだけではない、経験を重ねてきた仮谷のシンガー像を発露していた。

 最も喝采と歓声が響き渡ったのは「水星」だろう。メロウなイントロが流れると、促されるまでもなくフロアからクラップが放たれ、コールやシンガロングが発動。「めくるめくミラーボール乗って水星にでも旅に出ようか」という名フレーズの大合唱には、良質な楽曲、ヴォーカル、サウンドだけではなく、ようやく辿り着いたワンマンライヴというメモリアルな時間を、存分に最高な気分で共有しているという一体感が充溢していたようにも思えた。それに続く「Nobi Nobi No Style」という原点を振り返るような"仮谷クラシックス”への流れも白眉。オーディエンスが「Nobi Nobi No Style~」とコールを重ねていくうち、人一倍のスマイルに満ちた仮谷の顔が愉悦と快感を表わしていた。

 ただ、ほんの少し余計なことを言うと、デビュー以来で「水星」がステージで最高となる現状は変えたいか。「水星」が最高なのがダメなのではなく、「水星」も最高となる楽曲やパフォーマンスが多く生まれたら、それに越したことはないはずだ。今は「Colorful World」がそれに当たるのかもしれないが、これからもさまざまな彩りの曲世界を描き続けて、ヒットアンセムを生み出して欲しいものだ。

 デビューEP頃からその声や音に触れているが、ステージでの歌唱をしっかりと体感したのは、おそらく2020年(→「〈FRESH!!〉 @六本木 VARIT.【HALLCA】」)ゆえ、ほぼ新参のようなもので、多くを知っている訳ではない。その数少ないライヴ体験のなかでも、一つ頭に引っ掛かっていたことがあった。それは、安定性の高い活力溢れるヴォーカルや笑顔をはじめ表情豊かに演じる姿は非常に魅力的なのだが、彼女のパフォーマンスにどこか最後まで突き抜けた、完全にスッキリとした清々しさや晴れやかな感情を抱くまで、あともう一歩というところで至らない……そんな気がしてならなかったのだ。ライヴパフォーマンス自体に問題があるという訳ではなく、なにか上手く言語化出来なかったのだが、オーディエンスへ向けてと同等に内向きに張り切っている感じが拭えないでいた。

 アンコール後のMCで「自分が必死に生きるために10年間を音楽をしていた」との言葉を聞いた瞬間、おそらく脳裡の隅に引っ掛かっていた、完全にスッキリとしない感覚の素は、このことだったのかもしれないと思えた。これからはファンやリスナーからもらったパワーを素に「自分の音楽で(多くの人たちを)楽しませたい」と30代の抱負を述べていたから、今後はより清爽で快活なパフォーマンスが見られそうだ。思えば、この日はいつも仄かに頭をかしげていた感情や感覚はないままだった。気が付くと、アンコールまであっという間に感じたのは、その証左だったのだと思う。

 ラストは「みなさんの明日がカラフルになるように願いを込めて」と語りかけて「Colorful World」へ。その言葉に感化されたフロアの方々からコールとクラップが興奮の波を呼び起こし、そのヴォルテージはシンガロングとともに最高潮へ。「この瞬間 思うまま 走り出そう きっと 世界は変わる」……歌うことでの足枷が外れた彼女は、より新たな鮮やかな彩りの"カラフルワールド”を創造出来るはず。ようやく自らが世界"を”変えるスタートラインに立てた……そんな想いも交差した、感嘆に満ちた90分だった。

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<SET LIST>
01 シュドゥダン (*AF)
02 Midnight TV (*AF)
03 ZAWA MAKE IT (*AF)
04 HYPE (*AF)
05 HOME (*AF)
06 フロアの隅で
07 いつか忘れるなら
08 Nayameru Gendai Girl
09 Odora Never Cry (*AF)
10 水星 (Original by tofubeats feat. オノマトペ大臣)(*AF)
11 Nobi Nobi No Style
12 話をしようよ (band & sing with a guitar)(*AF)
13 本音 (band & sing with a guitar)(*AF)
≪ENCORE≫
14 大人になる前に
15 MYC
16 Colorful World (*AF)

(*AF):song from album『ALWAYS FRESH』

<MEMBERS>
仮谷せいら(vo,g)
DAIKI(g / BBHF / CURTISS)
早川知輝(b / DATS)
SHOZO(ds / BRAUSEBADTIL / CURTISS)

Opening Act:lui vero
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lui vero

 オープニングアクトは、lui vero(ルイ・ヴェロ)という若きアーティスト/MC。ステージ経験はそれほどないようで、「全然緊張してないですけど」と言ってはいたが、そういった意地も清々しい。

 愛する人が離れてしまった日々を忘れられない機微をセンチメンタルに綴った「Life with you」や、チキチキとしたビートと翳りのあるR&Bマナーのメロディのなかで想いを放つ「Flower」、忘れたくても忘れられない、君のいない世界は死と同然という嘆きを甘いファルセットで歌う「suicide」など、ラヴソングが中心か。ヒップホップ・シーンは明るくないので分からないが、AK-69あたりの歌重心のフロウを展開するリリシストタイプなのかも。

 「君は水星のよう」からはクラップを促してフロアの温度を上昇させて、「メロンソーダ」でフィニッシュ。スクリューしたりヴォーカルエフェクトを用いたトラックはレトロモダンで、ジャジィ・ヒップホップ的な要素も散見。歌唱はさらにステージ度胸がつけばよりハクも出てくると思うが、(「君は水星のよう」のミュージック・ヴィデオの印象からも分かるように)都会の夜の風景を想起させるトラックセンスが絶妙。言葉でなぎ倒していくのとは対照的に、ドラマティックなストーリー性に溶け込んでいくようなヴォーカルスタイルが魅力だ。レイドバックな面持ちもあり、R&B/ヒップホップ・シーンはもちろん、トラックメイクにおいてはソウル歌謡やシティポップを好む界隈にも耳を惹きそうな手合いで、これからが楽しみな存在だと思う。

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【仮谷せいらに関する記事】
2020/01/25 〈FRESH!!〉 @六本木 VARIT.【HALLCA】
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2022/12/07 〈歌とおしゃべり 冬物語〉@mona records
2023/06/16 仮谷せいら @LIVE STUDIO LODGE(20230616)(本記事)

もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。