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AFRO PARKER @WALL&WALL(20231216)

 喜悦と感謝に満ちた、年納めのナイスグルーヴ。

 約1年ぶりに生観賞した“アフロパ”は、相も変わらず笑えて、洒落ていて、何よりもしっかりとグルーヴに乗れるステージだった。(当初は“生音ヒップホップバンド”と称していたと思うが)いつからか自ら掲げ出した“O.K.O.D.”(オシャカッコオモシロドープ)を文字通り体現し、2023年の活動を納めることに成功した。

 各地でサラリーマンとして働く2MCと5人の楽器隊による7人組ヒップホップ・バンド、通称“アフロパ”ことAFRO PARKERの年末恒例のイヴェント〈AFRO PARKER presents HEADS UP!! vol.08 ~年末ジャンボ大感謝祭~〉が、表参道にある開放的なデザイナーズ多目的スペース、WALL&WALLにて開催。昨年の〈年末ジャンボ大感謝祭〉は渋谷GRITで行なわれたが(記事→「AFRO PARKER @渋谷GRIT」)、2023年は2019年と同じくWALL&WALLに舞台を戻した形だ。自分のライヴ観賞も昨年末以来となる。

 洒落たミニマルなフロアには、20代後半~30代のアラサー世代を中心とした女性ファンが多く詰めかける。体感的な男女比は2:8くらいか。ゴリゴリやハーコーといった殺伐や重厚が支配するのとは対照的に、洒脱とコミカルを融合させながら、生音による表情豊かなビートとグルーヴを走らせる。一見軽薄に見えがちだが、寧ろしっかりとオーソドックスなヒップホップを構築するスタイルは、一般的にはどこかヒップホップ=MCバトルといった一面的な先入観が蔓延るきらいもあるなかで、ヒップホップの壁を取り払い、その間口を広げているという意味でも、AFRO PARKERのライヴに若い女性が集う一つの理由にもなっているのかもしれない。そして、母性をくすぐりそうなMC陣、特に後列のイケメン陣というバンドの組み合わせも、女性人気が窺える一因といえそうだ。

AFRO PARKER presents HEADS UP!! vol.8〜年末ジャンボ大感謝祭〜

 Furui Riho「ピンクの髪」がフロアに流れ始めた矢先に暗転し、ライヴがスタート。AFRO PARKERのイントロダクション的なトラック(「O.K.O.D.」?)に続き、サラリーマン・ラッパーの苦悩を綴ってきたアフロパのアンセムともいえるシリーズから「After Five Rapper II~SHACHIKU CAPRICCIO~」という定番の流れで、軽快にフロアのヴォルテージを高めていく。かつては後半に組み込まれていたと思しきアッパー・ディスコファンクな「Cosmic Dance」も、近年ではクオリティスタート的にフロアの熱度を高める楽曲として早々と披露すると、AFRO PARKERのライヴの一つの楽しみともなるコミカルな“インタールード”へ。本公演では、入場時に配布した来場者特典「缶バッジ」をテーマに、JAZZY SPORTのAPPLEBUMのスウェットパーカーを着た弥之助に宿る笑いの種が発露。缶バッジを握って念じると自身の深層心理がどこからともなく漏れ出てくるという仕掛けで、最初はファンへの感謝やライヴでの愉しさについて(缶バッジが)語っていたのが、次第に「最高の気分の時って全てを破壊してみたくなる」「丁寧に積み上げたものが一瞬で壊れる瞬間が一番興奮する」など深層心理が暴走し始める……といった具合だ。

 このステージへの笑いの挿入がライヴとして邪魔にならないのは、単なる一発のウケ狙いのものではなくて、その後もいくつかこの「缶バッジ」が登場し、伏線を回収していくように練られているからだろう。中盤でメンバーが隔週土曜に配信しているオンライン飲み会「ロパ飲み」のライヴ・ヴァージョンという体での休憩(フリートーク)が長引きそうになった瞬間には、サイレン音とともに「MCの時間が超過しました。次の曲へ進んで」と告げ、「ライヴでがっちり心を掴むオススメの楽曲を紹介しますか」と提案してきて「オアシスの〈Don't Look Back in Anger〉…」と答えるなどの小ネタを挟みながら、「AFRO PARKERの曲で」という弥之助の問いかけに「Klein Bottle」と答えて、その曲へと雪崩れ込む。 

 また、「Get On The Mic」が終わった後に、未来に電話が出来る機能もあると缶バッジを持ち出して、“1年後の自分”に電話を掛けると、闇落ちした太く低い声の1年後の弥之助が“全てを破壊せし者”として通話に出る。弥之助が全てを破壊せし者になったきっかけは何かと尋ねると「2023年12月にシングルがリリースできなかったことに絶望したから」と答える1年後の弥之助だったが、あらためて「〈Spin a Vinyl〉リリースしたけど」と問いただすと、「ああ〈スピバイ〉の時か……じゃあ、全てを破壊するのを止めるわ」と納得。それを受けた弥之助が「“世界を救った曲”ということで、先週リリースした曲をやります」とのフリから「Spin a Vinyl」へ繋げるなど、いわば喜劇にもとれる演出を施しながら、ステージ構成のアクセントとして機能させている。ここで笑いが起きなければ、ライヴのノイズにもなりかねないが、このスタイルは当初からステージで積み重ねてきた一朝一夕のものではないゆえ、ライヴのテンポを乱さず、進行を妨げない楽しめるエッセンスの一つになっているのだと思う。

 ちなみに、フリートークの際には、今後の活動予定を(実行できるよう観客にメモや動画など証拠をとらせながら)発表。それによると、2024年の3月にシングル、4月にEP、7月にシングル、その後も9月、11月とほぼ隔月にリリースがあり、2025年にはアルバムと、『森羅万象ラップ化計画』のEP第2弾をリリースする予定とのことだから、ファンは嬉しい心持ちで2024年の活動に期待を寄せられそうだ。

 AFRO PARKERのライヴを観賞するたびに演奏曲が「Do I Love You」と告げられた時のフロアの好反応(この楽曲のファン人気の高さ)に耳を惹くが、個人的に強く印象に残ったのは、個人的にはおそらくライヴでは聴いた記憶がない、聴いていたとしても相当久しぶりとなる1stアルバム『Lift Off』収録曲の「エンドロール」もそうだが、10月にリリースした「Play Out Stay Out」が嗜好的にも食指が動いた。R&B~アシッドジャズ、フュージョンあたりを包括するエモーショナルなアッパー・ファンクのなかで、生々しくラヴアフェアをフロウしていく。エフェクトヴォーカルも駆使し、メロディほか楽曲の毛色は『Wonder Hour』に多く見られるような、ナイト&スペーシーなムードで疾走。「Cosmic Dance」「Still Movin' On」といった陽なフロアキラーとは彩りを異にした、翳りを帯びたアッパー・ダンサーとして、フロアのヴォルテージを高めるアンセムになりそうだ。

 どちらかというとAFRO PARKERの印象の主であると思しき明朗な楽曲ももちろん身体を揺らすのだが、陰陽なら陰に分けられそうなマイナーなメロディラインも一つの魅力。前述した、“メビウスの輪(帯)”のような幾何学的用語“クラインの壺”をタイトルに冠した「Klein Bottle」などは、幻惑的な空間を浮遊するかのごとく、アブストラクトなR&B~エレクトロニックなアプローチのトラックが疾走するなかで、一見無機質で抽象的にも思えるテーマから深層心理へと没入するような(これも裏テーマとして缶バッジの“深層心理”と繋がっているのか?)楽曲や、2ndアルバム『LIFE』収録の「Paper city」(フィメール・シンガー/ラッパーのMC BLAREが歌っていたヴァースは省略)のような悲壮や虚無、退廃といったムードで覆われる楽曲は、それこそ「Cosmic Dance」や「Do I Love You」、アンコールラストで披露されたこちらも人気のイーヴンキック・チューン「Departing!」といったフロアが沸き上がる一体感のようなパッションは溢れ出ないかもしれないが、スリリングやミステリアスといった五感を刺激する興奮をもたらすという意味では圧倒的。そして、「In Tears」のアウトロなどで嘶きや哀切を鳴らした田村大佐のハードロック的なギターソロも、ヒップホップの枠にこだわらず、楽曲の世界観へ没頭させる一助として十分に機能していた。こういったごちゃまぜ感がありながらもトータルとして高揚と刺激をフロアへ注ぎ込む様式美、いわば幕の内弁当的にサウンドやジャンルを(洒落っ気と茶目っ気をもって)巧みに融合し活用するところこそが、AFRO PARKERの真骨頂なのではないか。2010年結成で15周年も近づいてきたという結束の強さもあって、洒脱や愉悦、時にスリリングやミステリアスといった要素を絶妙な塩梅で抽出するステージングのバランス感覚があるからこそ、心地よいグルーヴも生まれてくるのだろう。

 アンコール明けの1曲目に披露したのが、「#よいよいよいお年を #蕎麦食べよ #除夜る #섣달그믐 #วันส่งท้ายปีเก่า」(ハッシュタグが並んだこのタイトルが正式なのかどうかは分からない)。AFRO PARKERは近年、XやInstagramといったSNSで「#森羅万象ラップ化計画」という、ありとあらゆるものをテーマに1分程度のショートソングとして不定期にラップを投稿する企画を進行中で、「#よいよいよいお年を~」はそれらのなかからセレクトした楽曲を収めた『俺たちはこの世の全てラップする #森羅万象ラップ化計画』にも収録されている。これまでInstagramにて流れてきたものを眺めてはいたものの、それほど突っ込んで聴いてはいなかったのだが、アフロパらしい日常を楽しげに、感謝とともに綴るトラックで、弥之助とwakathugのMCコンビの原風景的なパフォーマンスも垣間見えた気がした。終盤に披露した本編ラストの「朝陽に溶けるまで」やアンコールでの「Life Is Good」などは、常に自らの音楽を楽しみ、それを享受し楽しむ人たちへのリスペクトや感謝を込めるという、アフロパらしい信念みたいなものが、ハートウォームに滲み出しているようでもあった。

 その本編ラストの「朝陽に溶けるまで」の終盤に、「AIなどで詞曲が容易に一瞬で生成される時代になるなかで、なぜ音楽をやるのかといえば、それは自身たちが楽曲を生み出した喜びだったり、観客の前でのライヴという〈替えの効かない時間や存在を探している〉から」と語った弥之助。「喜怒哀楽さまざまな場面が目くるめくやってくる“日常”の隣にAFRO PARKERの楽曲がいてくれたら、それほど嬉しいことはない」という言葉に返した、優しい拍手でフロアが満たされる光景は、AFRO PARKERの存在意義を示した証左、その瞬間になったといえるだろう。

 中盤のフリートークにて語っていたように、2024年は発言が正しく実行されるならば、多くの新しい作品に触れる機会が増える年となる。wakathugが「裏切らないように、期待に応えてやっていきたい」と力強く宣言したのを信じて、2024年のアフロパにも注視していきたいと思う。

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<SET LIST>
01 O.K.O.D.
02 After Five Rapper II~SHACHIKU CAPRICCIO~ (*WH)
03 Cosmic Dance (*LO)
04 Do I Love You (*WD)
05 Play Out Stay Out
06 ゴースト
07 エンドロール (*LO)
~ INTERMISSION ~ ロパ飲み Live.ver(Free Talk)
08 Klein Bottle (*WH)
09 Paper City (*LF)
10 Get On The Mic (*LF)
11 Spin a Vinyl (New Song)
12 Flowing Stories (*WH)
13 In Tears (*WH)
14 朝陽に溶けるまで 
≪ENCORE≫
15 #よいよいよいお年を #蕎麦食べよ #除夜る #섣달그믐 #วันส่งท้ายปีเก่า (*SB)
16 Life Is Good (*LF)
17 Departing! (*WD)

(*LO):song from album『Lift Off』
(*LF):song from album『LIFE』
(*WD):song from album『Which date suits best?』
(*WH):song from album『Wonder Hour』
(*SB):song from album『俺たちはこの世の全てラップする #森羅万象ラップ化計画』

<MEMBER>
弥之助(MC)
wakathug(MC)
KNOB(b)
TK-808(ds)
Boy Genius(key)
BUBUZELA(sax)
田村大佐(g)

AFRO PARKER

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【AFRO PARKERに関する記事】
2014/06/07 Mixed Up@代官山LOOP
2015/06/06 Mixed Up@代官山LOOP
2016/11/13 Let's Groove@六本木VARIT
2017/04/22 Parade!@六本木Varit.
2019/12/21 AFRO PARKER @表参道 WALL&WALL
2021/05/21 AFRO PARKER『Wonder Hour』
2021/10/24 AFRO PARKER @WWW X
2022/12/18 AFRO PARKER @渋谷GRIT
2023/12/16 AFRO PARKER @WALL&WALL(本記事)

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もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。