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Lalah Hathaway @BLUENOTE TOKYO(20230316)

 至高の時空を生み出した、美しく奔放なヴォーカルとグルーヴ。

 ヴォーカルというのはステージを如何ようにも彩ることが出来る強力な武器なんだということを、つくづくと実感した。鳥のさえずりのような健やかで可憐な歌声から"サッチモ”ことルイ・アームストロングに似せたダミ声低音ヴォーカルまで、器用に多彩なヴォーカルワークを駆使しながら、オーディエンスの耳目を釘付けにする術は、衰えを知らない。レイラ・ハサウェイの来日ツアーの最終日のラストショーは、決して広いとはいえないブルーノート東京のフロアを深遠なるソウルの宇宙へと見紛うような空間へと移ろいだステージとなった。

 3月13日よりスタートしたブルーノート東京での来日公演は、4日目の16日の本2ndショーをもってラストとなったが、これらの公演に先駆けて、11日に〈LALAH HATHAWAY supported by Blue Note Tokyo〉の一環として、群馬・高崎芸術劇場でも公演を開催。レイラ・ハサウェイにとっても初となる高崎芸術劇場でのステージは100分強だったから、それに比べると3分の2程度に凝縮したものではあるが、パフォーマンスの純度は変わらず。ブルーノート東京公演よりも長尺で演奏曲数が多い高崎芸術劇場内のスタジオシアター公演、70分強だが間延びなくコンパクトで、生音が直に耳に届くような親密性に溢れたブルーノート東京公演と、それぞれの良さを体感出来たのは良かった。
 全体の流れや選曲などは、曲数や選曲に違いはあれど、ほぼ高崎芸術劇場公演をコンパクトにしたものゆえ、具体的な展開については高崎芸術劇場公演のレポート(記事 →「Lalah Hathaway @高崎芸術劇場(20230311)」に譲ることにしたい。

 バンドメンバー同様に黒地のシックな装いだった高崎芸術劇場公演とは打って変わって、ピンク系のフィット感あるボディスーツに、背面に女性の顔が大きく描かれた同系色の華やかで派手やかな羽織姿で登場したレイラ・ハサウェイ。序盤こそオリジナル曲を披露するものの、中盤以降はカヴァー曲か客演・コラボレーション曲というラインナップ。だが、しっかりと自身の歌として昇華させているのは言わずもがな。エリック・スミスの時折激しい爪弾きによるメリハリある哀切から蠢きへと移ろうベースソロから、オーディエンスとのコール&レスポンスを経ての「サマータイム」では、オーディエンスのクラップに気を良くして、アドリブ・スキャットでスムースなグルーヴを放出。アウトロでは、レイラ・ハサウェイが口笛を吹く姿にオーディエンスの声が上がるも、彼女が口笛を止めても聴こえるマジックが。実は、レイラ・ハサウェイが吹いていたように見えた口笛の主は、コーラスのジェイソン・モラレスがサポートしていたという仕掛けが分かると、笑いが起こるフロア。その光景にレイラ・ハサウェイはニヤリとしたり顔。無邪気な遊びをさりげなく忍び込ませるのも"らしさ”といえようか。

 レイラ・ハサウェイのライヴではいまや不可欠の存在といえるジェイソン・モラレス、レイラ・ハサウェイがグレゴリー・ポーターに客演した「インサニティ」ではつかず離れずの距離を保って見つめ合ったかと思ったら、終盤は手を繋いで身を寄せ合うといったラヴストーリーを演じて見せたデニス・クラークという2名のバックヴォーカルも、レイラ・ハサウェイの世界観を築く上で大きな役割を果たしていた。このバンドはギターレスではあるが、2名のバックヴォーカルがスムースな肌当たりの声で厚みや深みをもたらしているから、音の物足りなさなどは全くもってない。

 その貢献度の高さを如実に表わしたのが、アリウン・タッカーの温かみと懐かしさが同居したようなハモンドオルガンを含むキーボードソロから導かれたルーサー・ヴァンドロスのカヴァー「フォーエヴァー、フォー・オールウェイズ、フォー・ラヴ」と、スナーキー・パピーとグラミーウィナーに輝いたコラボレーション曲「サムシング」の2曲。前者では低音ヴォーカルにも定評のあるレイラ・ハサウェイの荘厳なヴォーカルを受けて、ヴィブラートを効かせた美声ローヴォイスでデニス・クラークがメロディを歌うと、レイラ・ハサウェイも肩をすくめて「こりゃやってられないわ」といった表情に。後者の「サムシング」はインプロヴィゼーションを繰り広げるレイラ・ハサウェイとバックヴォーカルとの掛け合いが顕著になり、デニス・クラークはベイビーフェイスが書いたテヴィン・キャンベルの全米9位のヒット曲「きみに聞いてほしいことがある」(原題:Can We Talk)のサビフレーズからハイトーンファルセットを披露し、ジェイソン・モラレスはレディースキラーといえるハートウォームなハニーヴォイスで魅了。その合間をレイラ・ハサウェイがモダンジャズ風の即興スキャットで自由に舞う。

 「サムシング」ではバックヴォーカルとの掛け合いに加えて、ドラムソロも挿入。アリウン・タッカーのキーボードのコードのループに合わせて、タバリウス・ジョンソンがさまざまなドラミングで熱度を高めていくと、時にメアリー・J. ブライジの「リアル・ラヴ」のドラムを想起させるビートなどを挟み込む遊び心が見え隠れ。ドラムソロを終えて、再びメインフレーズに戻っての大団円で、フロアは歓喜の渦に包まれた。

 バンドメンバーを従えずに一人でステージに戻ってきたレイラ・ハサウェイが、アンコールにア・カペラで披露したのは、父ダニー・ハサウェイも歌ったレオン・ラッセルの「ア・ソング・フォー・ユー」。レイラ・ハサウェイならではのユニークなリズムで、奔放に、情感に満ちた歌唱で歌い上げ、スタンディングオベーションと快哉で応えるオーディエンスに微笑みを振り撒きながら、ステージを後にした。

 マイクに近づいたり離れたりしながら、悠久を感じる瑞々しいシルキータッチのハイトーンで美しい新緑の自然の風景を脳裡に呼び起こしたかと思えば、フロアにアルトのスキャットを響かせてストリート感を描出するなど、その表情は多種多彩。大らかに包み込むような懐の広さも見せるヴォーカルは、しかしながら、しなやかで強固な芯を備えていて、フロアを変幻自在に操っていた。その手練は、一瞬にしてフロアを漆黒のグルーヴに染め上げる、空間魔術師とも言わんばかりだった。

 楽器だけが置かれたステージに目を遣り、時の速さと軽い喪失感は豊かな感性を得るための充実という名の代償などと自身に言い聞かせた終演後。貫禄と洗練が織りなす垂涎の時への別れを惜しみながら、その余韻に浸る夜となった。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Baby Don't Cry
02 Strong Woman
03 Change Ya Life
04 When Your Life Was Low(Original by Joe Sample & Lalah Hathaway)
05 Bass Solo ~ Summertime(Original by George Gershwin)
06 Love, Love, Love(Original by Donny Hathaway)
07 Angel ~ Caught Up in the Rapture ~ You're The Best Thing Yet(Original by Anita Baker)
08 Love's Holiday(Original by Earth Wind & Fire)
09 Insanity(duet with Dennis Clark)(Original by Gregory Porter feat. Lalah Hathaway)
10 Keyboard Solo ~ Forever, for Always, for Love(Original by Luther Vandross)
11 Something(Original by Snarky Puppy feat. Lalah Hathaway)
≪ENCORE≫
12 A Song for You(sing by a cappella)(Original by Leon Russell, also known as Danny Hathaway covered)

<MEMBERS>
Lalah Hathaway / レイラ・ハサウェイ(vo)

Eric Smith / エリック・スミス(b)
Tavarius Johnson / タバリウス・ジョンソン(ds)
Arreiun Tucker / アリウン・タッカー(key)
Dennis Clark / デニス・クラーク(back vo)
Jason Morales / ジェイソン・モラレス(back vo)

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【レイラ・ハサウェイに関する記事】
2012/01/07 LALAH HATHAWAY@BLUENOTE TOKYO
2013/01/25 Robert Glasper Experiment@Billboard Live TOKYO
2015/12/25 Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO
2016/12/12 Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO
2018/04/15 Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO
Lalah Hathaway @高崎芸術劇場(20230311)
Lalah Hathaway @BLUENOTE TOKYO(20230316)(本記事)


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