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Lalah Hathaway @高崎芸術劇場(20230311)

 5年ぶりの裸足のレイラ、初の高崎公演で至福のグルーヴ。

 5タイムス・グラミーウィナー、レイラ・ハサウェイが久しぶりの来日。前回は2018年(記事→「Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO」)だから、約5年ぶりとなるか。通例はブルーノート東京公演でのツアーなのだが、今回は3月13日~16日のそれに先駆け、〈LALAH HATHAWAY supported by Blue Note Tokyo〉として群馬・高崎芸術劇場公演が汲み入れられた。もちろんブルーノート公演も充実の時を過ごせることは保証されているのだが、ライヴホールでの公演となれば、2部制のブルーノート公演とは異なり、長尺でのステージも期待出来るのではないかと考えて、一路高崎へ向かった次第。

 会場となるのは高崎芸術劇場内にあるスタジオシアター。スタンディングで最大1000名+2階席98名、ロールバックの可動席を用いると389~568席の中劇場仕様となるキャパシティで、おそらく500前後の席数だと思うが、満員の盛況ぶり。当初は「(ブルーノート東京公演もあるし)高崎まで観に来る客はそこまでいないだろう」と高をくくっていたが(年齢層は高かったとはいえ)、開場時刻となるとエントランスに次々と人が集い始め、気づけば、フロアは熱心なファンで埋め尽くされていた。音響も良く、座席もステージ正面で見やすい好環境のなかで観賞することが出来た。

 バンドは、ベースのエリック・スミス、ドラムのタバリウス・ジョンソン、バックヴォーカルのデニス・クラークは2018年に引き続き帯同、レイラ・ハサウェイのライヴではおなじみのバックヴォーカルのジェイソン・モラレスは前々回の2016年以来となる。キーボードのアリウン・タッカーは、レイラ・ハサウェイのステージで観るのは初めてか。

 バンドメンバーに遅れて登場したレイラ・ハサウェイは開口一番「ゲンキデスカ! タノシンデクダサイネ!」と日本語で挨拶。少なくとも5度以上は来日しているはずだから、挨拶程度の日本語はお手の物だ。そして、今回も裸足でステージイン。

 序盤は「アツイネ」と言いながらよく水を含んでいて、多少声のハリが足らないかななどと思ってみたものの、「ブランド・ニュー」を歌う頃にはすっかりシルキーな高音とビターでファットな低音を響かせる、いつもの麗しいレイラ節でオーディエンスを魅了していた。

 エリック・スミスのベースソロにてオーディエンスにクラップとコール&レスポンスを促したままシームレスに紡いだ、ジョージ・ガーシュウィンがオペラ『ポーギーとベス』のために作曲し、のちにビリー・ホリデイなどが歌ってジャズ・スタンダードとなった「サマータイム」では、なめらかで光沢のあるスムースな声色だけでなく、スキャットや口笛で、黄昏時のような愛しくも切ないムードを創り出していた。

 常日頃から愛をテーマに掲げていると思しきレイラ・ハサウェイだが、選曲においても愛を意識させるような構成に仕立ててきたようだ。「これから有名なソウル・ミュージック、ラヴソングをやるわ。長い間愛されてきた、古き良き時代の曲ね。良かったら歌ってみて。大いに楽しんでください」と言った後、「最初の曲は、とても人気のラヴソングで、とても有名なシンガーの曲です。そう、ダニー・ハサウェイの」と語るやいなやオーディエンスから歓声と拍手がこだまして「ラヴ・ラヴ・ラヴ」へ。一時期は父親の歌を歌うことを良しとしていない向きもあったが、”解禁”後は実に伸びやかに心地よく歌う印象だ。肩肘張ることも止めたレイラ・ハサウェイなりの解釈によるダニー・ハサウェイ曲は、べっ甲のような澄んだ煌めきを帯びた褐色を想わせる、実にレイラ節ならではの甘美な歌い口なのだが、スムースに溶け込んでいくさまは、意識しなくとも自然と父の歌唱にも寄り添っているようにも感じられるから不思議なものだ。

 ラヴソングの"ターン”はその後も続き、「エンジェル」に「コート・アップ・イン・ザ・ラプチュアー」「ユーアー・ザ・ベスト・シング・イエット」のフレーズを繋げたアニタ・ベイカーのカヴァーに、アース・ウィンド&ファイアの「ラヴズ・ホリデイ」と、レイラ・ハサウェイのライヴでは良く耳にする楽曲をメドレー・スタイルで。「ラヴズ・ホリデイ」では冒頭の「Would you mind~」を扉をゆっくりと開けるようなローヴォイスで物語を始めたかと思うと、後半では華やかでヴェルヴェットのような質感を伴ったハイトーンでクライマックスを演出。そのムードを崩さないまま、デニス・クラークと手を繋ぎながら、グレゴリー・ポーターへレイラ・ハサウェイが客演した「インサニティ」をデュエットで披露。美しいハーモニーに揺るぎない愛の力を感じた瞬間でもあった。

 ステージには装飾もなく、ライティング効果はあったとしてもシンプルな佇まいで、とりたてて言及することもないのだが、楽曲の旨味を抽出するのに余計な力みを加えない、過不足ない演奏が秀抜。幻想と清爽や愛着をもたらすアリウン・タッカーのオルガンを含む鍵盤や、健やかな生命力を湛えたエリック・スミスのボトムも見事だが、特に耳を惹いたのがタバリウス・ジョンソンのドラミング。破裂音のような粗く激しい音を叩くことは決してないが、スナップを効かせたしなやかな捌きで、身体を揺らせる躍動へといざない、至極のグルーヴを生む原動力となっていた。
 そして、欠かせないのがバックヴォーカル。デニス・クラーク、ジェイソン・モラレスともに肌当たりの良いテンダーな声色ではあるが、それぞれに特徴を持った機微に溢れたヴォーカルで、レイラ・ハサウェイのそれとともにエレガントな時空を生み出していった。

 ルーサー・ヴァンドロスの包容力に満ちたラヴバラード「フォーエヴァー、フォー・オールウェイズ、フォー・ラヴ」のカヴァーでは、ゆったりとした時の流れを導きながら、オーディエンスにコーラスを催促。フロアの隅々へ安らぎが行き渡ったようなチル&ヒーリングな時間は、歌唱やオルガンの温かみある音色も手伝って、母性のような大きさに包まれるようでもあった。ただ、後半はオルガンとドラムを激しく打ち鳴らすようなアレンジを施すなど、ただでは終わらない辣腕たちならではの演出で楽しませ、最後はレイラ・ハサウェイの厳かな低音で纏め上げた。

 クラップが鳴り響くなかで始まった「サムシング」で本編はラスト。闊達なベースと跳ねる鍵盤、軽快なビートを刻むドラムが清々しいサウンドを奏で、バックヴォーカルと掛け合いながら、レイラ・ハサウェイは遠くまでも美しい声を響かせる"ソングバード”よろしく小鳥のさえずりのようなスキャットからサッチモ風のファットなスキャット、ファルセットやフェイクを繰り出し、オーディエンスの胸を高鳴らせていった。

 終演後のBGMと思しき音楽が流れ始めるも暗転のままのフロアに、鳴りやまない拍手がこだまするなか、レイラ・ハサウェイが一人で登場。ア・カペラで歌うといって披露したのは、レオン・ラッセルの「ア・ソング・フォー・ユー」。カーペンターズ、アレサ・フランクリン、レイ・チャールズら多くのアーティストに歌われ、レイラ・ハサウェイの父ダニー・ハサウェイも1971年のカヴァー・アルバム『ダニー・ハサウェイ』や、没後リリースのライヴ・アルバム『イン・パフォーマンス』『ソングス・フォー・ユー LIVE!』にも収録された楽曲だ。ア・カペラならではの柔軟性と優雅な面持ちで、本ステージの余韻に浸る導きをしてくれた。

 突飛なものはなくとも、さまざまな世界観を眼前に、脳内に浮かび上がらせることが出来るのは、培われてきた音楽性と卓抜な感性に磨きをかけ続けているからだろう。こちらから耳を迎わせなくとも、気づけば体内へ違和感なく浸透し、五感をやわらかく刺激するグルーヴの波に漂い続けた100分強。高崎芸術劇場公演ならでは構成に、至福が充溢。この興奮の続きは、ブルーノート東京公演にて再び。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Baby Don't Cry
02 Strong Woman
03 Change Ya Life
04 That Was Then
05 Y O Y
06 Brand New
07 Bass Solo ~ Summertime(Original by George Gershwin, from Opera "Porgy and Bess")
08 Love, Love, Love(Original by Donny Hathaway)
09 Angel ~ Caught Up in the Rapture ~ You're The Best Thing Yet(Original by Anita Baker)
10 Love's Holiday(Original by Earth Wind & Fire) 
11 Insanity(duet with Dennis Clark)(Original by Gregory Porter feat. Lalah Hathaway)
12 I'm Coming Back(duet with Jason Morales)
13 Little Girl ~ Breathe
14 Lean On Me
15 Keyboard Solo ~ Forever, for Always, for Love(Original by Luther Vandross)
16 Something(Original by Snarky Puppy feat. Lalah Hathaway)
≪ENCORE≫
17 A Song for You(sing by a cappella)(Original by Leon Russell, also known as Danny Hathaway covered)


<MEMBERS>
Lalah Hathaway / レイラ・ハサウェイ(vo)

Eric Smith / エリック・スミス(b)
Tavarius Johnson / タバリウス・ジョンソン(ds)
Arreiun Tucker / アリウン・タッカー(key)
Dennis Clark / デニス・クラーク(back vo)
Jason Morales / ジェイソン・モラレス(back vo)

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【レイラ・ハサウェイに関する記事】
2012/01/07 LALAH HATHAWAY@BLUENOTE TOKYO
2013/01/25 Robert Glasper Experiment@Billboard Live TOKYO
2015/12/25 Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO
2016/12/12 Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO
2018/04/15 Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO
Lalah Hathaway @高崎芸術劇場(20230311)(本記事)

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