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YUNA @LIQUIDROOM(20231016)

 エキゾチシズムとエレガンスを纏った、彩色艶やかなステージ。

 フロアにはヒジャブ姿の女性をはじめとするムスリムや、同胞のマレーシア人ほか海外勢が3分の1以上は占めていただろうか。開演前の周囲では、独特のイントネーションの英語やおそらくマレー語と思しき会話が飛び交う光景も目についた。マレーシア出身のシンガー・ソングライター、ユナリス・ビンティ・マット・ザラアイ(Yunalis binti Mat Zara’ai)のプロジェクト、ユナ(YUNA)の来日公演は、異国情緒も薫るクールかつスウィートなステージとなった。

 ユナは1986年にプルリス州ウタンアジで生まれ、2006年頃より活動を開始。2008年にEP『YUNA』を発表し、2010年にマレーシアのグラミー賞と称されるアヌゲラ・インダストリ・ミュージック(Anugerah Industri Muzik/AIM)で最優秀新人賞や最優秀楽曲賞といった主要部門含む4部門で受賞。翌2011年の世界デビューEP『デコレート』収録の「ロケット」がバイラルヒットすると、〈デフ・ジャム〉の創設者ラッセル・シモンズらに絶賛され、2012年にファレル・ウィリアムスのプロデュースによって全米デビューを果たしたという、マレーシアのソングストレスだ。

 個人的にユナをしっかりと聴き出したのは、2016年リリースのアルバム『チャプターズ』あたりからで、アッシャーを迎えた「クラッシュ」やジェネイ・アイコ客演の「ユースト・トゥ・ラヴ・ユー」、DJプレミアのプロデュースによる「プレイス・トゥ・ゴー」などの完成度の高さに惹かれた。2019年にはタイラー・ザ・クリエイターをフィーチャーした「キャストアウェイ」をはじめ、G・イージーとの「ブランク・マーキー」、リトル・シムズとの「ピンク・ユース」ほか、マセーゴ、カイル、MIYAVI、元2PMのジェイ・パーク(パク・ジェボム)といったグローバルな面々が参加した『ルージュ』をリリース。その年に横浜・赤レンガ倉庫で行なわれた「Local Green Festival」で初来日(記事→「〈Local Green Festival〉Day 2 @横浜赤レンガ」)。デスティニーチャイルド「セイ・マイ・ネーム」やマリオ「レット・ミー・ラヴ・ユー」などを引用しながら、ラストは「ブランク・マーキー」で盛り上がったのを覚えている。本公演はその2019年に続いての来日で、単独としては初来日公演となるか。米・ロサンゼルスから故郷のクアラルンプールへ拠点を移し、2022年に連作EP『Y1』~『Y4』を経て発表したフル・アルバム『Y5』の楽曲や、YouTubeチャンネル「ア・カラーズ・ショウ」(A COLORS SHOW:日本でいうところの「THE FIRST TAKE」の元ネタ)で披露した「グローリー」を含む、新旧織り交ぜた構成で披露してくれた。会場は恵比寿リキッドルーム。

YUNA 〈ASIA TOUR〉TOKYO

 前回はシカゴを拠点とするフィメールDJ/シンガー・ソングライターのナイロとのセットだったが、今回は男性(ユナの夫のアダム・シンクレアのようなそうでないような?)とのセットで、客演パートなどは音源を使用。ユナは「ディープ・カンヴァセーション」や「デコレート」「ダン・セベナーニャ」でギターの弾き語りも。
 ユナが何度も「静かだわ」「ナーヴァス? シャイ? なのね、トーキョー」と発していたように、前半で早々と披露した「ブランク・マーキー」などでも(左右前を見渡した限りでは、自分位しか腕を突き上げてなかった気がする)比較的落ち着いた感じで聴いていたのは、日本人はともかく、シャイで物静かな人たちが多いと言われるマレーシアの国民性もあるか。もちろん、反応していないとい訳では決してなくて、しっかりとグルーヴに身を任せてはいるが、ユナのスムースなR&Bマナーの曲風やエレガントながらも物憂げなヴォーカルもあって、曲中でのシャウトやスクリームなどの叫び散らすことはあまりない感じだ。

 とはいっても、演奏直後やお目当ての楽曲のイントロが流れた時の歓声や拍手には瞬時に大きな声で反応。特に「マシ・スニー」「テルキー・ディ・ビンタン」「ダン・セベナーニャ」といったマレー語によるアコースティック・ポップな楽曲ではそれが顕著で、あなたへの永遠の愛を星へと繋ごう(刻もう)と歌うロマンティックなラヴソング「テルキー・ディ・ビンタン」や、意中の彼が他の人と一緒にいるジェラシーを歌った「ダン・セベナーニャ」ではマレー語でのシンガロングが起こるなど、同胞が多く駆け付けたフロアならではの景色が垣間見られた。これらは近年のベッドルーム・ミュージックやスムースなR&B/ネオソウルといった路線とは一線を画してはいるが、そうかといって従来のマレーシアやインドネシアのポップスの主流と思われるエネルギッシュな熱唱系とは対照的なフォーキーなポップス。その穏やかなメロディに揺れながら歌うオーディエンスの姿や声を聴くと、マレーシアで愛されているユナの人気曲なのだろうというのも感じられた。

 昨年リリースの『Y5』からは5曲を披露。アンニュイで翳りのあるトラックに包まれながら、シルキーに、スムースに、エレガントに、夜に滑り込んでいくようなムードが魅惑的な「メイク・ア・ムーヴ」をはじめ、クラップがフロアを温めたカラッとした夏の爽やかさが映える「リスク・イット・オール」、そよ風が通り抜けるような清々しさもあるメロウファンク「パントーン・セヴンティーン・サーティーン・サーティ」、テンダーで色彩鮮やかなメロディで紡いだミディアム「フール・フォー・ユー」、そして本編ラストに披露したアダルトなムードを帯びながらも軽快にグルーヴが走るスムース・ダンサー「メイク・ビリーヴ」と、いずれも耳を惹き、身体を揺らせるに充分なパフォーマンスだった。

 マレー語楽曲以外では、やはりジェネイ・アイコをフィーチャーした「ユースト・トゥ・ラヴ・ユー」やアッシャーを迎えた「クラッシュ」のタイトルをユナがコールすると、人一倍大きな歓声が。どちらも夜の雰囲気に寄り添ったオルタナティヴR&B/ネオソウル路線の作風だが、シンガロングで揺れる空間を創り出していた。シンガロングで包まれた「ユースト・トゥ・ラヴ・ユー」に続いて披露した最新曲の「グローリー」では、冒頭の反応がそれほどでもなかったからか「ソーリー、ニューソング」とことわりを入れいたが、前述2曲の流れを汲んだ美しい展開で、演奏が終わるやいなや、喝采を浴びていた。

 これらの近作曲ではアンニュイかつミステリアスなムードを発していたが、終始そういったムードで展開したのではなく、マレー語曲では序盤の「アシング」こそエスニックな色香がほんのり漂う哀切なムードで覆われたが、安らぎ朗らかにコール&レスポンスやシンガロングが生まれる。中盤の「マウンテンズ」では前半に別の音源がミスで入って中断すると、「これがライヴショウなの~」と語ったり、アッシャー客演の「クラッシュ」の前には鍵盤の男性へ向かって「(あれが)アッシャーだよ!」と言って盛り上げるなど、ところどころで茶目っ気も見せていた。

 本編でステージアウト後、駆け足で直ぐに戻ってきてのアンコールは『ルージュ』からの1stシングルとなった「フォーエヴァーモア」でエンディング。「2日後にシンガポールでもライヴがあるんだけど、みんなは……あ、仕事か」とボケるなどここでも茶目っ気を見せつつ、感謝を示していた。内に秘めたパッションをエレガンスやアンニュイなどの彩色で纏ったアティテュードに加え、エスニックな色香と躍動を絶妙なバランスでコーティングしたヴォーカル&サウンドが秋という季節や夜にフィットしたファンタスティックな90分弱。日本でももっと知られていいアーティストの一人だ。

◇◇◇
<SET LIST>
01 Make A Move (*Y5)
02 Castaway (Original by Yuna feat. Tyler, The Creator)(*R)
03 Risk It All (*Y5)
04 Asing (*M)
05 Pantone 17 1330 (*Y5)
06 Blank Marquee (Original by Yuna feat. G-Eazy)(*R)
07 Masih Sunyi (*M)
08 Deep Conversation (*YE)
09 Decorate (*Y)
10 Mountains (*N)
11 Fool 4 U (*Y5)
12 Terukir Di Bintang (*S)
13 Used To Love You (Original by Yuna feat. Jhene Aiko)(*C)
14 Glory
15 Lullabies (*Y)
16 Dan Sebenarnya (*YE)
17 Crush (Original by Yuna feat. Usher)(*C)
18 Make Believe (*Y5)
≪ENCORE≫
19 Forevermore (*R)

(*Y):song from album "Yuna"
(*N):song from album "Nocturnal"
(*C):song from album "Chapters"
(*R):song from album "Rouge"
(*Y5):song from album "Y5"
(*YE):song from EP "Yuna"
(*M):song from EP "Masih Yuna EP"
(*S):song from album "Sparkle"

<MEMBER>
YUNA(vo,g)

Adam Sinclair(??)(key,DJ)

YUNA

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【YUNAについての記事】
2016/09/06 近況注意報 0905 音楽篇
2017/01/03 MY FAVORITES ALBUM AWARD 2016
2019/09/01 〈Local Green Festival〉Day 2 @横浜赤レンガ
2023/10/16 YUNA @LIQUIDROOM(20231016)(本記事)



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