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Raveena @WWW X(20230306)

 愛らしさと微笑みが溢れた、ヒーリング・ソウルポップ。

 80年代にインドから渡米した移民の両親をもち、ヒーリング効果満載のシルキータッチのヴォーカルとエクスペリメンタルなアプローチでコンテンポラリーかつトラディショナルなサウンドを響かせるシンガー・ソングライター、ラヴィーナ。その初となる来日公演〈ASHA'S AWAKENING ASIA TOUR 2023〉の東京公演に足を運んだ。会場は東京・渋谷のWWW Xで、ソールドアウトとなったフロアは20~30代の女性が多く見られた。

 本来は2020年に公演の予定だったが、コロナ禍によって開催直前にキャンセル。自身も来日を待ち望んでいたようで、3年越しに念願叶ったステージは、日本のファンへの愛とその反響に喜びが溢れるハートフルなものに。来日キャンセル後の2022年に『アシャズ・アウェイクニング』なるメジャー・デビュー・アルバムをリリースし、結果的にフィリピン・マニラと東京のアジアツアーに同作を引っ提げた形となったゆえ、よりステージ内容も充実へと奏功したようだ。
 ちなみに、アルバム・タイトルの”アシャ”は、70年代に欧米で人気を博した、英国航空(ブリティッシュ・エアウェイズ)の客室乗務員を経て歌手デビューしたアシャ・プスリのことで、インドにルーツをもつラヴィーナも少なからず影響を受けていて、本アルバムにも客演している。

 R&B、ソウルなどの要素をインドの表情豊かなエスニックなサウンドと融合させているラヴィーナだが、ブラック・ミュージック濃度はそれほど高くはない。勝手に名付けるならヒーリング・メロウ・ソウルポップといった風で、インドのカルチャーから感じるスピリチュアルかつミステリアスなムードと幻想的な妖艶性が溶け合っている感覚だ。個人的にどこで自身の耳に引っ掛かったのかは確かではないが、おそらくYouTubeの『タイニー・デスク・コンサート』の映像を見て、来日アナウンス当時にライヴへの気持ちが高まったのだと思う。

 定刻より30分が経過してもメンバーが登場しなかったため、何かしらのトラブルや体調に問題があったようだが、フロアからのクラップと歓声に促されたようにステージイン。赤やピンクの花の輪が飾られた中央のスタンドマイクに歩を進めたラヴィーナは、セレブたちのSNSの間でも流行っているらしいアンダー・ブーブ(アンダーバストを露出させるスタイル)な紫のトップスと、背面はTバックの背面上部が露わになるカットが施してあるパンツというなかなかセクシーな衣装で登場。ただ、インド濃度の高い沢尻エリカと美形かつ天然な森泉を合わせたようなルックスは、キュートなイメージでいやらしさはなく、むしろインドの神秘的なムードを窺わせるような官能性を醸し出していた。MCでは「Sorry, I can't speak Japanese」や「みなさん、私のことを観るのは初めてですか? 私は初めてです。初来日なので」といって微笑んだり、ファンからトトロのグッズをプレゼントされて「トトロー!」と叫んだりと、実にラヴリー。フロアから「カワイイ」との声も随所で聞こえてきたりと、特に女性ファンにとっては非常に愛らしく感じていたのではないだろうか。

 中盤では、ヨガのような深呼吸をしながら瞑想するヒーリングタイムを設けて「ペタル」へ繋げるというラヴィーナらしい場面も。短くもない尺だったが、観客もそれに合わせて瞑想し、ラヴィーナの世界観をともに共有するファンの姿勢に、感謝と愛情を示していた。

 楽曲はなかなかヴァラエティに富んでいて、幻想的なスウィートネスが漂う「アシャズ・キス」や「ハニー」といった楽曲もあれば、ギターを抱えて歌った「クロース・2・U」や緩やかなグルーヴが揺れる「ブルーム」「テンプテーション」のようなメロウなミディアムがあったり、ファンキーなギターとエスニックなグルーヴが炸裂する「キスメット」や(いわゆるシティポップマナーな)和製レアグルーヴへの近さも感じる「キャシー・レフト・4・カトマンズ」や華やかさと妖しさを兼ね備えた「シークレット」、インド歌謡シンガーのアシャ・ボスレ「ダム・マロ・ダム」のカヴァーなどのホットなナンバー群もあったりと、単にスピリチュアルでエスニックといった杓子定規には収まらない奔放性が横溢していた。

 本編ラストは「スマートフォンでライトを照らして」と催促してからの「スティル・ドリーミング」で文字通りの夢心地のような安らぎの空間を演出。アンコールには、一部の熱烈なファンからの"懇願”に応えての「スウィート・タイム」を。コール&レスポンスを繰り返しながら観客との幸福なヴァイブスを感じする"最高の時間”を味わっていたように見えた。

 バンドメンバーが去るも、「疲労などで体調が完全ではなく、100%のステージは出来なかったけれど、観客の前でパフォーマンス出来たことに興奮している。もう1曲、アルバムの中から私の好きな曲を歌わせて」と述べた後に、アーロン・リャオのアコースティックギターとのデュオで「エンドレス・サマー」を。寄り添うようなギターを爪弾くリャオにマイクを向けて1フレーズを歌わせたりと、安らぎに包まれるプライヴェートな雰囲気を醸し出しながら、スウィートネスなエンディングで初来日公演は幕を閉じた。

 正直なところ、楽曲性はそれほどストライクという訳ではなかったが、満員の観客を前に日本への憧憬と感謝の想いを存分ににじませたステージは、飽くことなく惹き込まれるものに。インダス川と5つの支流の河が織り成す豊かな地域"パンジャーブ”の古代の女王が、愛と喪失、癒しと破壊を会得するというコンセプト(創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァというヒンドゥー教の三神一体の理念がモティーフか)のアルバム『アシャズ・アウェイクニング』を通して、インドに根付いてきた思想や哲学を写し鏡に、現代に警鐘を鳴らし、意識の覚醒を促す……というコンシャスな本質がありながら、それをスピリチュアル色で染めるのではなく、豊潤で愛らしい表情で描いていくのがラヴィーナ流か。常に微笑みと魅惑の表情でグルーヴに舞う姿は、インドの中毒性あるメロディやリズムも相まって、愉悦のヴァイブスに溢れていた。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Mystery
02 Bloom
03 Close 2 U
04 Headaches
05 Kismet
06 Kathy Left 4 Kathmandu
07 Dum Maro Dum(Original by Asha Bhosle & Chorus)
08 Asha's Kiss(Original by Raveena feat. Asha Puthli)
09 Love Overgrown
10 If Only
11 ~Healing Section - Deep Breathing Time~
12 Petal
13 Honey
14 Temptation
15 Circuit Board
16 Secret
17 Rush
18 Tweety
19 Still Dreaming~BAND OUTRO
≪ENCORE≫
20 Sweet Time
21 Endless Summer(acoustic ver.)

<MEMBERS>
Raveena Aurora(vo,g)

Cale Hawkins(g,key)
Aaron Liao(b,g)
witSmusic(ds)

Raveena

◇◇◇

Raveena 〈ASHA'S AWAKENING ASIA TOUR 2023〉at WWW X, Tokyo

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