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ボジョレーヌーヴォーが本当はイケてるってはなし

ボジョレーヌーヴォーを楽しみにしているんです、と言うと、「でも美味しくないでしょ?」と返されることがありますが、もしわたしの正体が巨大で凶暴な人喰いモンスターだったらどうするつもりなんだ、お前は今骨すら残らなかったぞ、わたしの正体が巨大で凶暴な人喰いモンスターじゃなくてよかったな。と思います。

たしかに、人を困惑させるような味の量産ヌーヴォーが毎年スーパーやコンビニで売られています。過去にそういうようなものを手にしてしまったのでしょう。
そんな不運な方にこそこの記事を読んでいただけたら嬉しいです。
ボジョレーヌーヴォー=節分の豆まきとか盆のお墓参りとかみたいなやつだと思っていたあなたにも。

お久しぶりです。JUNERAYです。
なんと4ヶ月ぶりの更新です。

この4ヶ月何をしていたかと言うと、ワインの試験勉強をしていました。あと日向ぼっことか散歩とかしてました。
勉強の甲斐あって、無事にソムリエ協会認定のワインエキスパートになりました。
(ソムリエなの?と聞かれますが、呼称資格"ソムリエ"は一定年数以上ワインなどの酒類で生計を立てていなければ受験資格が与えられません。でも筆記試験なんかは同じ内容を解いているよ。)

人々にワインについてどう思うか訊くと、「どれを買ったらいいのか分からない」「ぜんぶ同じに見える」「ワインかワインじゃないかだけわかる」などの答えが返ってきます。

ね〜〜〜〜〜〜。
わかる〜〜〜〜。

ワインのラベル(エチケットとも呼ばれる) に書いてあるのはある種の暗号のようなもので、それを読み解いて「これはどこの地方のこういうタイプのワインですね」とか「ここの地方でしたらこの品種が使われていて、こういう味ですよ」とか、翻訳するのがソムリエの仕事です。
つまり誰しもがワインを選べるようになったらソムリエはいらん。

成城石井で、信濃屋で、やまやで、ワインの棚の前に立ったときに感じる「どれが何?」感。
怒涛の外国語、全部同じに見えるラベル、価格がピンキリなのに何が違うか検討もつかない。これ赤?白?シュワシュワ?甘い?店員さんに訊いたら高いの買わされる?
結局安くてラベルがかわいいやつを買ってみたけど、期待してた味じゃなかった。

そりゃあ買わなくなるよね。
一人でワインを飲み始めて好きになるのはとても難しい。

わたしはかつて強運で、初めて自分用に買ったワインが2015年のボジョレーヌーヴォーでした。
非常に出来のよい年で(ボジョレーの評価がインフレしている件については後ほど説明します)、翌年からボジョレーのニュースを見かけたらお店に行き、試飲させてもらい、なんか好きかもな〜という味のボトルを買う習慣ができました。

だからというわけではないのですが、ワインをあまり飲んだことがない人にこそ、楽しんで選んでいただきたいのがボジョレーヌヴォーです。
初心者向けの入門書すら専門用語だらけでわけのわからんワイン界ですが、やさしく分かりやすい言葉で表現できるよう頑張りましたので、クレヨンしんちゃんくらい気軽に読んでいただければ幸いです。

いつも前置きが長くなってごめんね。
見出しがこちらです。
気になったトピックだけ読んでも勿論OK!!

1. そもそもボジョレーヌーヴォーって何なのよ 

突然ですがこちらの画像をご覧ください。
どちらのワインが高級だと思いますか? 
(※一部の法的な表記を省略しています)

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Aはなんかたくさん文字が書いてある。Grandって書いてあるし、すごい気がする。
BはAよりもシンプル。Franceと書いてあるから、もしかしたらフランスを代表する超高級ワインなのかもしれない。

なんとなく分かるような気がしても、それでもちょっと、悩みませんか?

では次に、こちらをご覧ください。

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馴染みのあるお米で見ると、もう一目瞭然ですよね。田中一郎さんに感謝していただきます。

実はそれぞれのAとBは、だいたい同じようなことが書いてあります。
Aのワインでごちゃごちゃと書いてある文字は、「Noteという地区の、非常によい畑で獲れ、Château Noteさんが造ったワインです!」という意味です。

ここで、1つだけ覚えてください。
ワインは、造られた土地によって区別されます。

ボジョレーも地区の名前で、「ボルドー」や「ブルゴーニュ」などと同じような、地区で分けられた呼び方です。
もう少し突っ込んでいくと、「日本米」よりも「新潟県産米」が高級とされるように、「フランスのワイン」よりも「ボルドー地区のワイン」の方が希少性が高い、ということです。

ヌーヴォーとはフランス語でNouveauと書きますが、英語で言うと New のこと。
「アール・ヌーヴォー(Art nouveau)」も「新しい芸術」という意味ですよね。
そうなんですよね?

つまり、ボジョレー・ヌーヴォーとは「ボジョレー地区で生産された、新しいワインのこと」だと思ってください。
「新潟県でつくられた新米」みたいな存在です。だから天候によって毎年味が変わります。


2. いったいどういうワインなのよ

長文書くのしんどくなってきたので短いですが読める絵にしました。

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個人的にはケーキにもおすすめ。


3. なんでボジョレーヌーヴォーだけ恒例イベントになってるの?

「ヴィンテージドのワイン」って聞くと、なんだかすごく古いワインを想像してしまいませんか。

本当は「ヴィンテージ」とは単純に「年」のことで、「2019ヴィンテージ」と言ったら「2019年に収穫されたぶどうで造ったワイン」を指します。

もちろん上手く熟成されたワインは美味しいのですが、熟成にも向き/不向きがあり、ボジョレーで生産されるガメイ種は一般的に熟成向きではないと言われています。

ワインの評価のひとつに「熟成させて美味しくなれるか」というものがあり、そういう観点で見るとガメイは価値が低いんじゃないか?と考えた人たちがいました。

実際に昔の偉い人がガメイを大量に引き抜いて代わりに別のぶどうの木を植えようとしたり、なにかと不遇の品種でもあるのです。

ですが青森で林檎を植え、沖縄にはマンゴーが実るように、その土地には栽培の向き/不向きがあります。

ボジョレーではガメイ以外の品種がうまく育ちませんでした。
つまり、熟成こそ醍醐味と考えている人たちにとって、あまり評価の高くない品種が潤沢に獲れてしまうということです。
せっかく造ったワインが売れず、ボジョレーの人たちは考えました。
「新酒のお祭りをして、みんなで若々しく美味しいワインを楽しもう。」

これが「ボジョレーヌーヴォー」のはじまりです。
実はボジョレーヌーヴォーを最も輸入している国は日本なのです。なんと解禁日は本国フランスよりも早く設定されています。応援してあげようね。

※ちなみにボジョレーでもちゃんと熟成できるものもあるよ。


4. 結局どれを買えばいいの?

知識はあっても結局栓を開けてみるまでわからないのがワインです。
いくつか選び方を挙げてみたので、参考になると嬉しいです。

①試飲する

ボジョレーヌーヴォーの解禁日は11月の第3木曜日。2019年は21日です。

ワインを取り扱う多くのお店は解禁と同時にボジョレーヌーヴォーのイベントをします。
多くのお店で試飲ができるので、自分で飲み比べて好きな味のものを買うのが無難でしょう。
(まさかこの記事を読んでいる未成年の方はいらっしゃらないと思いますが、未成年の方は飲酒も酒類の購入もできません。お母さんへのお土産にワインを買おうとしないでください。時が来るのを待ってね)

また、ワインは抜栓した側から味も香りも変化してしまいます。ショップのスタッフさんたちも気を遣っていらっしゃると思いますが、なるべく解禁当日に行って、開けたてを飲むのがオススメです。

②生産者の名前で買う

これは薦めてくれる人がいる場合の手段です。

数多あるボジョレーヌーヴォーの中でも、普段は1本何万円もするようなワインを作る人が手掛けるものがあり、それが3,000〜5,000円程度で買えるなんて。ねえ。すごい。いいんですかぁ…(手を揉みあわせながら)

わたしは毎年この買い方をしています。この生産者さんのファン!と思える人が1人でもいると、毎年その人のヌーヴォーを買えばいいのだから、「今年は去年より酸味がある気がする」「今年なに??うっまもう2本買お」と自分で比較ができます。

また、偉大な作り手のヌーヴォーは、ソムリエが飲んでも「え?これガメイなの?本当に?」とびっくりすることが多々あります。

もし解禁日に酒屋さんに行って、胸に金のぶどうのバッジをつけた人(もしくはたくさん説明してくれる優しいスタッフさん) を見つけたら、おすすめの生産者さんいますか?と尋ねてみましょう。

③最後の手段「一番いいやつ下さい」

今日は車で帰るから試飲もできないし、生産者のプロフィールを聞いても全然イメージ湧かないし、どうしよー!!金なら多少ある!!という稀有なあなたへ。

ボジョレーと一口に言っても、その中でさらに分類があります。
たとえば、棚に並んでいるボトルをよく読むと、「Beaujolais villages nouveau (ボジョレーヴィラージュヌーヴォー)」と書いてあるものがあるはずです。

これは例えるなら「新潟県の…さらになんと!魚沼産でーす!」という感じで、とっても高品質なガメイが作れる地域で作りました!という意味です。

こういった表記には、ほかに

・Vieille Vigne (ヴィエイユヴィーニュ)…古木からつくられたワイン
・Cuvée (キュヴェ)…生産者さんのスペシャルエディション ※かなりふんわりした表現なので注意

などがあります。
もちろん生産者さんがすごい人だと、それだけで価格が上がったりもします。

所感ですが、チェーンの酒屋さんに並ぶヌーヴォーなら、どんなに高品質なものを選んでも1万円は超えません。3〜4千円でも相当美味しいと思います。

これは非常に個人的な意見ですが、スーパーやコンビニで扱われている銘柄と、酒屋さんが試飲イベントまで企画して売りたい銘柄では、圧倒的に後者の方が美味しいワインに出会える確率が高いです。


5. 評価が毎年インフレしてませんか?

ボジョレーヌーヴォーの有名なコピペありますよね。毎年100年に1度の出来になってるやつ。

まず、ボジョレーヌーヴォーの評価をしているのは誰なのでしょう。
なんかよくわからん農業庁ワイン大臣みたいなおじいさんが毎年試飲してうまい!もう一杯!みたいな評価をしている気がしませんか?わたしだけでしたか?すみません…

結論から言うと、毎年派手なキャッチを付けているのは「その年のボジョレーヌーヴォーを売りたい人たち」です。
つまりインポーター、小売店、ソムリエなどが独自に評価をし、そのコメントが毎年拡散されてニュースで読み上げられたりします。
売らなければいけない在庫があるのに「今年は去年と比べたら普通かな〜」とは言えないですよね。

もっともオフィシャルに近しいコメントが出せる団体のひとつに、ボジョレーワイン委員会があります。
彼らはその年の天候から出来栄えの予想をするのですが、2019年については「天候不良で生産者にとっては苦しい年となったが、ぶどうはよく熟し品質が良い。期待できる年。」と発表しています。

もう少しつっこんだ話をしても良いですか?
ダメな人は読み飛ばしてください。

ワインの評価についてです。「日本酒の評価は減点法、ワインは加点法」という古い話を聞いたことがありませんか?
その解釈はともかくとして、ワインの評価をするソムリエは、とにかく良いところを見つけ出そうとします。

ビギナーの方が飲むと「すっぱい!」と思うワインを「溌剌とした酸がある」と表現したり、
「ジュースみたいだなあ」と言われるワインを「生き生きとした果実味がある」と褒めたりします。

彼らはとにかく褒め上手、もう「褒め」で食っていっているのでは??というくらいポジティブな語彙が豊富です。
そのような方々が評価するのですから、そりゃあ毎年良さそうに聞こえますよねえ、というのがわたしの見解です。


6. よくある質問集

Q. どうやって飲んだらいい?
A. 飲む前に冷蔵庫で少し冷やして、適当なワイングラスで飲んでください。

Q. 家にワイングラスがない。
A. ホームセンターにはこの世の全てが売っている。

Q. コップじゃダメ?
A.お前がそれでいいと思うならいいんだ。

Q.マグカップじゃダメ?
A.何がダメかを決めるのはお前なんだ。

Q. 買ったボトルはどこに置いとけばいい?
A. この時期だったら部屋の涼しいところか冷蔵庫。あと寝ぼけて蹴りとばなさいところ。

Q. ボトルおも〜い
A. 銘柄によってはハーフサイズもあるよ〜

Q. ガメイ?ガメ?
A. ただの表記揺れです。

Q. ボジョレーヌーヴォー?ボージョレヌーヴォー?
A. 本当にそれが気になりますか?表記揺れです。

Q.プリムールと書いてあるものがありました。
A. ヌーヴォーと同じ「新酒」の意味です。

Q. 白のヌーヴォーがありました。
A. それはボジョレーのお隣、マコン地区で作られた新酒です。
たまに「白のボジョレーヌーヴォー」って紹介してる店員さんがいるけど嘘だよ。

Q. ボジョレーヌーヴォー独特の香りありません?
A. あります。ボジョレーヌーヴォーはマセラシオン・カルボニック法という、少々特殊な方法で醸造されるため、バナナやイチゴのキャンディーなど特有の香りが立ちやすいです。この香りをあえて強く出す造り手と、なるべく出ないよう注意を払う造り手がいますので、まず試飲してみるのがおすすめです。

Q. ボジョレー以外にヌーヴォー(新酒) はないの?
A. あります。有名な新酒だとイタリアのノヴェッロ、オーストリアのホイリゲなど。それぞれの風土を生かして造られるので、品種や解禁日が異なります。日本ワインの新酒ももう解禁されているので、見かけたら飲んでみてください。

Q. 一人じゃ飲みきれないのよ
A. 残ったワインは栓をし、冷蔵庫などの冷暗所で保管してください。2~3日程度で飲みきるのがおすすめです。
飲みきれなかったワインも料理に使う、果物を煮る、ホットワインにする、サングリアにするなどたくさん用途がありますので、引き続き冷蔵庫で保管してください。

Q. 自然派ワインを選びたい
A. ボジョレーはサスティナブル、オーガニック、ビオ、減農薬栽培に熱心な醸造家さんが多い土地です。何を指して「自然派」と呼ぶかによりますが、「ビオワインは美味しくない」という風説は完全に過去のものになりましたから、色々と試してみてください。
近年では、ある程度以上品質の良いボジョレーヌーヴォーは何かしらサスティナブルな取り組みをしていると思います。

ご参考までに
・ビオロジック、ビオディナミと書いてある→有機栽培である
・リュットレゾネと書いてある→減農薬栽培である(畑の場所によってどうしても完全無農薬にできない場合など)
・自然酵母、野生酵母で醸造→人工的に培養された酵母を使用していない
・SO2無添加→酸化防止剤のことですが、添加されていないということは要冷蔵で早めに飲み切った方がいいということです。

Q. 甘いお酒が好きです
A. 最近、微発泡性のやや甘口ヌーヴォーが人気なようです。法的な表記の問題で「ボジョレー」とは書けませんが、解禁日直後に売っているシュワシュワヌーヴォーがあったらほぼ間違いなくそうでしょう。

Q.試飲しちゃうと断れなくなりそうだからヤダ
A.試飲していただく側として働いていたことがありますが、正直気にしていません。一人一人の顔なんてもちろん覚えていません。ありがとうございまーす!と言ってスッと帰っても大丈夫です。



やったー!!!これで終わりだ!!

イントロダクションとして書く記事がこんなに長いってどういうことなんでしょう。
まだここまで読んでくれている人はいますか?6,600字もありがと〜〜

普段ワインを飲まない方も、ワインは好きだけどヌーヴォーはちょっと…という方も、今年は酒屋さんに足を運んでみていただけると嬉しいです。

もしこの記事を読んで買ってみた!という方がいらっしゃったら、ぜひ感想をきかせてくださいね。


それではよい週末を。
JUNERAYでした。

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