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父のこと#14 コロナが落ち着いたら…って

父の入っている緩和ケア病棟は、いつでも面会が可能で、家族にとっては、本来なら、とてもありがたいところだ。

仕事の帰りに、父のところへ寄った。少し遠回りになるが、もともとが片道40キロ強を車で通勤しているので、あまり変わらない。

「1週間に1回寄ってもいいかも…」と考えながら運転していた。

前回、会ったのは緩和ケアへ入って3日目くらいだったが、毎日、食べやすいものを食べて、毎食完食していると話してくれただけあって、エネルギーが入って元気になったように感じた。古い家とは違って、暖かいところで、無駄に動き回ることもなく、顔を見ただけで、過ごしやすいということがよくわかった。

安心したのも束の間、父は

「もう、コロナが落ち着くまでは来るな」

と言う。

父の性格は、恥ずかしくて逆のことを言う、なんてことはなく、父は本当に思ったことしか言わない。そもそも空気が読めないから…。

それは、コロナの頃に出歩いて、私たちが、そして父が、コロナに感染するリスクを避けることを最優先に考えているからだった。

私たちが、面会に来ると、その後すぐに看護師さんたちが丁寧に部屋中を除菌してくれるらしい。それも、申し訳ないとのことだった。

父が、来るなと言うのは、理由はともあれ、父は本当に嫌なのだった。

だから、仕方がないけれどコロナがおさまるまでは、行かないと言った。それは、自己満足で私たちが面会へ行くことよりも、父の気持ちを最優先にすることが、ベストだと判断したからだった。ただ、迷いはあった。

(本当にそれでいいのか。)

(コロナが落ち着くのって、いつ?)

(意味わかってる?)

でも、父がやりたいように、したらいいと思った。本人が嫌がることを自己満足でやっているようではダメだとも思うが…実際は複雑。

そして合理的なことが大好きな父は

「必要なものは、ここへ宅急便で送ってくれ」

と言った。

(それはそうなんだけど…。)

父は、実家の母にも「来るな」と言っているらしい。宅急便で送るようにと。そして、携帯ラジオを母に頼んでいて、それがもうすぐ送られてくるらしい。徹底している。本当に。

思いがけず、最後の面会になるかも知れなくなってしまい、とりあえず、息子たちと会話をさせたいと思い、LINEのビデオ通話をした。息子たちはまだ家に帰っている時間ではなく、移動している時間帯だとは思ったが、どこかでビデオ通話できる環境を作って欲しいと伝え、しばらくして長男から連絡があった。

1年間浪人時代を居候させてもらった長男との会話は、半分照れたような父が、英語で話す。ギャグではなく、英語好きな父だが、長男は英語は嫌いで噛み合わない。その噛み合わなさも楽天的な長男は、吹き飛ばす会話ができる。とにかく、長男が今年の1月ごろまでお世話になっていたなんて、嘘みたいな話だ。

しばらくすると、次男からも連絡があり、乗り継ぎ駅ホームから話すが、ざんえんながら、周りがうるさすぎてあまり聞こえないようだった。仕方がない。こちらも聞こえないので、話が噛み合わなかったが、とりあえず話ができてよかった。これは私の自己満足。

こないだ会った時に渡した、うちの家族からのメッセージはちゃんと読んでくれていたようで、嬉しかった。やはりそう言ったわかりやすいメッセージがよかったのだと思った。

だから、会いには行かないが、宅急便も味気ないので、ナースステーションへ週1回くらい、簡単な手紙でも持っていこうかと考えている。

手紙でなくてもいい、感謝が伝わるなにかを。


「コロナが落ち着いたら…」

父はどう思って言ったのだろうか。



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