船出
遠ざかる街の明かり
行先は水平線の闇の向こう
海とわたしだけの時間。優しい風が吹いていた。船が水を走る音が、微かに聞こえる。風と共にうねりが船に押し寄せる。それは湾の終わりを意味していた。
月が静寂とともに海面で踊る。船がかき分ける水面とともに、また月も大きく躍った。
月明かりに照らされたセイルは、力無く孕む。その向こうに見えた星空は、わたしにとって、揺るぎなく見えて、それは果てしなさへと続いていくのを感じた。
それは地球起源以来、静かに刻まれているものなのかもしれない。
誰も見ていなくても、感じていなくても、そこには、在るようで無くて、無いようで在るなにか。触れそうで触れられない、ぼんやりとした輪郭が浮き出る。遠いのか近いのかもわからない。
いつだってそれを探して生きている気がする。
なにかわからないものを。
もゆる赤い空から、いつのまにか淡い桃色に変わっていた。優しい朝の光に包まれた海の上だった。押し寄せる波がキラキラと水面に光る。
太陽に手のひらをかざしてみる。なにも持っていない掌の奥に、感じる温もりに、安堵した。
優しい風が吹いていた。旅は始まったばありだ。
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