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キャプテンが生まれた日

今、目の前で、

「キャプテン!キャプテン!」
と呼ばれて、ちやほやされているこの男…。

居酒屋『ここでのめ!』にて、
無茶ぶりともいえる肩書き
『キャプテン』
を背負い、

仕事をしているのか、
していないのか分からないが、
お客様には中々の人気者になった男がいます。

忘年会、新年会が多く行われるこの時期に、

この男を慕って、

かつてこの居酒屋の利用者だった者が…
卒業や進学、
就職や夢に挑戦するために
離れていった者達が…

当たり前のように
『ここのめ』を待ち合わせ場所にして
集まってくれる光景は…

店長的に
京都の三大絶景の一つだと思っています。

目を細めてでは見られない
この感動的な場面を背景に…

このキャプテンという男との出会いを
思い出しました…。

彼がこのグループの扉を叩いたその入り口は、
やはり麻雀屋さんで、

他のみんなと同じ面接を潜り抜けてきた、
普通のアルバイトスタッフさんスタートでした。

一つだけ違うのは…

彼は面接をリモートで合格した唯一の男

面接の当日。
予定の時間になっても来なかったこの男に、

無茶苦茶ムカついて電話してみたところ…

「…あ!

すいません!!

寝坊しました!!

ホンマすいません!!!!

と、
何の言い訳もない素直な平謝りを受けたことで、

『寝坊したとか

聞いてもないのに…

気持ち良いヤツやな、もう合格やんこんなの

と思わせた男。

そして
子供でピンフツモッたら何点?
に答えられたので、もう合格。

採用後も

案の定、気持ちの良いヤツで、

初めて入った夜番シフト明けの朝の、

「おつかれ、よくがんばりました、朝定食おごってあげるよ。」


言ってしまった店長の見せたわずかなスキ

「本当ですか!ありがとうございます。

生姜焼き定食に
カツどん大盛りで
つけてください。」

と遠慮のかけらもなく突いてきては、

定食屋のオバちゃんに

「あんた、ゴハンにゴハンやけど
定食のゴハンは無しにしよっか?」

と心配され、

生姜焼き定食に
カツどん大盛りで
つけてください。」

半ギレの真顔で復唱する新人離れした気持ちの良いヤツでした。


この気持ちの良さは、
接客業というか…人と接するお仕事をしたい人には絶対に持っていて欲しい感覚で、

こういう人には、マニュアルとか必要なくなるんじゃないかとすら思うんです。

いや、こういう人で無ければ…
接客業をしてはいけない』とすら思います。

天然で、人と接して笑顔を見るのが好きな人

その笑顔が見られるのなら…
その労力は労力だと気づいてない人


だからこそ、失敗には誠意を持って謝れる人


こんな方がおられましたら、
ぜひ一緒に働きたいです。

そしてこの男がそう店長に思わせたのは…
やはりその失敗からでした。


彼の本走中、

お客様が九連宝燈をテンパったのですが

実は、このテンパイには秘密があり、

この局、彼が少牌をしていたんです。

本来ならあり得もしないこの九連宝燈。

しかし、このようなマギレでもない限り
テンパることすらないのかと、

九連宝燈の存在を奇跡たらしめた…
くらいの出来事だったのですが、

突然、

「ロン。」

と、まさかの彼の口から…

少牌をしている人間からの
誤ロン倒牌
が起こりました。

役満よりもあり得ない事態。

んなアホな…。ちゃうけ…?

お客様の人生で初めての九連宝燈が
目の前からフッ…と消えたその瞬間です。

お客様はもう
「ラスハン」としか言えませんでした。

店内のスタッフ誰もがフォローの言葉も見付けられず…
ただ時を刻んだだけの最後の半荘が終わり、
お客様が帰ろうとした…

その時。

本走中だった彼が

全ての仕事を丸投げして

お客様のもとにやって来たのでした。


「ホントに…
ホントに申し訳ありませんでした!!

僕…下手で…バカで…

その、ホントにごめんなさい。

今度までには勉強して…
ホントきちんとなりますし、

また見に来てください!

ホント厚かましいお願いなんですが…
ホントに申し訳ありませんでした…!!!!」


正直
何を言っているのかよくわかりませんでした。

半泣き

仕事をほったらかし

他のお客様を待たせている状況。

この男の行動が正しいかどうか…
全くわかりません。

いや、マニュアル的には完全にアウトだと思います。

ただ、その姿が何人かの心を動かしたのは…

はっきりと覚えています



それからも

彼は、

まだルールも良くわかっていない
三人打ちの本走にブチ込まれて
大学生では
ちょっと引くくらいの金額を負けたことや、

何人も入ってくる女性スタッフ
全員に漏れなく恋をして
気持ちは伝えることなく、
他の男と付き合い始めるのを見届け続けたことや、

キャバクラに行って
同じ金額払ってるはずなのに、
連れの方が抜群にチヤホヤされて
『いや、どっちもフリーやん!
なんでやねん!』
ってキレたことや…

数々の苦境を乗り越えて…

「キャプテン!キャプテン!!」

と、慕われる、

今のこの光景があるのだと。

思えば思うほど、

こみ上げてくるものがあるわけで

「キャプテン!キャプテン!!」

とお客様にもみくちゃにされながら、

Tシャツ脱がされて

羽交い絞めされて

きちゃないお腹の上に

ロウソクのロウを垂らされて

「ああぁー!!ああああぁぁー!!」

と、まんざらでもない叫び声をあげる姿を見て


『気持ち良いヤツとかじゃなくて…

ただのMやったんやん…


と涙をぬぐい、

仕事に戻ることにしました。

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