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ボスが生まれた日

居酒屋ここでのめ。

板長というやたら美味いものを作ってくる
飯テロリストと、
キャプテンという見た目のクセの強い
顔面テロリストと、

…店長は店の隅っこで感無量になっているだけのお店。


感無量になるのには、
やはり理由がありまして、

もう七年という期間営業させていただいているのですが、

オープン当初は
当然お客様がおりませんでした。

あと、取り皿もありませんでした。

そんな素人丸出し居酒屋さんだった
ここでのめを
今やたくさんのお客様が楽しんでくださるようになったのですから感無量

どうやってこんなにたくさんのお客様に来ていただけるようになったのか…

救いの手を差し伸べてくれたのは

やはり我らがオーナーでした。

集客は任せろ

お風呂作戦でいこう。

オレが蛇口をひねってお客様という名のお湯を出すから、

ちゃんと栓をして店内をお客様でいっぱいにして。」

とのことでした。

こんなにハッキリ堂々と
集客は任せろ』と言われたことは
何とも心強いものでありまして、

さぞかし、

オーナーの
独自のネットワークを使ったスペシャルな集客だったり、

すごいSNSの使い方してきたり、

いや、リクルートさんにすごい友達がいるんかもな…

あ!もしかしてテレビとか出ちゃうんですか?!


などと想像を膨らましながら出勤しますと、

店の下で
メニュー片手に
サロンを腰に巻いて
仁王立ちしているオーナー
がいました。

それは…キャッ…ち??

「いや、ただ単に道を歩いている人に良い店があるのを教えているだけだ!」と。

想像を絶する地道な手法に全米が驚愕!

寒い中、ビーチサンダルで走りまくっては、

「めちゃくちゃ寒いな…、
もしも足の指落ちてたらオレのだし拾っといて!!

と、我が指をも落とす覚悟で
蛇口をひねる姿には全米が号泣!

もうぜひとも早く本物のお風呂に入っていただきたい!と思うと同時に、
しっかりと栓をしなくては
と強い気持ちを抱かせていただきました…。

そんなオーナーの背中を見て、
一人の女性アルバイトスタッフがこう言います…

オーケー、ボス。栓は任せロ…」

我がグループでオーナーのことを
唯一「ボス」と呼ぶスタッフ

中国からの留学生女性アルバイトスタッフ
『イちゃん』です。

初めての海外スタッフさん。

雇う方にも重大な責任ありますし、
入念な面接が行われました。

しかし、

初めての日本でのアルバイトに
何で『ここでのめ』選んじゃったの?
という問いに、

「はい、
日本のチェーン店でみんなは働きますが、
私はもっとお客様との距離が近いところで働き、
日本語がうまくなりたいです。」

と、100点の答え!!
今だったらキューブあげちゃいたいくらい。

健気で好印象ですし、
日本語も全然大丈夫そう、採用!

となった彼女。

採用の日にはもう
ボス、ありがとう、なんでもする。」と

もしかしてチャイニーズマフィアなんじゃないの?
ってくらいの恩義を見せてきて、

これはもう
だれかを殺してと頼んでも聞いてくれそうな勢いだったし、
『栓をする』くらいのミッションはお手のものだな、と。


思いの外喋れなくて心配だった日本語は、

「面接の時あんなに日本語上手やったのに何で?」

「あぁ。アレは、
思ってたことしか聞かれナカッタから
準備してタ。余裕ダッタ。」

と、むしろ、
こちらの面接の落ち度を指摘する度胸でクリア。


ボスが連れてきてくださったさっそくのお客様に

「いらっしゃいマセ。
ウチは、サシミが美味いデスヨ。」

ギリギリの接客でスタート

ここでそのお造りの紹介なのですが、
その日の名前は難しめの
ハリイカ、ブリ、メジマグロ」の三種盛りの日。

いけるか、イちゃん。

彼女は慎重に…

一つ一つ指さしながら、

「イカ、

ブリ、

マジグロイ、ネ」と。

はい、アウトー!

飲食店でグロいはアウトー…

なんですが…
意外や意外、逆にお客さま大爆笑

優しい人たち!ありがとうございます!

このお客様が、
辻ちゃんのブログ見てはる人たちでしたら
もう大炎上だったでしょう。

そんな『つかみはオッケー』をクリアしたイちゃんには
お客様の方から話し掛けてくださいました。

そして、イちゃんの『中国版タメ口敬語』を堪能していただきまして…

そろそろ帰ろかなー…って時に
お水ちょーだい」と頼んだお客様に

「水?

酒を頼まないならすぐカエレ!

という伝説の暴言が生まれました

「ぁあ、ハイボール!笑」

と、笑って頼んでくださってありがとうございます

「頼んでくれてアリガト、スキヨー!

…ま、
コレ中国では酒でコロスって意味ダケド。」

という二か国語ギャグまでかまされてありがとうごさいます

そして、帰り際に

イちゃん、オレにだけ厳しいねんなー…笑」

と、ニッコニコで帰ってくださりありがとうございます!

これは、内緒の話ですが…

当時イちゃんに『栓された』お客様は全員言ってました。

オレにだけ厳しいねんなー…」と。


このような
ボスとイちゃんの
涙ぐましい主従関係があって、今のここでのめがあります。

ちなみに、このイちゃん。

去年、軽い気持ちで中国に帰省して、

時流にまみれて戻って来れなくなりました

いつか戻ってきたら…

皆さん、その時は見に来てください。

彼女の7年間の日本語の上達を。

上手くなったのはタメ口だけネ

って、言ってた日本語力を。

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