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【エッセイ】アメリカンスピリットを夢見た雪だるま。あるいはそれは、一人の男の実存。

 こんばんは、じゅんちちです。

 一昨日は東京では珍しく雪が積もりました。雪が積もると僕の中の子供心が騒ぎ出すけど、もう身体が寒さに悲鳴をあげるので、結局家にこもってました。本当に寒い。

 そして昨日は残った雪が道路上で凍って、天然スケート場が完成していました。下り坂なんてもう恐怖しかなかったですね。


 前にも書いた気がするけど、僕は喫煙者なんです。煙草を吸う人間。

 僕が吸っているのはクールのブースト5ミリ。濃い緑色のパッケージのやつです。

 もともとはアメリカンスピリット愛好者で、アメスピのライト、黄色いパッケージのやつを吸っていました。

 それが就活の頃に少しでも煙草臭さを抑えようとメンソールタイプのクールに変えて、そのままクールを吸い続けてきました。他に好きな女の子がいたのに、別の子に告白されて付き合い始めてだらだら関係が続いてる、みたいな感じ。つまりは惰性。
(メンソールタイプにしたところで煙草臭さは軽減されないことを、若かりし日のいたいけで純心な可愛らしい僕に教えてあげたい。)

 なので、アメスピに戻そうかなと思っていたんです、最近。

 味や匂いがいいし、葉っぱがぎゅうぎゅうに詰まっていて吸い切るのに8分くらいかかるし(煙草吸わない人に向けて説明すると、普通の煙草は一本吸うのに4分くらいで終わるのが、アメスピは8分くらいかかるんです、約2倍の時間)。僕の好みとして、綺麗めなクールビューティーよりも、ファニーな性格でキュートな見た目のかわい子ちゃんが好きなんですね。


 それで一昨日の夜も、そろそろクールを吸って12年とかになるのでアメスピに戻そう、と思いながら家の庭で煙草を吸ってたんです。雪を頭に積もらせながら。
 吸い終わる頃には、僕もほんのり雪化粧。色白お肌に煌めく髪の毛、お部屋に入れば溶けた雪のせいで水も滴る良い男の出来上がり。

 それが煙草も短くなってきた後半、もうそんなこと考えてる余裕がなくなったんです。寒すぎて。

 隣で誰かミシンでも使ってるのかなって思ったら自分の歯がカタカタカタカタ震えてぶつかってる音だったし、煙草を持つ手は悴んで痛いし、もう腹が立ってきて。あまりの寒さに。

 それでも煙草を無駄にしたくない貧乏根性で短くなるまで吸い切ってから、急いで灰皿に吸い殻を捨てて家の中に入りました。

 一昨日の夜の僕は4分くらいで吸い終わるクールですら凍えそうになったわけです。これがアメスピだったらどうなっていたでしょう。

 きっとカチカチに凍りついていたかもしれません。そして永久凍土に眠るマンモスみたいに氷の中で悠久の時を過ごしながら世界を眺めるのです。いや、その前に死ぬわ、なんて無粋なことは言わないで。


 だからアメスピは諦めました。まだ凍えて眠りたくはないですからね。

 というか、小説家になるまでは死ねません。いや、小説家になったら、それこそ死ねません。なので、僕は当分生き続けるつもりです。


 なんか、そんな小説を書いてみたいな、と思いました。庭で凍って動かない男の話。

 前にも書いたけど、僕は小説において人間を描きたい。世界と対峙する人間存在の有り様を描きたいんです。

 そして、人間とは本質的に、受動的にしか生きられない、存在できないのではないかと最近は考えています。

 理不尽な出来事や状況、巨大で複雑な社会システム、畏怖すべき自然の力、そうした人間自らがコントロール不可能な巨大な波の中で揉まれながら流されて生きるしかない。

 だから、人間は本質的に受動的な存在です。しかし、その中で限定された形での主体性、能動性を如何に発揮するか。

 その姿に人間性が現れるのではないか。


 人間の主体性、能動性を排除した小説を書いてみたいです。そこでなにが描けるか、浮き出てくるかを見てみたい。

 だから凍りついて動けない男の話。ストーリーはありません。そもそも人生に明確な一本の線みたいなストーリーなんてないんだから。人間やその人生を描く小説にだってストーリーは本来いらないはず。


 いつか時間が空いた時にでも、掌編程度の長さでもいいから、そんな話を書けたらいいな。

楽しみにしてくれる人はいないと思うけど、お待ちください。

 それでは、今日はこの辺で。また。

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