サウスポーピエロ
日本総人口による左利きの割合はわずか1割。
マイノリティなのは周知の事実。
初対面で話題のタネに絶対になって、珍しがられる。
ましてや根拠もないのに天才や芸術的と言われる始末。
簡単に天才の名誉を獲得できるなら、自分も左利きで少数派に乗っかってみたい。
そんな従順な気持ちで左利きに憧れたときの話をひとつ。
知り合いとご飯に誘われる機会があり、はじめてのメンバーで焼肉を食べることになった。
初対面の方々と食べ放題で2時間という試練に緊張してしまう。
それは自分だけではないようで、つややかな肉がたくさん現れても、その場の雰囲気は盛り上がらない。
自分から話しかけるタイプではないが、このまま煙の音だけが眼中に響く会にはしたくない。
その思いで肉を焼き始めると、肉を網に乗せるトングを左手で操っている人を発見。
焼いた肉を食べる箸も左手で持った。
左利きの彼との遭遇。
このチャンスを逃さない。
なんとかキッカケの火をつけたい。
しかし左利きを指摘するだけでは話が広がるのは難しい。
そこで他の人にバレないように左利きにシフトを変え
「貴様も左利きなのか。俺もだ同志よ。」
と言えば同調感が生まれ、左利きあるあるで盛り上がり、他からは
「天才肌!芸術家!」
と、互いに気持ちよくもてはやされるだろう。
口調はもっと丁寧にしたが、思い描いだ通りに左利き仲間だと伝えると、彼は
「箸持つときは左だけど、ペンを持つときは右なんだよね。だから両利きってとこよ。」
そこからは、わざわざ見栄張って左利きにした自分そっちのけで、両利きの彼にこのシチュエーションならどっちの手を使うかの話で幾分は持ちきりになった
話は盛り上がって嬉しかったが、自分は天才や芸術家ではなく、“左利きの道化師”になってしまった。
ちなみにこの日記の内容をすべて左指でタイピングしようとしたが、後半は右指でスライドしてしまっている。
両手で書いた日記。ますます両利きに憧れる。
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