イニエスタ恩師の言葉
「まずは、その国の歴史と文化を学べ」
この言葉は昨年の夏に、私がヴィッセル神戸を訪問した時に”イニエスタの恩師”で有名なアルベルト・ベナイジェス氏から受けた言葉だ。
あのFCバルセロナで20年間の間、指導者・育成総責任者を務めた経歴も持つ男だ。
彼は、当時ヴィッセル神戸のトップーチームスカウティングと育成カテゴリーの強化部長を任されていた。
そんな役柄、育成年代のメソッド構築にも力を入れていたそうだ。
そんな彼にある夜、神戸市内にあるレストランに招待をされ夕食を頂いた。
夕食後の彼が運転をする車での帰り道、他のスタッフをホテルに下ろした後、なんと私の実家まで彼が送ってくれると言い出したのだ。
もうそれはそれは緊張で汗が止まらない。
たくさんの有り難いお話やお言葉を頂いた。
そこで話したほとんどの内容に関しては、このnoteの他記事に掲載されているのでぜひ覗いて欲しい。
その中でも、まだ書き留めていなかった内容が一つある。
それが先ほど最初の文書に述べた言葉、
「まずは、その国の歴史と文化を学べ」だ。
この言葉がどういった背景から来ているかを少し説明しよう。
この日とはまた別の日、同じく彼が運転する車は我々スタッフを乗せながら神戸の綺麗な街並みを巡回していた。
そんなプチ旅も終わりにかかろうとした時、車は最後の目的地として”明石海峡大橋”といった大きな橋を渡り、”淡路島”に突入しようとしていた。
そんな時、彼が突然スペイン語でこの橋の歴史について語り始めたんだ。
それはもう、本当に細かいサイズの話からこの橋ができた年号の話から、、
要するにこの橋の全ての歴史をなんの躊躇もなく語り始めたのだ。
私は衝撃だった。
もちろん、自分が兵庫県出身にもかかわらずそこまでの知識を持っていなかったこともあり恥ずかしい気持ちだ。
ただ、ヨーロッパの遠い遠い国から駆けつけた若干60歳近くの一人の男が、スラスラとたった一つの’橋”について10分ほどノンストップで話し始めたのだから、それはもう衝撃だった。
ここではこの橋の話だけを切り取ったが、それは他の場所をドライブしている時も同じことだった。
私は、単純に恥ずかしい気持ちになって何も言うことができなかった。
「自分の国なのに、、自分の故郷の話なのに、、」
まだ一年も暮らしてもいない目の前のスペイン人の方が自国を熟知していたんだ。
なぜ、そこまでして歴史を学ぶ?
では、なぜそこまでして彼は日本の歴史や神戸の歴史、日本の人々の勉強をされたんだろう。
私は、日本人として恥ずかしい気持ちを端置いて直接彼に聞いてみた。
すると彼はこう言ったんだ。
”私は、日本に来日すると決まってから1年の年月をかけて、日本の歴史・文化を学んできた。これは私が、以前にアラブ首長国連邦にで仕事をした時も、メキシコに行った時も同じことだ。海外で何か事をするにあたってまず初めにお前が学ばないといけないことはその国の歴史だ。その国の文化だ。その国の国民性だ。そこを飛ばしては何も始まらない。なぜなら、全く違った国に飛び込むと言うことはその世界に自分が適応していかなければならないからだ。
これは、プレーモデルを作る時だって同じだ。その国の子供達の人格やキャラクター・もしくはトップの世界だとファンがどんなサッカーを求めているのか。そう言った背景を知ることから全ては始まるんだ。そこを飛ばしてしまっては何もうまくいかない。海外に出た指導者がはまってしまう落とし穴はそこにあるんだ。”
これがトップの世界かと痛感したと同時に、自分が情けなくなった。
その国の歴史や文化を勉強する大切さはバルセロナのコーチングスクールでも学んでいた。が、それに過ぎなかった。
改めて、一指導者としてもしくは一人間として大切なものを教えて頂いた瞬間だった。
全てに共通すること
ここまで話してきた内容っていうのは、全てに共通する。
いくら、スペインでドイツでアルゼンチンで勉強して知識を蓄えてもそれが自国で体現しようとした時に全て通用するってのは全くの嘘だ。
ここで、つまづいてしまっている海外帰りの指導者も多く見ることも事実だ。
この流れは、日本国内でも同じことが言えるだろう。
SNSの発達でいつでもどこでも、様々な国の情報をゲットすることができる。
ただそこからの作業として、果たしてその獲得した情報を日本の選手達にどうやって還元して行こうか、どう変換したら効果的になるか。
そこまで落とし込んで考えられている指導者がどれほどいるのだろう。
これからの課題はそこにある気がする。
まずは、自分の国の文化を知ること。国民性を知りこと。そのクラブの歴史を知ること。
そこが真のスタートラインではないだろうか。
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