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『ひとの住処 1964-2020』書評

「人間にとって建築とは何か?」を問いかけ、ふたつのオリンピックをつなぐ圧巻の文明論を展開している本があります。

本日紹介するのは、1954年神奈川県生まれ、東京大学大学院建築学科修了、コロンビア大学客員教授、慶応義塾大学教授を経て、2009年より東京大学教授で、隈研吾建築都市設計事務所を設立して活動する隈研吾さんが書いた、こちらの書籍です。

隈研吾『ひとの住処 1964-2020』(新潮新書)

この本は、1964年と2020年、ふたつのオリンピックを補助線にして、日本の過去と未来について、「都市はどこに向かっていくのだろうか」「われわれの生活は、どんなふうに変わっていくのだろうか」「そもそも人間にとって住まいとは何なのか」「人間と建築とは、どのような関係にあり、その関係は、どのように変わっていくのだろうか」という問いを、自らの半生を織り交ぜながら考察している書です。

本書は以下の5部構成から成っています。

1.はじめに-ふたつのオリンピック

2.1964-東京オリンピック

3.1970-大阪万博

4.1985-プラザ合意

5.2020-東京オリンピック

この本の冒頭で著者は、「20世紀とは、一言で要約すれば、工業化の社会であった。工業化社会は同時に、建築の時代でもあった。」と述べています。

なぜなら、自動車も電気製品も、「家」のために買われたのであり、「家」という人生の大目的に、従属する存在だったからである、と著者は言います。

著者がまだ10歳の子ども合った頃の第1回東京オリンピックの時期にあった出来事や著者が影響を受けた思い出として、以下の建築が紹介されています。

◆ モダニズム建築の父と呼ばれるル・ゴルビュジエの『建築をめざして』(鹿島出版会)

◆ 新興数寄屋建築の父・吉田五十八にデザインされた旧吉田茂邸

◆ ウィリアム・モリスのイギリス「赤い家」

◆ コンドルによる綱町三井倶楽部

◆ 辰野金吾の東京駅

◆ 長野宇平治による日本銀行旧小樽支店

◆ 丹下健三の国立代々木競技場第一体育館

◆ 丹下健三の広島平和記念資料館

続いて、1970年大阪万博の頃の建築や著者の思い出として、次のことが挙げられています。

◆ メタボリズム(生物の新陳代謝)と黒川紀章

◆ 原広司と集落調査

◆ サハラの旅

次に、1985年プラザ合意の時期、ニューヨークにて著者が感じた時代や建築は以下の通りです。

◆ 建築家も武士化

◆ アール・デコ建築の代表、クライスラービル

◆ 四国山地の辺境の街で木に出会う

◆ 馬頭の杉でできた広重美術館

本書の最後では、2020年東京オリンピックに向けて、次のエピソードや建築を挙げています。

◆ ザハ・ハディッドによるデザインのパース映え

◆ 新国立競技場第一回コンペ

◆ 新国立競技場第二回コンペ

◆ 木のスタジアム

◆ 金融資本主義後の建築

◆ 木で再建された明治神宮


本書の最後で著者は、「21世紀とは、人々が庇でつながる時代である。人々と自然が庇でつながる時代である。」と述べています。

日本の小径木という「小さな部材を水平に組み合わせて作った庇の中に、産業資本主義でも金融資本主義でもない新しい経済が見える」と著者は言います。

あなたもこの本を読んで、21世紀の建築とは何か、ひとの住処とは何か、について思いをめぐらしてみませんか。


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