なぜ事業領域をピボットしたのか?〜ジム友マッチングアプリ『ジムレル』事業のクローズと今後について〜
はじめに
こんにちは、株式会社Pit-Step 代表の御前です。ここ数ヶ月ずっと、「書かねば…」と思っていた、事業ピボットについてのnoteを書きました!これからスタートアップを始める方、(少しでも)意思決定の参考になれば幸いです。
まずは、プロダクトに関わっていただいた全ての方々には明確なご報告ができていなかったことを改めてお詫び申し上げます。また、本ローンチを楽しみに待っていただいていたユーザーの方々には、プロダクトをお届けできず大変申し訳ございませんでした。
事業クローズ・ピボットの経緯
ここからは、事業クローズ・ピボットの経緯についてご説明していきます。細かく言うと、事業領域のピボットは2回目となります。2回とも、ピボット前後はけっこう大きな精神負荷がかかりましたが、お陰様でなんとか復活しております。
【ピボット1回目】 メンタルヘルス → フィットネス(2021年2-3月頃)
創業直後までは、メンタルヘルスケアのアプリを開発する予定でした(下記noteを参照)。アクセンチュア退職まで約半年の間、準備してきました。
しかしながら、以下の理由で、創業直後に事業領域をピボットしました。
創業者自身の経歴(前職や大学院時代)や強みをそのまま活かせる領域でない
既に似たようなサービス(カウンセリングやメンタルケアの専門家とマッチングするサイトやアプリ)が多数ローンチされており、差別化が難しい
日本ではカウンセリングやメンタルケアにお金を払う文化・習慣が根付いていない
このピボットもキツかったですが、ニーズ検証などがまだ序盤だったこともあり、2回目より僕の精神ダメージは少なかった気がしています。
【ピボット2回目】 フィットネス → Web3/エンタメ(2022年3-7月頃)
1回目のピボット後、"Tinder for Fitness" として『ジムレル』アプリを開発していました。
前回の反省を踏まえ、以下を確認しました。ただ実は、前回の3つ目を見落としていた(楽観的に捉えていた)という失敗がありました。
創業者自身の経歴にマッチしている(大学〜大学院でスポーツ科学を専攻し、トレーニング指導者の資格も保有している。健康領域についても論文・座学ベースでの知識は豊富)
類似サービスは、海外では見られるが、国内では提供されていない
日本ではジム・フィットネスにお金を払う文化・習慣が根付いている(?)
iOSのベータ版アプリをノーコードツールのAdaloで開発し、テストユーザーに使ってもらいました。また、オーガニック(有料広告なしの状態)でユーザー数も伸びていました。いわゆる「リーンスタートアップ」の要領で、できるだけお金がかからない状態で検証をガンガン進めていました。そして、経産省・WiL主催のアクセラレーションプログラム「始動Next Innovator」にもめでたく採択されました。
しかし、ここでも壁にぶち当たります…。
このピボットはけっこう最近でして、創業2期目を迎えた直後にピボットを決意しました。理由は下記です。
TinderやBumbleなど、既存のマッチングアプリでも代替できてしまう(ユーザー数が多いので、みんなそっちを使う)
アクティブユーザー数(日常的にマッチングしてジムに行くユーザー)の天井が低い
高収益が見込めるビジネスプランを見出せなかった(最もクリティカル)
1点目については、マーケティングに注力すれば数年以内に超えられた壁だと思っています。(AirBnBも、Craigslistという巨大掲示板から部屋の予約をUnbundleした形なので、スタートアップ起業の発想としては教科書通り。むしろ、ユーザーニーズがあることの証左とも言えるでしょう)
2点目については、TAMの話です。フィットネス人口は国内でも増えていますし、いくつかこの領域で奮闘されているスタートアップも存じ上げています。しかしながら、「飲食」「衣類」「居住」など生きるために必須の領域や、「旅行」「ゲーム」「漫画」などのエンタメ領域、あるいは「恋愛」「婚活」のような「お金を払ってでも解決したい」領域には叶わない規模にとどまります。(ジムレルの初期ピッチ資料を作る際は、よく「マズローの欲求階層」ピラミッドを見ていました)
3点目についてですが、この理由が最もクリティカルでした。(誤解があると良くないので鉤括弧で強調しますが)日本ではジム・フィットネスへ「十分な数のユーザーが」お金を払う文化・習慣が十分に根付いていなかった、ということです。実際にヒアリングしていても、月に3万円以上を払ってジムにずっと行き続けるという「超ロイヤルユーザー」は少なかったです。(ちなみに僕自身は「超ロイヤルユーザー」の一人です)
3点目の理由は、2点目と密接に関係しています。古くはFacebook、今で言うとTikTokやBeRealのように、グローバル規模でアクティブユーザー数が爆伸びしている(していた)ソーシャルメディアであれば、フィードに広告を掲載するだけでも巨額の売上が見込めます。
ただし、特定の領域に特化したソーシャルメディアはユーザー数の天井が低いため、過疎りやすい・マッチングが起きづらいという難点があります。頑張ってマーケティングしたとしても、それが徒労に終わりやすい。その上で「超ロイヤルユーザー」の絶対数が少なければ、マーケティング費用や開発・メンテナンス費用を回収できないということになります。
フィットネス領域は、店舗展開やトレーニング器具やプロテインを売るなど、アプリやWebサービスを主軸に据えたテクノロジースタートアップ以外の形態ではとても魅力的な市場であると思います。また、HacomonoやTHE PERSONなど、B2Bを中心としたのソリューションでスタートアップとして躍進されている企業もあるため、「B2Cのアプリだけ」にこだわらなければ、成功していたかもしれません。
しかしながら、僕が起業してやりたかったことの根幹(ある意味でエゴ)は、「一般消費者向けの革新的なインターネットサービスを創り出し、広く長く普及させること」でした。つまり、B2Cのテクノロジースタートアップがやることが前提であり、そのためにアクセンチュアでのキャリアに区切りをつけて、裸一貫で起業したわけです。
テクノロジースタートアップとして事業を進める以上、(Jカーブを掘る場合は理論上)将来の売上が伸びる見立てがないといけません。「ユーザーを大量に獲得した後、広告を掲載する」みたいに、TAMが巨大な場合では通用する戦略は、フィットネスのように極めてバーティカルな領域では通用しません。ここの見立てが非常に甘かったです…。
以上は、「フィットネスアプリを作るぞ!」という強いバイアスがかかっていなければ、自明なことだったのかもしれません。ジムレル開発のために昼夜奮闘してた最中は、全く見えていませんでした。(よく言えば、迷いがなかったです。当時はめちゃくちゃ楽しかったですし、ピッチやイベントも自信を持ってやってました。これだけは事実です)
2回のピボットから得た教訓
シンプルに言えば、「スタートアップは市場選定が全て」だと改めて痛感しました。より具体的に言うと、下記をできる限り満たす市場を選ぶと(短期的な成功ではなく)勝ち続けられる可能性が高まります。
現在、急速に伸びている市場である
現在、急速に伸びているテクノロジーとの掛け算で事業を作れる
既にユーザーがお金を払う文化・習慣が根付いている領域である
これは、現在で言うとどんな市場なのか…。
突き詰めて考え続け、情報収集した結果、Web3領域(NFTやFTを含め、仮想通貨領域をリブランドした名称)であるとの考えに至りました。
あくまで感覚的な表現ではありますが、急伸している市場には「引力」が働いている感じがします。アーリーアダプターやVC・大企業のお金がどんどん流入し、政府や自治体・メディアなども取り上げやすくなります。この「引力」が働いている領域に率先して飛び込めるか(時に自分のこだわりを一部捨ててでも)が、スタートアップとして青天井の成長を続けられるかの違いな気がしています。
市場選定をロジカルに行い、ヒアリングやMVPでユーザーニーズを確認する。ここまでを、できるだけ速くに実行することで、スタートアップに必要なモメンタム(勢い)を失わずに生存できるのだと思っています。
おわりに
創業から1年半経って、2回ピボットしたおかげで、まだプロダクト本ローンチができていません。資金調達についても、受託での売上と、日本政策金融公庫からの借入のみで、エクイティでの調達は今準備しているところです。
それでも、僕はスタートアップへ挑戦し続けます。挑戦することや、新しい刺激を得ることによって、生きていることを実感し続けられるからです(それ以外にも色々ありますが)。失敗から学習しながら挑戦し続けられることに、大感謝です!
これから展開する事業は「Web3」と「エンターテイメント」の掛け算で創っています! 以下の記事に概要を書いておりますので、ご興味あればぜひお読みくださいませ!
御前