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昨年の中国ダブル11がなぜ静かだろうか

 最近、ビジネス情報交換で中国経済の行先についてよく皆さんと深く意見交換ができました。私が経済専門家ではなく、仕事上の関係で経済及びビジネスに関心を持っているただの一市民です。中国経済に関する専門的分析及び判断は、経済専門家に譲りたいと考えておりますが、意見交換の中で、中国経済が「低迷」と判断される材料の一つは、去年(2021年)のダブル11が例年より静かだったことです。これについては、私が少し疑問を持ちます。去年のダブル11が本当に静かだっただろうか。これは、専門家の知識よりも、中国国内の一消費者として身近で発生しているもので、発言資格があるかと思います。上記の事情を鑑み、私は、勝手ながら「去年のダブル11が静かだった」と思われる現象を検証のうえ、その原因を分析しました。文章の最後に今後中国でビジネスを展開したい企業に対し、越境EC業務を扱っている法律家として個人で今後の展望につき少し描きました。

       2021年のダブル11はなぜ静かだろうか

一、【2021ダブル11回顧】

①『経済効果』
   2021年ダブル11においてはアリババの天猫(Tmall)の取引額は前年同期比で8.5%増の5403億元(約9兆6500億円)、京東は約6兆2350億円となりました。今年の天猫のダブル11は引き続き穏健な成長が続き、中国市場の消費活力及び経済堅調が反映されています。アリババでは今年、過去最多の29万ブランドが値引きセールに参加し、天猫では1日から11日午前0時45分までの間に、約380ブランドの取引額が1億元に達しました。
    販売開始から1時間のみで2600ブランドの成約総額が既に去年初日の成約総額を超えました。11月11日23時までに、698中小ブランドの成約総額は百万元級から千万元級までに達し、昨年のダブル11で取引高が千万元級に達した78ブランドが今年のダブル11の成約額は既に1億元台を突破しました。
    しかし、今年はこれまで最も注目されていたダブル11即時戦報は、全くありませんでした。これまで、アリババ、京東などの主流電子商取引プラットフォームは深夜零時過ぎに、スクロール式で数秒の成約総額が既に100億元、500億元または1000億元を突破したと報じていましたが、今年は、それが消えてしまいました。

②【新消費価値観】
  今年の天猫ダブル11は、スキー板、アウトドア電源、ペット玩具、フィギュア、雰囲気ライト、早C晩A(朝ビタミンC化粧品、夜ビタミンA化粧品)、文房四宝、惣菜半製品料理、床洗浄機、子供用安全シート等楽しい生活を享受できるものが人気となって、人々の消費原動力となっています。
  年長者と若者はより大きな情熱でダブル11になだれ込んでいて、20代と30代の消費者の比率は45%を超え、特に20代のダブル11参加者の人数は去年より25%増えました。年長者用の淘宝が導入されてから、毎日110万人前後の“银髪族”が“年长者版”を使いダブル11を楽しんでいます。彼らが好きな商品の上位3位はスマートフォン、ダウンジャケットとラシャコートです。若者の「夜ネットショッピング」と違って、「銀髪族」が朝7時ショッピングというのは特徴でした。

③【初の環境保護意識】
 今年が「ダブル11」が「低炭素ダブル11」と位置づけ、環境保護を意識し、グリーン消費が呼びかけられています。例年の商品割引宣伝と違って、各店舗が「グリーン」と「公益」を全面的に打ち出して、11月初めに天猫が早速ダブル11グリーン商品のランキングを発表しました。グリーン家電、グリーン食品、節水商品と新エネルギー自動車の四分野でした。初めてグリーン特別会場を設け、一気に50万点超えのグリーン商品を登場させました。  
   11月1日0時より発売開始から1時間で、消費者が天猫から2.5万個以上の節水便器を買い取り、概算で一日に約225トンの水を節水できます。販売開始から9時間で、12万件以上のグリーン家電が販売され、炭素削減の貢献値から見て、グリーン会場で販売された洗濯機が炭素345トンを削減、エアコンが炭素260トンを削減、冷蔵庫が炭素194トンを削減できます。
   さらに多くの店舗は、化粧品空き瓶の回収、自家用買物袋の持参、電子発票の利用等市民に対して低炭素環境保護とグリーン消費を呼びかけています。

④【中国人の消費意識変化】
   現在中国消費者の消費意識は、価格より品質、サービス質、及び環境保護を重視することになりました。

二、【なぜ2021ダブル11は静かだったのか】
 今年のダブル11が静寂になったのは、主に以下の原因によるではないかと考えます。 
①『消費観念の変化』
   百度会社の調査により、例年と比べて、消費者のダブル11に対する態度が熱狂から理性に転向しており、衝動消費等がかなり少なくなっていることが分かりました。その根拠として、価格比較サイトでの検索数が昨年と比べて28%増加、返品・交換規則に関する検索が10%減少、直近30日間の苦情検索が昨年と比べて12%下落しました。

②『ライブコマースの普及』
   去年までは、ライブ配信がまだそこまで強くなかったですが、今年はライブコマース(live commerce)」か「Live配信型ネット販売」が急速に成長し、これにより多くのメーカー企業が直接に消費者に直売し、毎日のダブル11が実現できました。

③【政府当局の規制】
 今年11月1日、「個人情報保護法」が正式に施行されました。これにより個人情報の過度収集、顔認識技術の乱用、ビッグデータの無断構築などが厳しく禁止されるようになりました。最高裁も相次いで独占禁止法や不正競争防止法等に係る典型的な裁判例及び知的財産権司法保護の強化に関する意見を公布し、電子商取引分野の不正競争行為に関する規制を強化しました。10月25日に工業情報部情報通信管理局が行政指導会を開き、電子商取引プラットフォームに対し、消費者の同意を得ずに、販促メッセージを送信してはならないとの指導を行いました。11月4日、中国消費者協会は、消費者に対しダブル11期間中の「価格宣伝」を盲信しないよう呼びかけていました。11月6日、市場監督管理総局は、『ダブル11に係るネットプロモーション経営活動の規範化に関する注意事項』(中国語では“关于规范“”双十一”网络促销经营活动的工作提示)を公布し、「値上げ後の値下げ」等の価格操作の不正競争行為を禁止しました。特に中国消費者に知られている「ビッグデータによる価格操作」(中国語では“大数据杀熟 ”)行為を厳しく規制ました。 

④【昨年からの異変】
 昨年からもその静寂さがすでに兆しを見せています。当時電子プラットフォームが講じていた対策としては、ダブル11の戦線を長くし、11月1日からスタートさせました。去年から見ると、「最大の爆発点は11月1日で、この日の商品が一番多くて、価格も一番安かったです。仮にノルマが達成できなくても、最終日に再び価格戦略を持ち出すことが可能です」。結果的にこの方法が成功となって、2020年ダブル11の累計成約総額は4982億元に達し、2019年ダブル11の成約総額より倍増に近い金額となりました。

⑤【販促機会増加による消費者の麻痺感】
 日常で配信するライブネット販売で行われる割引以外にも、電子プラットフォームでも割引が常態化となっています。また京東、拼多多等の電子プラットフォームが参入してから、店舗のブランド記念日、周年祝い及びセール等を除き、毎年はダブル11だけでなく、618(京東の周年祝い日)、818(蘇寧易購の周年祝い日)、ダブル12(12月12日電子プラットフォーム店舗セール)、ブラックフライデー(毎年11月の第4木曜日)などの販促日があります。イベントの連鎖により消費者がダブル11に対して既にその関心度が以前よりだいぶ低下しています。
 また、ダブル11は初年度の1日のみから、それからの3日間より10日間まで、更に今年の20日間までとなり、その戦線はだんだん伸びていました。確かに20日間の業績は3日間の業績より明らかに伸びるに違いないですが、やや自己欺瞞的なところもあり、結局消費者の新鮮さが次第に低下し、消費刺激の効果がますます薄くなります。

⑥【世帯交代】
   ダブル11については、初回の開催から既に13年目に入りました。世代交代もあり、その消費観もだいぶ変わりました。最初の5年間は、その主流消費者が今の40代と50代の者で、この世代の者は中国の激変時代を経験し、金銭稼ぎの苦労と生活の辛さがよく分かっていますので、お金の節約のため、辛くても夜中の12時までほしい商品が安くなるのを我慢強く待ちます。しかし、今の消費者が殆ど20代の者で、生まれてから裕福な生活で過ごしているものが多くて、彼らにしては買いたいものはいつでもネット上で買えますので、敢えてダブル11の夜の12時まで待つ必要がないと思っています。

三、【今後の展望】
   それにしても、ダブル11の販促が今後も続くのではないかと考えられます。ダブル11誕生以来、淘宝・天猫の売上は2009年の0.52億元から、2020年の4982億元に達しました。2021年のダブル11の戦線は21日間までに延長し、店舗にとってもプラットフォームにとっても、看過できない存在です。国境を越えた人の往来ができない中で、オンラインビジネスを通じて中国の消費者へのアプローチし、日本のブランドの認知度を高め、消費に繋げることは、中国に進出する日本企業にとって極めて重要だろうかと考えております。そして、その中で越境ECが最も重要な存在であり、ダブル11は中国の消費者にアプローチするチャンスでもあります。
   越境 EC に関する中国の法規整備も進んでおり、2021 年 3 月 18 日には、中国商務部、国家発展改革委員会、財政部、税関総署、税務総局、国家市場監督管理総局の 6 部門により「越境 EC 小売の輸入テスト地域を拡大するための監督管理要求を厳格かつ確実に行う通知」(中国語:関于拡大跨境電商零售進口試点、厳格落実監管要求的通知)(商財発〔2021〕39 号)が公布されました。同通知によると、越境 EC による輸入小売業の適用範囲が、中国のすべての自由貿易試験区、越境EC 総合試験区、総合保税区、輸入貿易促進イノベーションモデル区、保税物流センター(B 型)を設けている所在都市(地域)に拡大され、これにより、越境 EC のさらなる拡大が期待されます。
   越境 EC には、「一般貿易より中国市場に参入するスピードが速い」「リアル店舗での販売に比べてコストやリスクを軽減できる」「低コストと小ロットの展開を通じて中国消費者の受容度合いを検証できる」「新商品をすぐに中国人に向けて販売できる」などのメリットがある一方、中国で越境 EC 事業をスタートし、事業を成功させるためにはさまざまな課題を乗り越える必要があります。例えば、中国市場において認知度の低いブランドや商品は、「いかに話題を集め、中国の消費者の興味・関心を喚起するか」という課題をクリアする必要があります。中国では、SNS 上の口コミが商品の売れ行きを大きく左右しています。商品の特徴やターゲットの属性に合った SNS などでの情報発信、さらには近年中国で急成長するライブコマースの活用など、効果的なプロモーションや販促手法の検討も必要不可欠です。


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