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映画マイスモールランドを観た

恥ずかしいくらい泣いちゃった映画の感想と、田舎の主婦がマニアックな映画を観るハードルの高さ。二部構成で書きますので、ご興味のあるほうだけでも読んでって下さい。

「ランド」の罪深さ

日本は良くも悪くも島国で、こんなに国際化の進んだ21世紀でもなお、そのぬるま湯の心地よさに息苦しさを忘れて鼻の下まで浸かっている私。私たち。
映画「マイスモールランド」を観た。
「万引き家族」「ドライブマイカー」のスタッフが製作に携わり、「誰も知らない」だとか「そして父になる」だとかを通ってきた私としては、どうしても観たい作品のひとつだった。
埼玉県に住むクルド人の高校生、主人公のサーリャ。ごく普通の高校生であろうとする彼女と、それを打ち砕く現実に胸が苦しい。家族の難民申請が認められず、アルバイトをすることも埼玉県から出ることも許されなくなってしまう。友達に会いに行くことも、夢のために僅かなバイト代を蓄えることも「罪」になってしまうのだ。
美しくお人形のようなサーリャがどんどん疲れていく様子がとてもリアルに描かれている。ストレートアイロンで前髪を整えるシーンは、私も毎朝、我が娘のルーティンとして眺めているので、彼女たちにとってストレートアイロンが自分を守ってくれるおまじないにも似た大切な行為だというのが、生々しく響いた。

私が恥ずかしいくらい泣いてしまったのは、後半。
父親の語られなかった本心が、ある別の人によってサーリャに打ち明けられた所から。私は息もできずに、ただ胸が苦しくなって、行き場を失った感情が両目からポロポロ液体となってあふれ出た。そこからエンドロールまでずっと、止めどない感情は目からこぼれ続けた。
島国根性が染み付いた私たちは、本当に排他的で、その事が悲しかった。国土や国境に対しての想像力が乏し過ぎて、それを「しょうがない」なんて済ましてはいけないと思った。
サーリャが自分の娘だったら、サーリャが隣に住んでいたら。いや、サーリャは現実に日本にいるのだ。別の誰かの名前だけれど。

最初、この映画のタイトルを「マイスモールワールド」だと勘違いしていて、チケットを買う時にあれ?って思ったんです。でも映画を観たら、ちゃんとランドだった。ロビン(主人公の弟)がラストに題名を回収してくれた。
アイランド(島)しか知らない私がランド(国土)の罪深さを知り、そして家族の愛に心震えた映画だった。

大阪ステーションシネマから駅に向かうエスカレーター

田舎の主婦この映画を観るのは無理ゲー

奈良県内で公開されない映画は沢山ある。観たければ大阪や京都の映画館まで足を運ぶか、アマプラ配信を待たなければならない。
多くの場合、後者を選ぶ。
週6日フルタイムで働き、日曜日のお休みは小学生の娘2人とべったり過ごす。これが私の生きる道。
1時間かけて大阪に行き、2時間映画を観て、また1時間かけて帰るのは、どう考えても無理ゲーなのだ。

マイスモールランドが観たい。
絶対に無理なんだろうけど、公開劇場とスケジュールだけでもチェックしておこうか。そう思い、公式サイトを開く。
いや待て、5/11(水)の午前中なら仕事を空けられる。そこで行けるんちゃうか、いや、頑張ればいけるやろ。これは神様が行っていいよって言ってるとしか思えへん。
行きたいコンサートもイベントもことごとく諦めてきた人生だった。その中でも、ほんの僅か掴み取れる幸せだけで満足してきた。
そして、そのほんの僅かなご褒美のひとつに違いないと感じた。水曜日はサービスデイなので、チケット代が安いというのが最後に背中を押してくれた。

前日の晩はそわそわして寝付けなかった。
当日の朝。6時に起きて遠足に行く次女のお弁当を作る。8時前には長女も次女も送り出して、そのまま自分もバスに乗る。最寄りのJRの駅まではバスで10分220円。そこから大阪ステーションシネマのある大阪駅まで40分560円。
映画館に着きチケットを購入して、売店でカフェラテを買う。席に着いた時にはちょうど、公開前の映画の宣伝たちが始まるところだった。
メイクをする時間が惜しくてアイメイクをしなかったのが功を奏した。自分でも引くくらい泣いたので、マスカラなんてしてたら、文字通り悲惨な目になっていた。

2時間の映画を観た所でスマホの電源を入れる。学校からお知らせが届いていて、遠足が少し長引いている事を知る。
よっしゃ、都会でお昼食べて帰れる!
映画の内容からすると、ラーメンを啜って帰りたい所だったのだが、大阪ステーションシネマがあるフードフロアのラーメン屋が「神座」という、奈良で1番メジャーなラーメン店だったので、すっかり萎えてしまった。
子どもと一緒に入る機会が無く、なおかつお一人様でも入りやすい店、それは美味しい蕎麦屋。
お値段は高めで、静か。提供時間が比較的早く、今の私にはこれ以上のチョイスは無かった。
美味しい美味しい1100円の山かけ蕎麦を啜り、家路に着く。
朝と同じく1時間780円かけて帰る。

家に帰り着いたのは午後14時頃。
在宅ワークをこなしていると、ほどなくして遠足帰りの次女が帰宅。
その30分後には長女も帰宅してきた。
洗濯機を回している間に3人で夕食の買い出しにスーパーへ行く。
映画の内容をズルズルと引きずったままの私は、こうして家族で過ごす些細な日常がいかに幸せかを実感して、それだけでまた胸が詰まる。
そんな事知らない2人はまたしょーもない事でケンカを始める。

映画一本観るのに4時間、交通費1500円、映画のチケット代とお昼代合わせたらそれはもう、ちょっとした日帰り旅行なのである。
映画鑑賞に対するハードルが高いことを嘆くつもりは無い。そんな生活環境を選択したのは他でもない私自身だ。
だからこそ映画館に行けた事にとても満足しているし、映画の内容が良かったことで無理ゲー攻略に踏み切った自分の決断を肯定できた。

さて次は子どもたちと近所の映画館に、アニメでも観に行こうかな。

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