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『家康謀殺』文庫化記念特集【人間発電所日誌】第一〇八号

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〓〓今週の人間発電所日誌目次〓〓〓〓〓〓〓
1.はじめに

2. 『家康謀殺』文庫化記念インタビュー
①共通するテーマは「雑説(情報)」
②ハリウッド映画的なダイナミズム
③史実と創作との兼ね合い
④ミステリ・テイストの表題作
⑤「真の忠義とは何か」を追求したラスト

3. おわりに

4. お知らせ奉行通信
新刊情報 / イベント情報 / Voicy・ラジオ出演情報
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1.はじめに
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 まだまだ春の息吹は遠そうですが、早くも花粉が飛び始めているようですね。私も花粉症なので、いつも春になると憂鬱です。

 ここのところコロナの第六波がひどかったので、スポーツジムにも1/27~2/13の間は行かなかったのですが、ようやくピークアウトし始めたので、14日と15日は行ってきました。それまでは早朝ウォーキングで運動不足を補っていたのですが、やはり水泳はいいですね。終わった後のサウナも気分爽快です。しかしまだまだ油断はできません。コロナにだけは感染したくないので防戦を続けます。

 さて今回の2月22日、いよいよ『家康謀殺』文庫版が発売されます。今回は「『家康謀殺』文庫化記念特集」として、単行本発売時にカドカワのPR誌「本の旅人」に掲載されたロング・インタビューを短縮版にして再掲載します。

 この連作短編集は私の集大成的なものと言ってよく、戦国時代の大きな戦いを舞台に、様々な人々の視点から描いたものです。しかも趣向を凝らし、それぞれの短編に小説ジャンルのテーマを設けました。

『雑説扱い難く候』ピカレスク
『上意に候』純文学的テイスト
『秀吉の刺客』アクション
『陥穽』ハードボイルド
『家康謀殺』サスペンス
『大忠の男』感動作
『ルシファー・ストーン』伝奇ロマン

独立性の高い短編集は、趣向が似通った作品を並べないのがコツですが、今回は見事にばらけることができました。それゆえいつもの連作短編集とは、また違った印象を持たれることと思います。解説は安部龍太郎氏です。作品の本質をうがつ見事な解説をいただきました。

また単行本の時は、電子のみのボーナストラックだった『ルシファー・ストーン』を特別収録しております。こちらは金属恵比須が見事なメタルの名曲にしていただいたので、ご存じの方も多いと思われます。

では、インタビュー本編に入りたいと思います。


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2. 『家康謀殺』文庫化記念インタビュー
①共通するテーマは「雑説(情報)」
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──『家康謀殺』は戦国時代を舞台にした短編集です。年代順に並んでいることもあり、天下取りをめざす権力者とその周辺の人たちの物語として連作的に読めますね。

伊東:連作短編集を書く場合、テーマ、時代、舞台などの縛りは、もっと強くするんですが、今回は戦国時代の合戦を舞台にした人間模様を中心に、比較的縛りを弱くし、自由に筆を振るいました。不定期掲載の短編集だったので執筆順はランダムですが、本にする時に年代順に並べ替えました。と言っても長いスパンの物語もあるので、多少の前後はあります。
(作者注 : 『ルシファー・ストーン』は特別収録作品なのでラストに入れました)

──六作品読んでみて、浮かび上がったキーワードは雑説(情報)です。

伊東:雑説に惑わされる人々というテーマは、最初に書いた「上意に候」の構想を練っている時に思いつきました。戦国時代には、真偽定かならぬ情報が飛び交っていました。現代と違って情報を摑む手段も限られています。そうしたことから、錯綜する情報に翻弄される人たちの人間模様が浮かび上がってきます。

──最初の「雑説扱い難く候」は、キーワードそのものがテーマの作品です。雑説をうまく使って出世した男・簗田広正と、すべてを失った男・佐川景吉。対照的な二人が登場します。

伊東:雑説によってのし上がった男が、雑説によって滅ぼされていく。雑説が有効だと知っているがゆえに、それを逆手に取られるという物語になります。この一編だけで、戦国時代の権謀術数の凄まじさが分かると思いますが、このくらいの駆け引きや騙し合いは、日常茶飯事のように行われていたと思います。

──桶狭間の戦いで、信長がなぜ今川義元を奇襲できたかという裏話も描かれています。

伊東:『信長公記』によると、簗田広正は桶狭間で大功を挙げたとされています。今川義元の動きを信長に知らせた人間がいなければピンポイントで桶狭間山を攻撃できるはずがないので、地元の土豪の簗田広正が、何らかの形で関与したのは間違いないでしょう。もちろん、その雑説の価値を認めた信長もたいしたものです。そして広正は出世の階を登り始めるわけですが、そこには足蹴にされた男の復讐劇が用意されていたわけです。

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