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第六十六号 完全版「令和の時代に司馬遼太郎を読む」第三部(全三部)

*完全版「令和の時代に司馬遼太郎を読む」

第一部はこちらから

第二部はこちらから


〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓


1. はじめに

2. 「令和の時代に司馬遼太郎を読む」第三部
〔司馬作品の魅力〕

3. 「令和の時代に司馬遼太郎を読む」第三部
〔私の好きな司馬作品〕

4. 「令和の時代に司馬遼太郎を読む」第三部
〔令和の時代に読むべき司馬作品〕

5. 「令和の時代に司馬遼太郎を読む」第三部
〔令和の時代の歴史小説家が、
いかに司馬さんを克服していくか〕

6. 「令和の時代に司馬遼太郎を読む」第三部
〔最後に〕

7. おわりに / Q&Aコーナー / 感想のお願い

8. お知らせ奉行通信
新刊情報 / オンラインイベント情報 / その他


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1. はじめに

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こんばんは。伊東潤です。
『歴史奉行通信』
第六十六号をお届けします。


さて、拙著のファンの皆様に
ビッグニュースがあります。

あの源頼朝と北条政子を描いた
『修羅の都』の続編の執筆が決定しました。


タイトルは『夜叉の都』。
このタイトルは担当編集も一発OKでした。

連載媒体は電子書籍の
「別冊文藝春秋」です。
六月号から連載開始になります。
隔月刊なので偶数月の全8回で、
単行本は来年の11月に刊行予定です。
言うまでもなく2022年の大河ドラマ
「鎌倉殿の13人」を意識しての刊行です。

このドラマについては、
私もまだほとんど知りません。
知っているのはNHKの公式発表だけです。


元々、『修羅の都』には
続編構想がありました。
頼朝と政子の夫婦の物語から、
政子と頼家・実朝の親子の物語を書くことで、
ようやく鎌倉時代初期を描き切ったことになるからです。
すでに書き始めていますが、
続編的な位置付けの作品なので、
筆もスムースに進んでいます。


それでは、今回は司馬さんを語る第三部です。

『修羅の都』


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2. 「令和の時代に司馬遼太郎を読む」第三部
〔司馬作品の魅力〕

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それでは司馬作品の魅力とは、
どこにあるのでしょう。


一つ目は「語り口の工夫」です。
物語に入りやすい語り口の工夫こそ
司馬作品の真骨頂です。
シリアスなシーンの合間でも、
たまに深呼吸をするように、
里謡や和歌などをうまく挿入しながら
読者にストレスが掛からないようにしているのがさすがです。


二つ目は「柔軟な考え方と豊かな表現力」です。
「これはこうだ!」と言い切らず、
「こうかもしれないな」
「いや、もしかしてこうなんじゃないか」
といった感じで、
あえて読者と共に考えるような雰囲気を作っていき、それによって
「自分は偉い人ではなく、
読者と変わらぬ目線にいる」ことを
うまく醸し出しています。
概して歴史作家は偉そうな書き方を
してしまいがちですが、
司馬さんはそれをわきまえた上で、
あえて上目線に立たないための工夫しているのです。


三つ目は「博覧強記」です。
司馬さんの知識は無尽蔵ですが、
十を知って一を書くというのは、
すべてを知り尽くしている人にとって
実に難しいことです。
その誘惑に打ち勝ち、
「十を知っても一しか書かない」ところが凄いのです。


四つ目は「人間に対する深い洞察力」です。
なぜ司馬さんの描く人物には、
あれほどのリアリティがあるのか。
それは司馬さんが新聞記者だったことで、
様々な人間の類型に
出会ってきたこともありますが、
やはり司馬さんが、
相手に対して興味や関心を持って
話を聞ける人だったからだと思います。


様々な人に会い、
「この人はどんな人だろう」
「何を考えているのだろう」
「どうすれば、いい話を引き出せるだろう」
などと思案しつつ、
人間洞察力を磨いていったのでしょうね。


五つ目は「人間に対する優しい眼差し」です。
司馬さんという人は、
つくづく人間好きだと思います。
例えば悪役や敵役であっても
魅力に溢れています。
司馬さん以前の歴史小説に出てくる悪役は、
徹底的に悪に描かれており、
現実味がありません。それを司馬さんは、
やむにやまれず悪事に手を染めてしまう
人間の弱さや哀しさを
描き出していったのです。


六つ目は
「斬新な歴史への視点と歴史解釈」です。
司馬さんは「実は、こうだったんじゃないか」
という歴史解釈を随所にちりばめていますが、
そうした斬新な解釈を、
「俺が見つけたんだぞ!」と声高に叫ばず、
さりげなく文中に滑り込ませているのが
恰好いいのです。


七つ目は
「読者の肚に落とすための方便のうまさ」
です。
いわゆる「そうだよね」といった共感を
読者に植え付けていくのが実に巧みです。
これは「英雄たちの選択」における
磯田道史氏の奇抜な表現や
「たとえ話」に引き継がれています。
これは不思議な技で、読者や視聴者は
「すごく肚に落ちた」気がするのですが、
少し経つと、
何のことだか分からなくなるのが味噌です。


八つ目は「文章のリズム感」です。
読みやすい平易な文章で書かれていて、
読み始めたら止まらない。
これには秘訣があります。
実は、司馬さんのバックグラウンドには
漢文の呼吸があるのです。
おそらく若い頃、森鴎外や夏目漱石といった
漢文の呼吸で書かれた文豪の作品を
読み込んでいたのだと思います。
つまり漢文の呼吸で書いているから、
リズム感があって読みやすいのです。


九つ目は、
「思想や価値観に普遍性があるので、
時代の移り変わりにも劣化しない」
点があります。
司馬さんは「人に対する優しさ」
「歴史や伝統の大切さ」
「志を持って生きることの尊さ」などを、
様々な人物を通して繰り返し語らせるので、
読者は次第に、
司馬さんの思想や価値観に共感していくのです。
それは戦後の民主主義教育を受けてきた
われわれにも受け容れやすいものです。
読者が坂本竜馬を愛するのは、
こうした秘訣があるからです。

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3. 「令和の時代に司馬遼太郎を読む」第三部
〔私の好きな司馬作品〕

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続いて私の好きな司馬作品について
語ろうと思います。


私の場合、北条早雲が好きだったので、
『箱根の坂』の文庫版が出た時は
即買いしたのを覚えています。
『箱根の坂』との出会いは、
1984年頃だったと記憶していますが、
寝る間も惜しんで読みました。その後、
30歳、40歳、50歳と4回も読んできました。

『竜馬がゆく』は15歳の時に出会い、
夢中で読みました。
以降、25歳、35歳、45歳と、5が付く年齢の時に読み返していました。

こうして、それぞれ10年に1回ずつの割合で
『箱根の坂』と『竜馬がゆく』を
読んできたことで、自分の人間形成が
できたと思います。


『竜馬がゆく』からは、
志を持って生きることの大切さや、
男はこうあらねばならないということを学び、
『箱根の坂』からは、
理想やビジョンを持つことの大切さや、
人の上に立つ者の覚悟を学びました。
この二冊は、
今でも自分のバイブルとなっています。

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