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第六十三号 完全版「令和の時代に司馬遼太郎を読む」第一部(全三部)

〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓


1. はじめにーー誉田龍一さん追悼

2. 完全版「令和の時代に司馬遼太郎を読む」
第一部〔歴史小説の定義と縛り〕

3. 完全版「令和の時代に司馬遼太郎を読む」
第一部〔歴史小説の評価基準〕

4. おわりに / Q&Aコーナー / 感想のお願い

5. お知らせ奉行通信
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1. はじめにーー誉田龍一さん追悼

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いよいよ春ですね。
しかし今年はコロナ・ウイルスの影響で、
例年ほどは観光地などに華やいだ
雰囲気はありません。
それでも桜を見ていると、
何か明るい気持ちになりますね。


私は専門家ではないので
コロナの件についてはここまでとしますが、
一人ひとりの細かい注意によって
ウイルスの蔓延は防げると信じています。
これも人類への試練と思い、
一致団結して戦い抜きましょう。


さて悲しいお知らせがあります。
3/9の朝、
伊東潤コミュニティでもおなじみだった
作家の誉田龍一氏が急逝しました。


これまで読書会にも頻繁に顔を出し、
ついこの前の2/15の読書会にも
いらしたばかりだったのですが、
残念ながら逝去のお知らせをせねば
なりません。


死因は心不全でした。
心不全は心筋梗塞と違い、
体のあちこちに様々な症状が出るため、
自己診断してはいけない病気だと
聞きます。
彼の場合も3/8の夜に
お母様と電話で話した折、
「下腹が痛む」と言っていたそうです。
それで病院に行かず、
部屋で寝ていたところ、
数時間後に心臓が止まるという
悲劇に見舞われたようです。


こうして彼を送り出してから
二週間余が経過し
ようやく気持ちの整理が
ついてきたところです。
今思うのは、
「もう少し踏み込んで健康管理面での
注意をしてあげられなかったか」
というものです。
彼同様、私も太っているので、
「私なんかが注意するのはおこがましい」
という気持ちがあったのも確かですが、
しかし私の場合、30年近くにわたって
週に3~4回はスポーツジムに
通っているので、
健康管理面でのアドバイスは、
してもよかったのではないか
と思っています。


今は、ひたすら
「彼の生き様から学ぼう」としています。
「誉田君だったら、こんなことは言わない」
「誉田君だったら、こんな決断はしない」
といったことを常に考えることで、
彼は私の中で生き続けると信じています。


誉田龍一氏の詳細プロフィールは
こちらをご覧ください。

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さて、そろそろ本題に入りましょう。
今回は2019年の8月7日に
姫路文学館で行われた
講演の抄録を掲載いたします。


なおメルマガ読者の皆様は、
第48号の
「令和の時代に司馬遼太郎を読む」
と内容が重複していると
お思いかもしれませんが、
あれはパワーポイントの資料を
文章にしたもので、
少し分かりにくい部分がありました。


そう思っていたところ姫路文学館から
講演議事録が送られてきて、
講演会の内容を文章にして
会報に載せたいと言うので、
議事録に手を加える形で整理しました。
よりいっそう理解が
深まると思われますので、
三回シリーズで取り上げることにしました。


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2. 完全版「令和の時代に司馬遼太郎を読む」
第一部〔歴史小説の定義と縛り〕

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ドイツの鉄血宰相ビスマルクは
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
という名言を残しました。
つまり歴史は教訓の宝庫であり、
われわれは歴史から得た教訓を
次の世代に伝えていかねばなりません。


とは言っても、
「歴史の勉強は苦手」という方は、
まだまだ多いのではないかと思います。
最近は歴史研究本を読む方も増えましたが、
それでも一般の方には歴史研究本の
ハードルは高いはずです。
そこで楽しみながら歴史を学ぶことができ、
時には研究本への橋渡しの役割を担う
歴史小説の存在意義は、
これからも高くなっていくのではないかと
思っています。


とくに司馬遼太郎氏の作品群ほど
「歴史を楽しみながら学べる」
「歴史から教訓を汲み取れる」
歴史小説はないので、
私のような立場の人間が、
次の世代にも伝えていかねばならないと思っています。


前置きはここまでにして、本題の
「令和の時代に司馬遼太郎を読む」
に入らせていただきます。
なおメルマガでは自己紹介などは省略します。

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〔歴史小説の定義と縛り〕

歴史小説と時代小説の違いを
意識して読む方は少ないと思いますが、
この違いを意識して読むことで、
また違った楽しみ方もできると思います。


時代小説とは主に
江戸時代という舞台設定だけ借り、
物語を自由に展開したものです。
一方、歴史小説とは歴史上の事件や
人物を史実に沿って描いたものだということを、
最初に認識して下さい。
最近は、架空の人物を主役に据えた
江戸時代以外の作品も
歴史小説と呼ぶ傾向がありますが、
それは時代小説です。


今日は時代小説ではなく、
歴史小説について語っていきます。
そこで覚えておいていただきたいのは、
歴史小説には三つのハンデがあることです。


第一に歴史小説の場合、
「物語のプロセスが史実に縛られている」
点です。
つまり坂本龍馬、西郷隆盛、勝海舟といった
幕末や近世の人物を主役に据えると、
彼らの行動や事績がデイリーで
ほぼ分かっているので、
基本的に彼らを自由に動かすことが
できなくなります。


第二点として、歴史小説には
「読者は結果を知っている」
というハンデがあります。例えば、
「信長は本能寺で殺される」
という厳然たる史実を前提として
小説を描いていかねばならないのです。
これを逸脱すると、
伝奇ロマンやファンタジー小説となります。


この第一点と第二点からお分かりのように、
歴史小説はミステリーのように
「次にどうなるんだろう」という
「ドキドキ感」が希薄で、
読者を物語に引き込むことが難しいのです。


第三点として、
実在の人物を取り上げるからには、
キャラクターの造形にも制限があります。
陽気で気さくな信長を描きたくても、
書状や事績を調べれば、
全くそうした様子はありません。
それを無理に描いたとしても
コメディにしかなりません。
つまりある程度、
歴史上の有名人物のキャラクターは
決まってくるのです。


ということで歴史小説は、
「歴史の流れに縛られる」
「読者は結果を知っている」
「キャラクターを自由に造形できない」
という三点が
ハンデキャップになっているわけです。


今の若い方たちは
無意識に小説を読んでいますから、
こういう歴史小説のハンデキャップを
意識していないと思います。
そのためハンデをハンデとして認識しつつ、
ほかのジャンルに負けないほどの
面白さを出していかねばならない。
それが歴史小説に課された宿命なのです。

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3. 完全版「令和の時代に司馬遼太郎を読む」
第一部〔歴史小説の評価基準〕

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〔歴史小説の評価基準〕

では歴史小説の評価は、
どのようになされるべきでしょうか。


一つ目は、
しっかり史実をトレースできているかどうかです。
史実とは「一次史料に記してあるもので、
まず間違いのないもの」のことを言います。
ただし、これだけでは情報が少なく
小説を書くのは困難です。


そのためには二次史料と呼ばれる
軍記物などを参考にしなければなりませんが、
それを利用するには注意が必要です。
そこで大切なのが定説です。
定説とは、「権威ある先生が提唱している説で、
確固たる裏付けがあるもの」のことです。
これらをしっかりフォローして
初めて独自の解釈が導き出せ、
それを物語に落とし込んでいけるのです。
こうしたプロセスを踏んでいるかどうかが、
まず大切です。

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