19の恋

先日3時間かけて書いた記事が消えた。
この話を書くな、忘れろ、と言われてる気にもなった。
悔しいから何が何でも書いてやろうと思う。

もう10年も前になってしまった。私が19歳の時にした恋の話をしよう。

「あなたは大恋愛をしたことがあるか?」

こう聞かれたら私は迷わず「はい」と答える。

19歳当時、学生だった私はダイエットにも成功し、日々派手なメイクと露出した格好で気だるい顔して学校に通っていた。家が厳しく家計が大変だったこともあり”中途半端なギャル”だった。ハイヒールにホットパンツ、ミニTを着ても髪は黒髪ロング。ギャルに流行っていたつけまつげの重ね付けは似合わなあった。学校の中でも友達も少なく浮いていたと思う。週6でバイトをして少し家にお金を入れながらも好きな服や化粧品を買うのが好きだった。日課はネットサーフィンで深夜が活動時間帯で、その日も何気なくSNSを覗いてた。同じアラサーなら馴染みがあると思うが、この時mixiというSNSが流行っていた。

私は車やバイクが好きで、当時そのコミュニティの書き込みを読みながら、みなさんご自慢の車たちを眺めていた。時間は深夜2時を回っていたと思う。
「まだ寝ないの?速い車が好きなの?」
唐突にその人からのメッセージが届いた。
普段だったら絶対返事をすることのない、目的も脈絡もないメッセージになぜか私は惹かれた。いや、暇だったのだろう。
「そろそろ寝ますよ。そちらも寝ないんですか?車は全般好きですけど、特にスポーツタイプが好みですね。」
こう返信をして、文字通り寝てしまった。翌朝、彼からメッセージが届いていた。この日から何気ない会話が繰り返される。会おうと言い出したのは彼の方だった。

5月の中旬、まだ少し風が冷たい晩だった。
パチンコ屋の駐車場で携帯を触っていると、住宅街では迷惑極まりない排気音と共に彼がやってきた。スポーツカーだとは聞いていたけど、メルセデスの名品、R129をオープンにして現れた彼に少々驚いた。
「どうも。会社の残業してる人たちに差し入れたいんだけど付き合ってもらえるかな」そう彼が告げて、私の答えを聞き終わらないうちに車を走らせた。
私は、彼の言動ではなく”瞳の奥の冷たさ”に意識を奪われた。ぼーっと(この人なんでこんなに冷え切った目をするのかな)なんて考えてたらスタバに着いた。ドライブスルーで彼はドリンクを6つも頼んだもんだから助手席の私は紙袋を抱きしめながら揺らさないようにそれを抱えた。
ほどなくして職場に着き「悪いけど待ってて」と彼は言い残し、私は安室ちゃんが流れるオープンカーの助手席に取り残された。
「お待たせ、じゃあ行こっか。速いの大丈夫なんだっけ」と聞かれ「あ、はい。大丈夫です。」と答えると彼は夜の高速道路にハンドルを切った。

この時は高速道路が一時的に一律1000円だったので、気軽にドライブで高速を使うことが多かった。彼も同じタイプかと思いきや、高速に乗る少し前の交差点でグローブを着け、何やらいろんな機械のスイッチを入れだした。「これはバットモービルか?」とアホなことを考えた瞬間、車は一気に160km/hを出していた。黒髪が夜風に流されて、BGMは宇多田に変わっていた気がする。彼はmomoのハンドルを握りしめラインをとっていく。こんな刺激的なドライブに気持ちは高揚したが、私はずっと彼の横顔を見ていた。決して凄くイケメンではない。ただ、彼はとても綺麗な顔をしていた。パーツの並びがよく横顔が本当に素敵だった。その横顔から読み取れるだけ彼の感情を読み取ろうとしたが、ちっともわからなかった。

しばらくして彼はSAに車を止めた。夜風が寒かったろう、とホットコーヒーを買ってきてくれた。お互いに車を降り、車のドアにもたれかかりながらコーヒーを飲んだ。身長は175cmくらいだろうか。ジーンズにピタッとした黒Tがとてもよく似合っている。シンプルだけど、彼の素材の良さを最大限に引き出してくれていた。体は鍛えているらしく無駄な肉などどこにもなかった。鍛えられた胸板と腕がとてもたくましく、細身ながらにも男性らしさを感じさせてくれた。今思い消してもここまでかけるのだから、当時の私は彼をとても素敵な人として見ていたと思う。

お互いのことを少しづつ少しづつ話していった。今何をしていて、どんなことが好きで、今までどんな恋愛をしてきたのかも。
私はこの時、1年半かけて口説いてくれた15歳年上の彼と半年付き合って別れたところだった。遠距離が寂しくて仕方なくて泣きながらも私からお別れしたんだと彼に話した。
一方彼は少し恋愛のブランクがあるようだった。高校から社会人5年目あたりまで同じ人と付き合っていて、その彼女は英国の大学を卒業し新聞記者をしているバリキャリと呼ばれるような人だった、と。その後一人付き合ったけどここ数年は恋愛してないんだ、と少し伏し目がちで言った。
私たちは持っていたコーヒーをすっかり飲み干しており、時計を見ると22時半を回っていた。帰りは安全運転で私を自宅まで送ってくれ、門限の24時まではあと30分ほどしかなかったのだが、困ったことにお互いもう少し話したい気持ちだった。コンビニで飲み物を買って待ち合わせた駐車場に戻った。

駐車場に戻った彼の口から飛び出した口説き文句は、他の男のどれとも違っていた。
「junちゃんはさ、凄くオーラのあるこだね。絶対将来バリバリ仕事をする人になると思うし、いろんな人が周りに集まるカリスマみたいな人になるだろうね。」こう言われて驚いた。学校では浮いている方だし、友達もとても少なかった。その私を捕まえて、そんなことを言ってきたのは後にも先にも彼だけだ。ここから先は、もうひたすら褒められた。声を褒められ、髪を褒められ、身長が高くて足が長いことを褒められ、おきまりの顔を褒められ・・・。すっかりいい気分になった私も彼を褒めた。しかし本心からイケメンだとは思わなかったので、それだけは言わなかったけれども・・・

車を挟んで話をしていたはずが、いつの間にか彼は私の隣にいた。「いい大人が恥ずかしいんだけど、会って数時間なのに俺はjunちゃんのことがとても好きだ。大切にするから付き合ってほしい。」「うん!」子供だった私はその場で返事をし、彼に抱きついた。とても優しいキスをして、彼は私の頭を撫でてくれた。

私たちのはじめりの夜だった。

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