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【文字起こし】井上さくら 横浜カジノ補正予算 反対討論 2019年9月20日

2019年9月20日、横浜市会でカジノ補正予算が自民・公明の市議全員の賛成によって、賛成が過半数を上回り、可決された。
この議決前、無所属・井上さくら市議はカジノ反対の立場で討論。井上市議は5年前(2014年)から議会でカジノ誘致の問題を取り上げ、今回のカジノ補正予算を審査する政策・総務・財政委員会の委員でもあったため、カジノ誘致に関する多くの問題点が15分間の反対討論には盛り込まれていた。
本記事では、この反対討論を文字起こしする。

*当日のノーカット全編の映像をYoutubeで公開中

<表記の注意事項>
・井上さくら市議の発言をそのまま書き起こす
太字は筆者が重要と判断した箇所
・用語解説や背景知識が必要な場合は * で補足説明する
・議場の様子や井上市議の様子は適宜( )で補足説明する

はじめに

井上さくらでございます。
わたくしは、今回、林市長により提案された9月補正予算案のうち、IR統合型リゾート推進事業に関係する一般会計歳入歳出予算補正と予算外義務負担(*1)の設定に反対し、あわせてIR・カジノ導入に反対する立場から出された請願

「横浜にカジノをつくらせない・つくらない決議について」
「カジノ・IR誘致に反対する決議について」
「IR(カジノを含む統合型リゾート)の誘致反対、住民投票等の実施及び山下ふ頭の新たな活用について」
「令和元年度横浜市一般会計補正予算におけるIR推進事業等の削除について」

の計4件の採択を求めて討論いたします。

*1 予算外義務負担:将来的に支払わなければ行けない義務的経費

林市長は先月22日、それまで白紙と繰り返してきたカジノ・IRについて、突如「実現に向けて」と誘致表明を行い、今回の補正予算案の提出を発表しました。(*2)

*2 林市長の誘致をめぐる発言については、筆者の記事「横浜市長カジノ答弁、その変遷を議事録から辿る」を参照ください

しかし、これまでの議論により、市長が会見で判断を導いた3つの要素。

1.経済効果
2.懸念事項
3.市民のご理解


この全てが崩壊をしたと言う他ありません。

崩壊した誘致の根拠1 経済効果

最初の経済効果では、カジノ・IRの必要性を訴えるために作成した横浜での観光客の日帰りデータの誤魔化しがありました。(*3)
また、「海外からの集客、インバウンドの取り込みが必要だからIR・カジノだ」と言いながら、集客見込みの66%〜79%は国内客(*4)だということも明らかになりました。

*3 観光客データの誤魔化しについては、筆者の記事「横浜カジノ誘致の根拠データに「作為」発覚」を参照ください

*4 集客見込みの記載は市長記者会見資料 P12「IRの効果」を参照ください

IRの目的は日本人をターゲットにしたカジノ営業であり、インバウンド取り込みは後付けの理由にすぎません。

さらに、経済効果として列挙された数字から、数々のまやかしが見えてきました。
そもそも、これらの数字はIRカジノ事業者がつくったものであって、横浜市として責任を持つ数字ではないとのことであり、これほど重大な判断の理由としながら、無責任極まりないことです。(*5)

*5 経済効果の信ぴょう性については、筆者の記事「横浜カジノ補正予算案。その異常さを物語る12の事実」No11〜12を参照ください

その上で、例えば、市長が会見で「IR区域内での消費額4500億〜7400億円」(*6)という大きな数字を出しました。

*6 IR区域内での消費額の記載は市長記者会見資料 P12「IRの効果」を参照ください

今年、横浜市が発表した観光消費額は昨年1年間、横浜市全体で3600億円です。今回出されたIRの効果見積もりでは最低でもこの市内全域の消費額を軽く超え、最大ならその倍を1つのIRだけで稼ぎ出すというものです。

本当でしょうか?

さらに問題なのは、その大半をカジノでの消費として見込んでいるということです。今回の補正予算を審議した常任委員会でカジノでの消費をいくらと見ているか示す資料を求めましたが、結局提出されませんでした。しかし、横浜市がモデルとするシンガポールに倣えば、消費額の8割はゲーミング(*7)、カジノによるものであり、つまり、今回の効果見積もりのうち、年間3600億円〜6000億円もの金額が横浜のカジノで消費されるという計算です。

*7 ゲーミング:カジノゲーム、ギャンブルを意味する

カジノでの消費額とは、お客の賭け金の総額から勝った分の返金額を差し引いた分。つまり、お客が負けたお金の総額です。年間4000億〜6000億円、お客から巻き上げるということです。今の市域全体の消費額3600億円を優に超える金額を博打で負けさせて巻き上げるという話です。
山下ふ頭にカジノIRが出来たからといって、日本人の可処分所得(*8)が増えるわけではありません。

*8 可処分所得:給料から税金や社会保険料などを差し引いた手取りの収入。つまり、自分の意思で使えるお金。

カジノが無ければ中華街や赤レンガで使っていたかもしれない観光費用を割安な料金と派手な演出でIRに吸い寄せ、その集客の約3割前後を博打に通わせる。そこで負けさせて、取り上げてしまうという経済です。

ギャンブルは、距離が近いほどハマりやすいことが分かっており、この負けさせられるお客さんの多くは横浜市民かも知れません。観光のための費用だけならまだしも、負ければ取り返そうと生活費や子供の教育費まで手をつける。こういう例がたくさん出てきます。
負けこんだお金が現在の横浜市全域の観光消費を上回る。そんな街に横浜をしようとしてるんでしょうか。
こんなことで観光の相乗効果、市内経済への波及、まして持続的な成長などあるわけがありません。

市長が「財政への危機感」と言って強調するIRの増収効果も同様です。
横浜市の増収効果、年間820億円〜1200億円(*9)と効果を謳っていますが、昨年度の法人市民税539億円をはるかに超える税収をたった1ヶ所のIRで稼ぐと言います。

*9 増収効果の記載は市長記者会見資料 P12「IRの効果」を参照ください

堅実な法人市民税を超える税収をカジノ・IRひとつで転がり込むんだという、この試算。もしこれが本当なら、横浜はもうカジノ・IRなしでやっていけない都市に変貌してしまいます。横浜という都市自体が、先ほどもありましたけども、カジノ依存症になってしまうわけです。カジノで遊ぶ客が減ったら市の財政に響くから、「横浜に来て、ぜひ賭博で遊んでください」と行政が宣伝するような都市になってしまいます。もし、カジノの経営が傾けば、なんとか事業者に逃げられないように市が財政負担をしてまでも支えざるを得なくなります。
そして、その原資は、結局またカジノに行って負けて生活破綻をする、市民の暮らしを破壊する。それを原資にして、このカジノを支える。とんでもないことじゃないですか。

崩壊した誘致の根拠2 懸念事項

市長が会見で示した、IRを実現する必要があると判断した3要素の2番目、懸念事項。
これに至っては、その懸念事項をどう検討したのかという資料を常任委員会として提出してもらいましたけども、その資料はたった9行でした。

「これから検証していきます」
「これから明らかにしていきます」

のみでした。(*10)

*10 懸念事項については、筆者の記事「横浜カジノ補正予算案。その異常さを物語る12の事実」No8〜10を参照ください

今までは一切、この懸念事項についての検討を行っていなかったということを明らかにしています。
ギャンブル依存症の増加や治安悪化、経済的困窮者の救済、賭博の奨励による青少年への教育的な悪影響、観光客の囲い込みによる周辺消費の悪化。人手不足の中での雇用の奪い合いなどなど、懸念事項はたくさんあります。
それなのに、どのような事項があり、どう検討しなければならないかということさえ何も考えていないということでした。
依存症など社会的な負の影響の他に、山下ふ頭への交通アクセスやインフラ基盤整備などの費用、経営難になった場合のリスクなど。直接的なコストやリスクについても全て「これから検討」という答弁しか返ってきませんでした。

(叱りつけるように)
ふざけんじゃないよ!

・・と言いたくなります。
(「そうだー」と場内が沸き上がる)

そんな重大な政策の決定が、こんな形で決められて良いものでしょうか?

崩壊した誘致の根拠3 市民の理解

3つ目の要素。市民のご理解に至って、全く得られていないことは明らかです。

中期計画のパブリックコメント、9割が反対意見でした。

今年6月下旬に市内4ヶ所で開いた市民説明会。
会場発言は全て「カジノ・IR反対」でした。

8月22日の市長会見の日には多くの市民が駆けつけ、市庁舎の周りでカジノ反対の声をあげ、(林市長が座る右側に顔を向けて)市長は結局、出てこられなかったけれど、なんとかして市長に署名を直接届けたいという皆さんが市長室前に詰めかけました。(*11)

*11 当日の市長室前での攻防はIWJ撮影の動画を参照ください

今日も正午からカジノ誘致に反対して市民が市庁舎を取り囲み、見事に庁舎を取り囲むことができたと聞いております。今日も傍聴席満席になるほど皆さんが見守っています。(*12)

*12 当日の市庁舎取り囲み(人間の鎖)は参加者が撮影した動画を参照ください

横浜へカジノ導入してはならないという強い気持ちがひしひし伝わってきます。
市長は「IRの中身を説明すれば市民の理解が進む」と言いますが、

(林市長が座る右側に顔を向けて)
今、十分に理解した上で大反対していることを市長には分からないんでしょうか?

(場内から拍手がわき起こる)

異常な意思決定過程

ここまで、林市長がIRの実現が必要とする判断を導いたとする3つの要素全てが崩壊したことを述べましたが、委員会審議でさらに明らかになったのは意思決定過程の異常さです。

市長は8月の会見で決断した時期を問われ、「7月末」と答えていますが、それが7月31日に副市長たちが市長に対して行った市長説明の場であったことが明らかになりました。この市長説明の際の資料を委員会で求めたところ、8月22日の市長会見で使用された「IRの実現に向けて」というパワーポイントの資料、事前記者レク資料、IR推進事業の補正予算と全て揃っていました。(*13)

*13 誘致を前提とする資料が先に存在していたことについては、筆者の記事「問題だらけの横浜カジノ補正予算案。明るみになった12の事実」No3を参照ください

わずか1週間前の7月24日の会見で市長は「IRについては市として全く判断しいない状況」だと答え、「補正予算をどうしようという考えはない」と従来の白紙の立場を繰り返していた(*14)のに、この時すでにカジノのための補正予算案は作成され、「IR実現に向けて」という資料作りが進んでおり、翌日、7月25日の第9回IR検討プロジェクト会議ではIR・カジノ導入を前提として、市長発表の日時の検討が行われています。

*14 当日の市長発言は筆者編集の動画(1分36秒〜2分17秒)を参照ください。

これはいったい、どういうことなんでしょうか?

横浜市の政策方針の検討体制。これはホームページでも明記しているように、「横浜市経営会議」と「横浜市専門委員への諮問」の2つです。
しかし、今回のIRカジノを誘致決定するにあたり、この会議のどちらにも、まったく、一度も、かけられておりません

今回、唐突に発表された「IR実現に向けて」という方針は中期4ヶ年計画の「IR検討」という段階を明らかに逸脱しており、またカジノなしで成立する前提の「山下ふ頭開発基本計画」(*15)にも反しており、港湾計画による規制も無視しております。

*15 2015年策定の「山下ふ頭開発基本計画」は横浜市Webサイトを参照ください

こうした様々な上位計画を覆す決定でありながら、なんと、正規の組織決定は何ひとつ経ていないんです。

とんでもないことです。

市長が決断した、7月31日の会議。
わずか15分です。
常任委員会でその議事録を請求しましたが、「議事録は存在しない」
提出された記録には、「上記について了承された」のみ。
市長の発言メモさえ無い。
「市長はいったい何を聞き、何を質問し、あるいは指示したのか」ということを聞いても、「メモが無いから分からない」(*16)

*16 市長説明の会議時間、議事録については、筆者の記事「問題だらけの横浜カジノ補正予算案。明るみになった12の事実」No4〜5を参照ください

(林市長が座る右側に顔を向けて)
林市長! こんなことで本当にいいんですか!?
(「そうだー」と場内から声があがる)

これでは、市民から選ばれた市長がいったい何を評価し、何を課題とし、カジノ誘致という重大な決断をしたのか、全く分かりません

この会議以前に用意されていた今回の補正予算案の作成過程を問おうと予算要求の決済文書を請求しましたが、これもなんと正式な公文書でありながら、日付の一切書かれていない文書しか出てきませんでした。(*17)

*17 日付が無い決済文書については、筆者の記事「横浜カジノ補正予算案。その異常さを物語る12の事実」No7を参照ください

(林市長が座る右側に顔を向けて)
本当に、横浜市役所は、一体どうなってしまってるんでしょうか?

もう市役所自体がどこかに乗っ取られてしまってるんでしょうか?

市長は一体、誰の方向を向いて、この決定をしてるんでしょうか?

山下ふ頭については、カジノ抜きの開発提案がこれまで基本計画を共同策定した港湾協会から出されているにもかかわらず、それを一顧だにしていません。
(*18)

*18 港湾協会の要望書への回答については、筆者の記事「問題だらけの横浜カジノ補正予算案。明るみになった12の事実」No2を参照ください

市長の公約違反

終始、カジノありきで物事を進めています。
まともな検討、正規の決定を一切経ておらず、意思決定のプロセスは全くのブラックボックスです。
本会議で市長に説明を求めた通り、今回の市長の行動は明らかな公約違反です。

(ひときわ大きな声で)
市民を騙して、市長選挙に当選したという他ありません!

(「そうだー」と場内が大きく沸き上がる)

「カジノをやる」と、もし今の通り「カジノをやる」と言って選挙をしていたら、今のその席に林文子さんは居なかったはずです。
それをよく分かっているからこそ「白紙」と言い通したんでしょう。
まさに、地方自治と民主主義を破壊する行為です。

不公平・不公正な委員会審査

先ほど、山下委員長(*19)が朗々と賛成討論をされましたので、委員会運営についても一言申し上げます。

*19 自民党・山下正人(青葉区選出)のこと。カジノ補正予算案を審査した政策・総務・財政委員会の委員長を務める

補正予算案が付託された政策・総務・財政委員会では、IRの問題を重要なテーマと考え、先月、参考人招致を行いました。招いた参考人は国会でもIR推進の立場から意見を述べており、「この参考人だけでは委員会運営として公平・公正とは言えない」と申し上げ、IRに反対の立場の参考人を招致することになっておりました。しかし、そのもう1人の参考人招致をする前に審議が打ち切られ、委員会採決がされてしまいました

こういう審査、そのものが不公平じゃないでしょうか?
不公正じゃないでしょうか?

委員会審査の過程で付帯意見が付けられたましたけども、その付帯意見は完全にカジノ導入を前提としており、なんの問題解決にもなりません。

カジノ賛成と言わずに当選した自民・公明の議員たち

先ほど、この予算に賛成の討論ありましたけども、今年4月の市議会選挙でこの議場にいる議員の誰が「カジノ賛成」と言って選挙に通ったんでしょうか?

誰一人、誰一人、選挙では「賛成」と言ってないじゃないですか!
(「そうだー」と場内が大きく沸き上がる)

今、この補正予算案を市議会の多数で成立させるなら、市民の重大な不信感がわたし達、市議会全体にも及ぶということを覚悟しなければなりません。

市長リコールの動き

今、市民の中で林市長のリコールに向けた運動が始まっています。
市長リコールの直接請求は同じ直接請求でも、住民投票制定の直接請求とは違い、法定数の署名さえ集めれば、必ずリコール投票をさせることが出来ます。
(*20)

*20 2つの直接請求の違いは、筆者のnote記事「一発リコールと二段階方式の比較」を参照ください

今日までの市長と市議会の、この市民意見を無視する振る舞いを見れば、市民が市長や議会に頼らない市長リコールという強い手段に出ようとするのは当然のことです。

横浜にIR・カジノをつくってはなりません。
市民を出し抜き、民意に反して、横浜にカジノを導入しようとする林市長はもう辞めるべきです。

(「そうだー」と場内が大きく沸き上がる)

カジノをやめさせるために、市民の皆さんには市長リコール運動を準備しようと申し上げて、討論を終わります。

(井上さくら市議、全ての討論を終え、前を向いて一礼。後ろの議長席を振り返り、一例。大きな拍手と歓声の中、壇上から降りる)


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更新履歴

2019/9/21 1:05 新規作成

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